少年“マオ“
深夜。山間部を走る一台の装甲輸送車。
エンジン音すらも抑えられた静寂の中、その車体は真っ黒な塗料で塗られ、まるで軍用車両のような威圧感を放っていた。
目的地は政府の裏ルートを使った研究施設。
積み荷は――少女ひとり。
車内はひどく冷たい。温度ではなく、空気そのものがどこか張りつめていた。
手には、、拘束具がはめられていた。
「これじゃアーシまるっきり犯罪者じゃん…」
移送されているのは、カジノのいたギャル。アヤネ。
迎えにきた運転手とは別にカジノにいた男2人が後部座席でギャルと同席していた。
「ねぇ、コレどこに向かってるの?」
アヤネの質問に黒縁メガネが答える。
「君は今から政府の特別医療施設に向かい検査を受けてもらう」
「何の検査よ、アーシそんなの要らない!」
「残念だが君に選択権は無い。これは政府の最重要プログラムだ。従ってもらう」
男の言葉を聞いたアヤネは諦めたように顔を伏せた。
輸送車が山間の曲がり道を抜けた先、巨大な鉄柵が姿を現した。
そこには監視塔が二つ、交互に睨みを利かせるようにそびえている。
柵の奥――霧に包まれるようにして佇む建物があった。
まるで山肌に直接埋め込まれたかのような、コンクリート剥き出しの無機質な塊。
窓は最小限、外壁には番号やマークすらない。
光はない。
あるのは、空気そのものを圧し潰すような沈黙と、ただならぬ閉鎖感。
アヤネが目を細めた。
「……なに、ここ……」
その瞬間、脳裏をざわりと撫でるような寒気が走った。
「ここ、絶対ヤバいって。中の様子は…」
⸻
視界が“研究所の中”に切り替わる。無機質な廊下の先、ガラス張りの監視室がある機材に囲まれたベット。拘束された少女。
無表情な医師が手術刀を持ち上げる。
白衣の男達「―― ――、―― ――」。
少女の体に刃が入っていく。
少女の瞳が涙を流しながら苦しむ姿
――
アヤネの心臓がドクンと跳ねる。
「なにこれ……なにしてんの……あたし、こんなとこ連れてこられたの……?」
次の瞬間、アヤネが拘束具を振りちぎろうと全身を暴れさせる。
ギャルの動きに驚いたように、黒縁メガネが一瞬たじろぐが男たちが押さえ込もうとする。
「放せッッッ!!アーシこんなとこ絶対行かないッ!!」
アヤネが視えた「少女」の姿が、まるで「自分の未来」に見えてしまったように狂乱していた。
アヤネはもう、どんな痛みも、どんな恐怖も感じていなかった。ただ目の前の現実に抗うことで、少しでも自分の未来を取り戻そうとしていた。地に押さえ込まれても、身体の奥底から湧き上がる怒りが彼女を突き動かす。その目は、狂乱とともに今の自分を拒絶していた
必死の抵抗も虚しく、アヤネは地に押さえつけられる。
「イヤだ。イヤ。こんなの……アーシの未来じゃない……こんなの、違うッ!!」
目の前の現実が、まるで夢のように遠く、そして重く感じられる。だが、彼女は知っていた。もし今ここで諦めてしまえば、その未来はもう決して変わらないことを――。
ジンは倉庫の中に立っていた。冷たいコンクリートの床に響くのは、わずかな足音だけ。倉庫の天井は低く、古びた蛍光灯がちらつきながら薄暗い光を放っている。その中に散乱しているのは、様々な武器や爆薬、弾薬の数々――どれもがジンの手によって集められたものだ。
ジンはゆっくりと倉庫内を歩き、金属ケースの重ねられた棚の前で止まった。
オニが居ないため、ジンに扱える爆発物は限られていた。
「これならイケるか…」
狙うのは厚労省が入ってる中央合同庁舎第5号館。
「ここを爆破して省庁の機能を麻痺させてやる。慌てた奴らの動きを監視すれば、研究施設の場所への手掛かりが見つけられるだろう。
見つけられないなら炙り出してやる!」
ジンは金属ケースを抱え、転移した。
目的地は――厚労省が入る中央合同庁舎第5号館の屋上。
深夜2時。都心の空気は冷たく澄んでいた。
人通りもなく、警備ドローンも定時巡回を終えた時間帯。
ジンの姿は、まるで風のようにそこに現れた。
スニーカーの靴底が、屋上のコンクリートをかすかに鳴らす。
ジンは素早く金属ケースを開き、中からC4とタイマー式の起爆装置を取り出す。
複雑なコードも必要ない。オニがいなくても扱える素人用の構造――それでいて威力は確かなもの。
建物の構造図は頭に入れている。
狙うのは通信ケーブル、電源供給系統、エレベーターの制御盤が集中している屋上の中央部。
そこに、ジンは慎重にC4を固定しようと膝をつく。
ここを爆破すれば本当にどうなるのか。緊張と不安がジンを包み手が震える。
「やるしかねぇ。。」
恐る恐る金属ケースを開けたその時ーーー
「やめときなよ」
誰も居ないはずの省庁の屋上で、どこか幼く、それでいて落ち着いた声がした。
「誰だっ⁉︎」
ジンは慌てて腰につけたピストルを取り出し周囲を見渡す。
「こっちだよ」
声のする方に視線を向ける。
ジンの視線が給水タンクの上に吸い寄せられる。
そこにいたのは――少年だった。
深夜の月光が、その身体を静かに照らしていた。
まるで闇夜の中に浮かぶ幻のように、白く、儚く、それでいてどこか現実離れした存在感。
黒いコートを羽織ったその姿は細くしなやかで、銀色の髪が風に揺れていた。
肌は透けるほどに白く、顔立ちは年齢不詳――だが、確かに幼い。
だがその瞳だけが異様だった。
赤とも金ともつかぬ光を帯び、月明かり以上に強く、ジンを見つめている。
無垢なのに、すべてを見通すような視線。まるでこの世の理を嗤うような、飄々とした知性が滲んでいた。
「……子供?」
ジンは眉をひそめ、銃を下げぬまま問う。
「こんな時間に……いや、なんでここにいる⁉︎お前は誰だ!」
少年は静かに笑う。
「僕の名前はマオ。研究施設を探してるんでしょ?ここを爆破しても意味ないよ」
少年の言葉にジンは驚き隠せずにいた。研究施設を探していることも、ましてや省庁を爆破しようとしてる事も、誰も知り得るわけがないからだ。
「何でそれを知っている⁈」
ジンの言葉に少年の笑みは崩れない。
銃を向けられているのにも関わらず、全く動じる気配のない少年に、ジンはただならぬ気配を感じていた。
少年はゆっくりとポケットに手を入れ、小さな手紙を取り出す。
「僕が教えてあげるよ」
そう言って少年は、その手紙をジンに向けて投げる。
風を切るようにゆっくり回転しながら手紙はジンの元へ。
ジンは慌てて構えを解き手紙を受け取る。
「そこに君の知りたい事が書いてある」
手紙は封がしてあった。ジンは中を開かず視線を少年に戻す。
「お前は一体何者なんだ?」
ジンの問いに、またしても少年クスッと笑う
「強いて言うなら、君のファンかな」
「ふざけてんじゃねぇっ!」
意味のわからない返答にジンは声を荒げ、また銃を少年向ける。
2人の間に静寂が流れ、風が屋上を通り抜ける。
ーーーその時、屋上への階段を誰かが駆け上がる音が聞こえる。
その音を聞いたジンは焦り、脱出が頭によぎる。だが、少年から目を離さずにいた。
「また会おう、ジン」
少年がそう言い終えると、屋上の扉が開く音がした。
扉に視線を向けると、ライトを持った人影が出てくるのが見えた。
「チィッ」
舌打ちしながら、慌ててケースをしまうジン。ケースをしまい、再度、給水タンクの上を見ると少年の姿は既に無かった
警備のライトがジンの方に向けられる。
「ん、誰かそこにいるのかっ!?」
警備の声とともに、ケースを抱えてジンが外へ走り出した。
「オイっ!待てっ!!」
慌ててその後を追いかける警備員。
ジンはそのまま一気に屋上から飛び降りる。
「っな⁈」
警備員は驚きながらも後を追いかけ、身を乗り出しジンが飛び降りた方向と、その下を見るが既に気配は消えていた。
「居ない??」
警備は不思議に思ったが、下を確かめるべく、慌てて屋上から下へ降りていった。
倉庫に戻ったジンは、爆弾の入ったケースを静かに棚に戻し、マオから受けとった手紙を開いた。
そこには研究施設と位置と、その内部構造まで書かれた紙が入っていた。
「あいつ、本当に何者だったんだ。気味わりー。俺の名前も知ってたし。」
ジンは暫く紙を見つめながら考え込んだがーー
「あ〜っ。考えてても仕方ねえ!ともかくこの紙をオニ見せよう!」
そう言ってジンはオニとライラのいるアジトへ転移していった。
真夜中の静かな公園で1人佇む銀髪の少年。マオはジンの出会いを思い返していた。
「あの狂気と覚悟が入り混じった目……ゾクゾクしたよ。
あぁ、ジン……世界を変えられるのは、君しかいない!
さあ、僕に――新しい未来を見せておくれ!」
両手を広げて見上げた空は、月明かりが眩しく、恐ろしく澄んでいた。。




