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転移666  作者: 清鳳
15/33

少年“マオ“

深夜。山間部を走る一台の装甲輸送車。

エンジン音すらも抑えられた静寂の中、その車体は真っ黒な塗料で塗られ、まるで軍用車両のような威圧感を放っていた。


目的地は政府の裏ルートを使った研究施設。

積み荷は――少女ひとり。


車内はひどく冷たい。温度ではなく、空気そのものがどこか張りつめていた。

手には、、拘束具がはめられていた。


「これじゃアーシまるっきり犯罪者じゃん…」


移送されているのは、カジノのいたギャル。アヤネ。

迎えにきた運転手とは別にカジノにいた男2人が後部座席でギャルと同席していた。


「ねぇ、コレどこに向かってるの?」

アヤネの質問に黒縁メガネが答える。


「君は今から政府の特別医療施設に向かい検査を受けてもらう」


「何の検査よ、アーシそんなの要らない!」


「残念だが君に選択権は無い。これは政府の最重要プログラムだ。従ってもらう」


男の言葉を聞いたアヤネは諦めたように顔を伏せた。





輸送車が山間の曲がり道を抜けた先、巨大な鉄柵が姿を現した。

そこには監視塔が二つ、交互に睨みを利かせるようにそびえている。


柵の奥――霧に包まれるようにして佇む建物があった。

まるで山肌に直接埋め込まれたかのような、コンクリート剥き出しの無機質な塊。

窓は最小限、外壁には番号やマークすらない。


光はない。

あるのは、空気そのものを圧し潰すような沈黙と、ただならぬ閉鎖感。


アヤネが目を細めた。


「……なに、ここ……」


その瞬間、脳裏をざわりと撫でるような寒気が走った。



「ここ、絶対ヤバいって。中の様子は…」



視界が“研究所の中”に切り替わる。無機質な廊下の先、ガラス張りの監視室がある機材に囲まれたベット。拘束された少女。

無表情な医師が手術刀を持ち上げる。

白衣の男達「―― ――、―― ――」。

少女の体に刃が入っていく。


少女の瞳が涙を流しながら苦しむ姿


――

アヤネの心臓がドクンと跳ねる。


「なにこれ……なにしてんの……あたし、こんなとこ連れてこられたの……?」


次の瞬間、アヤネが拘束具を振りちぎろうと全身を暴れさせる。


ギャルの動きに驚いたように、黒縁メガネが一瞬たじろぐが男たちが押さえ込もうとする。


「放せッッッ!!アーシこんなとこ絶対行かないッ!!」

アヤネが視えた「少女」の姿が、まるで「自分の未来」に見えてしまったように狂乱していた。


アヤネはもう、どんな痛みも、どんな恐怖も感じていなかった。ただ目の前の現実に抗うことで、少しでも自分の未来を取り戻そうとしていた。地に押さえ込まれても、身体の奥底から湧き上がる怒りが彼女を突き動かす。その目は、狂乱とともに今の自分を拒絶していた


必死の抵抗も虚しく、アヤネは地に押さえつけられる。


「イヤだ。イヤ。こんなの……アーシの未来じゃない……こんなの、違うッ!!」


目の前の現実が、まるで夢のように遠く、そして重く感じられる。だが、彼女は知っていた。もし今ここで諦めてしまえば、その未来はもう決して変わらないことを――。










ジンは倉庫の中に立っていた。冷たいコンクリートの床に響くのは、わずかな足音だけ。倉庫の天井は低く、古びた蛍光灯がちらつきながら薄暗い光を放っている。その中に散乱しているのは、様々な武器や爆薬、弾薬の数々――どれもがジンの手によって集められたものだ。


ジンはゆっくりと倉庫内を歩き、金属ケースの重ねられた棚の前で止まった。

オニが居ないため、ジンに扱える爆発物は限られていた。


「これならイケるか…」


狙うのは厚労省が入ってる中央合同庁舎第5号館。

「ここを爆破して省庁の機能を麻痺させてやる。慌てた奴らの動きを監視すれば、研究施設の場所への手掛かりが見つけられるだろう。

見つけられないなら炙り出してやる!」


ジンは金属ケースを抱え、転移した。


目的地は――厚労省が入る中央合同庁舎第5号館の屋上。






深夜2時。都心の空気は冷たく澄んでいた。

人通りもなく、警備ドローンも定時巡回を終えた時間帯。

ジンの姿は、まるで風のようにそこに現れた。


スニーカーの靴底が、屋上のコンクリートをかすかに鳴らす。


ジンは素早く金属ケースを開き、中からC4とタイマー式の起爆装置を取り出す。

複雑なコードも必要ない。オニがいなくても扱える素人用の構造――それでいて威力は確かなもの。


建物の構造図は頭に入れている。

狙うのは通信ケーブル、電源供給系統、エレベーターの制御盤が集中している屋上の中央部。


そこに、ジンは慎重にC4を固定しようと膝をつく。

ここを爆破すれば本当にどうなるのか。緊張と不安がジンを包み手が震える。


「やるしかねぇ。。」


恐る恐る金属ケースを開けたその時ーーー




「やめときなよ」





誰も居ないはずの省庁の屋上で、どこか幼く、それでいて落ち着いた声がした。


「誰だっ⁉︎」


ジンは慌てて腰につけたピストルを取り出し周囲を見渡す。


「こっちだよ」


声のする方に視線を向ける。


ジンの視線が給水タンクの上に吸い寄せられる。


そこにいたのは――少年だった。


深夜の月光が、その身体を静かに照らしていた。

まるで闇夜の中に浮かぶ幻のように、白く、儚く、それでいてどこか現実離れした存在感。


黒いコートを羽織ったその姿は細くしなやかで、銀色の髪が風に揺れていた。

肌は透けるほどに白く、顔立ちは年齢不詳――だが、確かに幼い。


だがその瞳だけが異様だった。


赤とも金ともつかぬ光を帯び、月明かり以上に強く、ジンを見つめている。

無垢なのに、すべてを見通すような視線。まるでこの世の理を嗤うような、飄々とした知性が滲んでいた。


「……子供?」


ジンは眉をひそめ、銃を下げぬまま問う。


「こんな時間に……いや、なんでここにいる⁉︎お前は誰だ!」


少年は静かに笑う。


「僕の名前はマオ。研究施設を探してるんでしょ?ここを爆破しても意味ないよ」


少年の言葉にジンは驚き隠せずにいた。研究施設を探していることも、ましてや省庁を爆破しようとしてる事も、誰も知り得るわけがないからだ。


「何でそれを知っている⁈」


ジンの言葉に少年の笑みは崩れない。

銃を向けられているのにも関わらず、全く動じる気配のない少年に、ジンはただならぬ気配を感じていた。


少年はゆっくりとポケットに手を入れ、小さな手紙を取り出す。


「僕が教えてあげるよ」

そう言って少年は、その手紙をジンに向けて投げる。

風を切るようにゆっくり回転しながら手紙はジンの元へ。

ジンは慌てて構えを解き手紙を受け取る。


「そこに君の知りたい事が書いてある」


手紙は封がしてあった。ジンは中を開かず視線を少年に戻す。


「お前は一体何者なんだ?」


ジンの問いに、またしても少年クスッと笑う

「強いて言うなら、君のファンかな」


「ふざけてんじゃねぇっ!」

意味のわからない返答にジンは声を荒げ、また銃を少年向ける。


2人の間に静寂が流れ、風が屋上を通り抜ける。


ーーーその時、屋上への階段を誰かが駆け上がる音が聞こえる。


その音を聞いたジンは焦り、脱出が頭によぎる。だが、少年から目を離さずにいた。


「また会おう、ジン」


少年がそう言い終えると、屋上の扉が開く音がした。

扉に視線を向けると、ライトを持った人影が出てくるのが見えた。


「チィッ」

舌打ちしながら、慌ててケースをしまうジン。ケースをしまい、再度、給水タンクの上を見ると少年の姿は既に無かった


警備のライトがジンの方に向けられる。


「ん、誰かそこにいるのかっ!?」


警備の声とともに、ケースを抱えてジンが外へ走り出した。


「オイっ!待てっ!!」

慌ててその後を追いかける警備員。


ジンはそのまま一気に屋上から飛び降りる。


「っな⁈」

警備員は驚きながらも後を追いかけ、身を乗り出しジンが飛び降りた方向と、その下を見るが既に気配は消えていた。


「居ない??」

警備は不思議に思ったが、下を確かめるべく、慌てて屋上から下へ降りていった。





倉庫に戻ったジンは、爆弾の入ったケースを静かに棚に戻し、マオから受けとった手紙を開いた。


そこには研究施設と位置と、その内部構造まで書かれた紙が入っていた。


「あいつ、本当に何者だったんだ。気味わりー。俺の名前も知ってたし。」


ジンは暫く紙を見つめながら考え込んだがーー


「あ〜っ。考えてても仕方ねえ!ともかくこの紙をオニ見せよう!」

そう言ってジンはオニとライラのいるアジトへ転移していった。





真夜中の静かな公園で1人佇む銀髪の少年。マオはジンの出会いを思い返していた。


「あの狂気と覚悟が入り混じった目……ゾクゾクしたよ。

あぁ、ジン……世界を変えられるのは、君しかいない!

さあ、僕に――新しい未来を見せておくれ!」


両手を広げて見上げた空は、月明かりが眩しく、恐ろしく澄んでいた。。

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