新たな能力者
「こいっ!こい!こいっ!!」
ぎらついたまなざしでスロットのレバーを叩く男。
ガララララララ~
「黒だ」 「赤っ!」 「31の黒」
札束を握りしめた連中が、 ルーレットの回転に息をのむ
天井のシャンデリアは薄暗く、 まるで闇に沈むかのように光を吸い込んでいる。
カーペットは豪華だが、 どこか不気味なほど黒ずんでいた。
奥のVIPルームには更に別世界がある。
大理石のテーブルには高額なチップが積まれ、プレイヤーたちは葉巻をくゆらせながら、裏社会の大物らしき男たちと交渉を繰り広げている。
どこからか流れてくるジャズのメロディが、 場の異様な熱気に絡みつく。
酒が進み、 声を荒くなり、チップが乱暴にテーブルへと叩きつけられる。
熱狂と緊張、 歓喜と絶望が入り混じるこの場所では、一晩で運命が天国から地獄へと転がり落ちることも珍しくない。
ここは都心にある最大級の闇カジノ。
あらゆる種類の賭博が用意されたこの場所の一角で、ひときわ異質な光景が広がっていた。
――カシャッ。
ディーラーが鮮やかにカードを配る。
フロアの一角で行われるブラックジャックのテーブル。
「……21!またア〜シの勝ち♪」
金髪にピンクメッシュのギャルが、派手なネイルの指先でチップをかき集める。
見た目は完全にイケイケのバカギャルだが、彼女の勝率は異常だった。
ギャルはピースサインをしながら、満面の笑みで勝ちを確信する。
「マジかよ……」
隣の男が驚きを隠せず声にだす。
ここのディーラーは本物だ。カウンティングなんて到底通用しない。
なのに、彼女はまるで未来が見えているかのように勝ち続けていた。
「ま、たまたまじゃね?」
「いや、さすがに出来すぎだろ……」
どよめく場内。ディーラーの表情は微妙に曇り始めている。
「次イコ次ぃ〜♪」
(やっばーっ!この能力マジサイコー♪)
ギャルに急かされるまま、ディーラーが次のゲームのカードを配っていく。
その様子を、カジノの一角から静かに見守る者たちがいた。
黒縁の眼鏡に、落ち着いたスーツ姿。眼鏡の男は、カジノ内の空気とは一線を画した冷徹な雰囲気を漂わせていた。隣には、肩幅が広く、無言の圧力を感じさせる男が立っている。その目は、場の動きを鋭く捉えている。
「あの女、かなり怪しいな。」
冷静に呟いたのは、黒縁眼鏡の男だった。視線はギャルに向けられ、動きがピタリと止まった。
隣の男が低く声を発する。
「捕まえるか?」
「……いや、まだだ。」
黒縁眼鏡の男はその一言だけで、考えを閉じたように見えた。だが、明らかに彼女の勝率は異常だ。絶対に何かがあると感じていた。
その時、カジノ内の幹部らしき男がギャルに近づいてきた。彼の姿は、重厚感と威圧感を漂わせていた。幹部はギャルの肩に手を置き、少し低い声で話しかける。
「お客様、かなりの腕前ですね。宜しければVIPルームで、もう一つ上の勝負をしませんか?」
その言葉には、明らかに丁寧で、少し過剰なくらいの敬意が込められていた。カジノ内でそんな扱いを受けることは稀だ。
「VIPルーム?ヤバッ面白そー♪でも勝負って何するのー?」
「当店のVIPルームでは掛け金無制限のポーカーをやらさせて頂いております」
「ポーカーね♪楽しそ〜!案内して♪」
(ポーカーならイケる♪今日はたんまり稼がせてもらお〜♪)
幹部は微笑み、やや手を引くようにしてギャルに誘いの手を差し出す。
「では、どうぞこちらへ。」
彼の態度は完全に接待そのもので、ギャルを一流のお客様として迎えている様子が伺える。周囲のスタッフたちもその様子を見守り、皆が敬意を表してるかのように彼女を案内し始める。
黒縁眼鏡の男はその様子を静かに見つめながら、隣の男に低く指示を出す。
「追うぞ。」
「了解。」
そのまま、二人はギャルと共にVIPルームへ向かうカジノスタッフの後を追い始める。
カジノの奥にあるVIPルームは、先ほどのフロアとはまるで別世界だった。
装飾はより洗練され、深紅のベルベットの椅子が円卓を囲んでいる。テーブルの中央にはチップが積まれ、淡いシャンデリアの光がそれを妖しく照らしていた。
「どうぞ、こちらへお掛けください。」
幹部がそう言いながらギャルを促す。
すでに三人の男が席についていた。明らかに一般の客とは違う。スーツの仕立てが違い、目つきも鋭い。
「可愛いお嬢ちゃんじゃないか。こんな小娘にやられてるのか?」
座っていた男の1人が小馬鹿にするように声を出す。
ギャルはそんな言葉も気にせず、軽く髪をかき上げながら、ニコッと笑って席についた。
「んじゃ、よろしくね〜♪」
ギャルがそう言うと、ディーラーが無駄のない動きでカードを配り始める。
ゲーム開始される。
「ベット、500万。」
初手から高額のチップがテーブルに積まれ、男達はギャルの反応を伺ってるようだったが、ギャルに特段の反応ない。
「レイズ、1,500万。」
「……コール。」
テーブルの上に静かにチップが並んでいく。
ギャルはチップを指で弾きながら、じっと相手の表情を見つめる。
だが、その目はどこか遠くを見るような眼差しだった。
(……ふーん、なるほどね〜)
一人は無駄なブラフ。もう一人は慎重派。幹部の男は手堅く攻めるタイプ。
そして―― カジノ側のディーラーは、少しずつこちらの出方を探っている。
他のプレイヤーもギャルの動向に注目し、固唾を飲んでいる。
だが、、、ギャルは あっさりとホールド。
「なんだ嬢ちゃん弱気だなー。」
「最初からそんなんで大丈夫か?」
周囲がざわめく。
「えー、だってア〜シ勝てないもん♪ 次の勝負いこっ♪」
何も考えていないような笑顔。だが、確信を持って負けを避けるその動きが、 プロたちの勘を刺激した。
次のゲーム。
「コール。」
「レイズ、1500万。」
「……うーん、じゃあア〜シもレイズ、3000万♪」
「……!」
場が静まり返る。
この金額でレイズをかけるには、 確固たる自信がなければできない。
通常なら、カマをかけてくる可能性も考えられる。だが、彼女の行動には一切の迷いがなかった。
ディーラーはカードをめくる。
そして――
「フルハウス。」
「おっしゃぁ〜!ア〜シの勝ちぃ♪」
ギャルが嬉しそうにチップをかき集める。
その後もゲームが続き、ホールドとレイズを繰り返しながらギャルはどんどん勝ち星を増やしていく。
最初はただの幸運な客だと思っていた。だが、彼女の勝ち方には 不自然な一貫性 がある。
・勝てるときは大きくベットし、大金を巻き上げる。
・負けるときは一瞬で察知し、迷わずホールドする。
・場の流れを完璧に把握しているかのような賭け方。
「これは……カウンティングではない。」
幹部の疑念は最高潮に達していた。




