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転移666  作者: 清鳳
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最初の光

七月七日、世界に光が降り注いだ。

青く、そして黒く輝く大きな光が、地上の遥か上空で何かにぶつかったように飛散し、無数の光の矢となって地上に降り注いだ。


この日、世界は変わった。


俺の名は 鳳仁オオトリ ジン

28歳独身、中卒、元ヤン、愛猫家、ギャンブル中毒、サイコパスの属性が入ってると自負してる。


4階建てのボロアパートに住んでる俺は、入居者が少ないことを良いことに、いつものように屋上を占領して気持ちよく煙をふかしていた。


2脚の椅子と小さなテーブルが置かれ、その上にはタブレットと灰皿。俺は椅子のひとつに腰掛けている。


「ミャ〜〜」


挨拶するような鳴き声が聞こえると、そこには白く、まん丸な顔つきの俺の愛猫“オニ”がいた。

“オニ”は鬼ではなく、おにぎりに似てるからオニと名付けた。

1年ほど前にパチンコでクソ負けた日の帰りに死にそうになって歩いてたら、俺よりもさらに死にそうになって歩いてる子猫のオニを見かけて、泣けなしの300円で牛乳を買って連れて帰ったのを今でもよく覚えてる。


そんなオニは、とても賢く、家の玄関の猫ドアから好き放題出かけては腹が減ったら帰ってくる。

気が強く、どこかでケンカしてるのか、たまに傷をつけて帰ってくるのは少し心配だ。


俺が屋上に行ってる時は、察知して跡をつけ、もう一脚の椅子に飛び乗り、丸くなって寝てるのがいつもの風景だ。


七月七日、この日は違った。


透き通るような雲一つない天の川の星空に、ロマンチストではない俺も綺麗だと感傷に浸っていた。


「みみゃあぁあああ〜」


聞いたことないようなオニの鳴き声に振り向くと、グッと背筋を伸ばしスーッと空を見上げていた。


「お前にも天の川の星空の良さが分かるのか?」

そう茶化してみても、オニは背筋を伸ばしたまま一点を見続けている。


なにを見てるんだ?

空を見上げてオニの視線の先を観ると、青く、黒く、力強い光が動いてるように見える。


「なんだアレ、流れ星か?」


その光は次第に大きくなっていき、こちらに近づいて来てるのが分かる。


「コレ、、やばくないか」


徐々に焦りを感じはじめる俺。

オニも危険を察したのか、俺に飛びつき襟元から服の中に入りこむ。


俺は少し恐ろしくも神々しいその青い光から目が離せずにいた。

襟元から顔出したオニもずっと光を見ている。


どんどん近づいて大きくなっていく閃光……


途端、

何かにぶつかったように弾かれ、飛散し、無数の光の矢となって地上に降り注いでいく。

その光景は、この世のモノとは思えないほど神秘的で、俺は唖然としたままその光景に目を奪われていた。


「ミャーっっ!」


突然のオニの鳴き声に驚くと、一つの光の矢がすぐ頭上まで来ていた!

慌てて両腕で頭を隠すように防ごうとするも、その光は屋根にぶつかり、更に飛散し、青暗く輝く粒子が屋上全体を包み込んだ。


光に包まれたジンは、体の中の細胞全部に電流が走っているような感覚を感じた。


「あ゙ーっあ゙っあー」

声にならない叫びをあげながら、次第に意識は薄れ、ジンはその場に倒れた。


目が覚めると、空は明るくなっており、周囲に異常は感じられなかった。

夢だったのかと一瞬頭をよぎったが、あの光景が夢なわけないという強烈な印象を感じていた。

ジンは、光の正体を調べるために、タブレットを持って部屋に向かい、テレビも付けた。

普段あまりテレビを見ることはないジンだが、謎の光の正体と世間の反応状況を知るためにSNSとテレビを駆使して情報を集めようとしていた。


そういやオニがいないな。

一緒に光に包まれた愛猫が気になったが、腹が減ったら帰ってくるだろうとあまり気にしなかった。


テレビをつけるとすぐさま、昨日の光について特集がやっていた。

どうやらあの青い閃光は日本海の遥か上空で飛散し、周辺国一帯に降り注いだが、多くの光は地上まで到達せず、空中で霧散したらしい。


光を撮影した人も多く、SNSでもいろんな角度からあの神秘的な光の矢の映像が多数アップされている。

けど、光の謎に近づくような情報は簡単には得られずにいた。


「チリーんっ」「トットットットッ」

猫ドアに付けた鈴と、オニの軽快な足音が聞こえる。


帰ってきたな!


いつもと変わらずにトコトコ寄ってくるオニに一安心したジンは、また情報を得るため、再びタブレットに集中し始めた。


「何見とんやー?」


俺しか居ない部屋に突然聞こえた関西弁、周囲を見渡しても誰も居ない。


「昨日の光のやつか!アレ凄かったな~」


確かに聞こえる。こてこての関西弁。しかもすぐ近くから……

まさかと思いオニの方を見る。


「ほんで、なんか分かったんか?」


テーブルに前足を乗せ、体を伸ばし、こっちを向きながら、明らかにオニの口から発せられたその言葉に俺はしばらく唖然とした。


「お前!話せるようになったのか!すげぇっ!!」

両手でオニを持ち上げながら少し興奮するジン。


なんで話せるようになったんだ?あの光が原因か?

俺が猫語を理解できるようになったのか?

それともオニが人語を理解したのか?

てか何で関西弁なんだ?


頭の中でいろんな憶測がよぎった。

一番考えたのは、**『俺にも、何か特別な能力が身についたのでは』**という期待だった。


「オニ、どうしていきなり話せるようになったんだ?」

少し躊躇するも、オニに話しかけてみる。


「そりゃあの光やろ!当たった瞬間に全身の細胞が書きかられたかのような感覚やったで~。ジンも何か感じたんとちゃうんか?」


すごい流暢に関西弁を使い、状況把握から仮定までして話すオニに、俺は驚きを隠せずにいた。

それと同時にオニの言葉に覚えがある俺は、

自分にも特殊な能力がある!どんな能力だろうと期待を膨らませずにはいられなかった。


しかし、光を浴びた事で人生を大きく変え、世界を揺るがす大犯罪者になる事は、今のジンたちには知る由も無かった。

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