動く政府
幹部の額に、じわりと汗が滲む。
ギャルは楽しげに笑いながらも、まるで何かが「視えている」かのように、次々と勝ちを重ねていく。
「オイっ」
幹部が小さな声で呟きながらディーラーに視線で何かの合図を送る。
ディーラーは一瞬だけ目を合わせ、何かを悟ったように頷きカードを配り出す。
次のゲーム。
ギャルは次々とカードをめくりながら、手元の札を見つめ、相手の手札も意識していた。その全てが、まるで見えているかのように、しっかりと把握していた。
(アイツは役なし、んでアイツはフラッシュのなりかけ、んで最後はワンペアか。んでアーシはコレとコレをかえれば…こりゃ今回も楽勝かな♪)
「レイズ3000万♪」
意気揚々とベットするギャルを見て幹部はニヤリと笑う。
勝ちを確信したギャルだったが、次の瞬間、ギャルの表情が一瞬、固まる。手元のカードが、予想とは違っていた。自分に来るべきだったカードが、目の前に広がる札の中に見当たらない。
「えっ?」
その瞬間、ディーラーが不自然に手元のカードを少しだけ動かした。ギャルはそれを見逃すことなく、目を細めた。
(ちょっと待って……なんかおかしいわね。)
目の前に並ぶカードの位置や並びが、まるで自分の予知したものと違っていた。彼女の能力が、初めてそれに疑問を持ち始めた。
(こいつら、もしかして)
ギャルは深呼吸をし、静かに視線を落とす。
そして、ディーラーがカードを切る度に微妙に指先で触れることで、カードがわずかに変わり、役が予想外の形になっていることに気づく。
ギャルは冷静さを取り戻し、周囲を見渡す。
「オープン。」
静かな声が響き、手札が一斉に公開される。ギャルは焦点を合わせてカードを確認する。自分の手札は役なし。相手の1人はフラッシュ。そして、幹部の手札は、目を疑うような形――フォーカードになっていた。
(こいつら、イカサマしてる・・・。)
ギャルは確信を持ったようだった。
「ハッハ!残念だったね嬢ちゃん!役なしなのに良くレイズしたね!運もここまでかな?」
幹部の1人が煽るように言い放つ。
(よく言うわよ。イカサマしてるくせに!けど、ここで詰めても意味はないだろうな。)
辺りを見渡すとVIPルームには、カジノ側の関係者で埋め尽くされており、イカサマを指摘しても有耶無耶にされるのがオチだと言う事をギャルは察していた。
「おかしいなー。調子狂ってきたかなー?」
ギャルはとぼけたように答える。
「ハハ、そんな時もあるさ!さぁ次行こう!」
幹部に急かし、ディーラーに次のゲームを開始させる。
続く次のゲームでも、ギャルの読みは外れて、負け、その次のゲームもイカサマで負ける。
(コイツらあからさまにイカサマしてる。女だからって舐めやがって。チョームカつく!!
でもこのまま続けてても、イカサマでチップ全部持ってかれる。せっかくここまで増やしたのにコレじゃ意味ないじゃん!もういいや。さっさとここから逃げよ・・・)
「あーあ、なんか調子悪くなってきちゃった!アーシ今日はもう帰る!」
突然のギャルの言葉に周囲が一瞬どよめく。
「おいおい、ちょっと負けたくらいで、もう帰るのかい?まだチップは沢山あるじゃないか。」
プレイヤーの1人が帰ろうとするギャルに声をかける。
「だって勝てる気しなくなったんだもん!今日は帰らせてもらうわ。」
そう言ってギャルは席を立ち、出口を向かおうする。
VIPルームに居たもの達は、その様相を固唾を飲んで見守っていたが、
「待ちな。」
突如、幹部の男のドスの効いた声が響き渡る。
「お嬢ちゃん。イカサマやってんだろ。」
そう言い放つ幹部の目は、先ほどの様相とはまるで違っていた。
余りにも鋭い眼光に、ギャルは一瞬たじろぎ冷や汗を流す。
「はぁ!?やってないわよっ!イカサマしてんのそっちでしょ!?」
ギャルのその言葉に周囲も一瞬動揺が見える。
「人聞きが悪いな。ウチは公正に運営するのがモットーなんで。」
幹部の感情のないドスの効いた声がギャルをさらに恐怖させる。
「ともかく、一度持ち物を改めさせてもらう。事務所まで来てもらおうか。」
幹部の言葉と共に複数のスタッフがギャルを取り囲み腕を掴んで連行しようとする。
「はぁ?嫌よ!帰る!!
イタッ!やめて!離して!痛いっ!」
ギャルは抵抗を見せるが力で勝てるわけもなく、ズルズルと引きずられるように動かされる。
「応接間を開けろ。俺が尋問する」
嫌がるギャルの言葉を無視して、別室へと連れていかれる姿を黒縁メガネの男達は黙って見ていた。
「止めなくていいんですか?」
「・・・」
ガタイのいい黒縁メガネの相方の言葉にメガネの返事は無かった。
応接間の扉が開かれ、ギャルは強引に引き込まれた。暗い照明が落ち着いた部屋を照らし、薄暗い空間に机と椅子が並べられている。ギャルは目の前に無造作に置かれた椅子を見つめ、体が硬直するのを感じた。
「さぁ、座りな。」
幹部の声が低く響き、ギャルはしぶしぶ椅子に座らされる。椅子の座り心地が固く、冷たい感触が背中を突き刺すようだった。スタッフたちが部屋に入り、扉が静かに閉じられる。
応接間の雰囲気は、まるでどこか別世界に来たかのように息苦しい。どこかの上層部が使っているかのような高級なインテリアだが、ギャルの心の中ではそのすべてが冷たく感じられた。
「まずは持ち物全て見せて貰おう。ポケットとカバンにあるもの全て出しな。」
幹部の冷たい声にしぶしぶと手持ちの荷物を全て机の上に出す。
スマホや化粧品など、特段怪しい物はない。身分証に神崎アヤネと書かれていた。
「イカサマなんてしてないってば!」
必死の様相で訴えるアヤネ。
「まだだ、服の中も確認する。脱がせろ」
幹部の言葉にアヤネが青ざめ、恐怖心と焦りが募る。
「はぁっ?ふざけないでよ!そんな事して許されると思ってるの?」
「さぁ、、許されるかどうかは、お嬢ちゃんが決める事じゃない。ヤレ。」
幹部の合図で複数のスタッフに強引にドレスを脱がされる。
「イヤっ!やめて!はなせ変態っ!!イャ・・・」
必死の抵抗も虚しく、アヤネの下着姿が露わになる。
床の上で内股で座り、手で恥ずかしそうに体を隠すその姿には、尊厳を奪われた涙が浮かんでいた。
「いい体してるじゃねぇか」
ニヤニヤとするスタッフ
「イヤ。もう帰りたい・・・」
泣きながら呟くアヤネ。
「何もありませんね。」
持ち物を調べていたスタッフの1人が報告する。
アヤネは既に心が折れたのか、何も言わずに伏せている。
幹部の男がゆっくりとアヤネに近づく。
「ドンッ!」
突如、ギャルの顎から顔を掴むように手を伸ばし、壁へとアヤネを叩きつける。
「お嬢ちゃん、どうやってイカサマした?ウチのディーラー達は、お嬢ちゃんみたいなのが勝てるほど甘くはねーんだよ」
(こいつらに能力がバレたら何されるか分からない。嫌だ怖い。。)
「だから、、イカサマなんて、、してないってば、、」
詰め寄る幹部に対し、泣きながら返答するギャル。だが、、、
「バチンッッ」
アヤネの頬が叩かれて、体ごと床に倒れ込む。
「嘘つくんじゃねーよ。痛い目に合わないと分からないのか?」
幹部の言葉に、何も返さず、ただ床に伏せて必死に恐怖に耐えるアヤネ。
「お前、この辺のカジノの荒らし回ってただろ。既に調べは付いてんだよ。どうやって勝ったのかさっさと答えろ!!」
幹部の怒気の混ざった声が応接間に響く。
「・・・」
だが、アヤネは何も答えず、ただただ床に伏せていた。
その姿を見た幹部は、頭に血管の浮き出るように怒る。
「このアマ!さっさと吐け!!」
幹部が右腕を振りかざし、ギャル殴ろうとしたその時、、
「バンッ」
突如、応接間の扉が勢いよく開かれる。
幹部の手が止まり、中にいたスタッフも皆、扉に視線が行く。
そこに立っていたのは、ホールからずっとギャルの監視をしていた黒縁メガネとガタイのいい男の二人組だった。
「ああ?誰だお前ら。ここは今、取り込み中だ」
声を荒げる幹部を気にせず、スタスタと中に入り近づいていく二人組。
「そこまでにして貰おうか、彼女の身柄はこちらで預かる。」
「ああ!?だからお前ら誰だって言ってん・・・」
黒縁メガネの男は胸からIDを差し出すと、それを見た幹部の言葉が詰まり、一気に青ざめる。
「なんであんたらがここに・・・」
幹部の男は完全に萎縮していた。
「お前達が知る必要はない」
黒縁メガネの言葉に幹部は冷や汗を流しながら黙り込む。
二人組はアヤネへと近づく。
「我々と一緒に来て貰おうか。」
「誰よアンタ達・・」
涙で化粧が崩れ、震えた声で尋ねる。
「話は後だ、とにかくここから出るぞ」
ガタイのいい方の男が、アヤネにコートをかけると、エスコートするように体を持ち上げ、ゆっくりと出口まで向かっていく。
「おいおい、何でアンタらが出てくるんだよ!その女は一体何なんだ!」
何も言わずに出て行こうとする3人に幹部が声を荒げる。
「先程も言った通り、お前が知る必要はない。」
黒縁メガネの男だけ立ち止まり、振り返って答える。
「それと、ここで商売を続けたいならこの女の事は忘れるんだ。いいな?」
冷徹な眼差しで睨みつけるようにそう言い放ち、ゆっくりと扉を閉めて出て行った。
カジノのスタッフ達は、その姿をただただ見ているだけしかできなかった。




