第六話†狙われた中学校
敵に狙われたのはみのるの学校。
通い慣れた学校には一つ星の涙が眠っていた。
教師や生徒が居る学校を守るため、そこに向かうみのる、なの!
分身魔法の伝授から一晩すぎ、今日は学校も休み。
「魔王、倒せると良いけど……」
実流は≪頑張れ魔法少女隊≫の昨日の続きを読み始める。
「攻撃が通らない……?」
「いや、小さいけどダメージは入ってる!」
「諦めちゃダメだ!」
「属性で返すなら……複数の属性を一度に喰らわせれば」
「あの技しか無い!」
魔法少女隊はお互いの手を繋ぎながら詠唱を唱える。
「「「これでどうだ!」」」
端の2人が放つ魔力はどの属性とも付かない。
『貴様らふぜいが、私に勝てると思うてか!』
魔王はバリアを張ると、受けんとする。
……が、
『私のバリアフォースがっ!』
何と、4人の合わせ魔法が魔王のバリアを崩したのだ。
「やっる〜、流石、ガンマホは良いなぁ」
『バリアチェンジ!』
刹那、魔王のバリアが変わった。
リフレクトバリアが消え、代わりに現れたのはただ固いだけのバリア。
「よし、魔王を一気に畳み掛けるよ!」
『悪あがきをっ!』
頑張れ魔法少女隊最新刊はここで終わってしまう。
「あ〜、良いところだったのに〜!」
読み終わった実流の第一声。
「実流〜、ごはんよ〜」
「は〜い!」
母の声で階下の居間に向かった。
「実流、今日は何処かに行くの?」
姉の渚砂 魅だ。
「うん、ちょっと出掛けるの」
家族連絡用ホワイトボードに『外出、帰宅はPM8時v』と書き、テーブルに着いた。
「ボクはバイトだから」
魅のブロックには、『バイト/帰宅時刻:PM5時半』と書かれている。
「「いただきまーす」」
テーブルに着き、家族団欒の食卓。
実流たちはいろいろな話をしながら朝食を取る。
「あ、そろそろ時間が……。
バイト行くね、ごちそうさまー」
魅は手を合わせてから席を立つ。
「そろそろみのるも行かなきゃ、ごちそうさまでした〜!」
実流も席を立ち、外へ出る。
出たところで待ち構えていたリィンと鉢合わせ。
「あなたは昨日の……」
「我が主からの頼みで迎えに来た」
「あ、ありがとう……」
リィンは闇の穴を出現させる。
「我が主は既にリヴァイアサンに居られる」
「沙奈ちゃん、早いなぁ」
「行くぞ」
「あ、待ってよ〜!」
感心している実流を尻目に、リィンは歩きだす。
同刻、リヴァイアサン艦隊、艦長執務室
二人の男が何やら話をしている。
「リィンとか名乗るあの女、何者でしょうか」
「沙奈ちゃんを『主』と呼んでいる。
何者かは気になるが、仮面舞踏会が心集めに動き出さないのも気になる」
「確かに、動きを見せませんね……」
「何をやっているのか……」
「こちらでも、調査を入れておきましょう」
『本部より通信』
「受信を許可する」
『やっほぉ♪
ディアス、調子はどぉ〜?』
「職務通信で酔っ払ったところを見せるな」
『よてないよぉ』
「十分酔ってるじゃないか……。
で、何の用だ?」
ディアスは半ば呆れ気味に聞く。
『そぉそぉ。仮面舞踏会が動き出したわぁ。
さっきぃまどぅーし協会から報告受けたわぁ。』
呂律が回っていない。
『場所は……《 中学校》よぉ。
人事はまかせぇる!
じゃあねぇ』
レイアンは呂律の回らない声で無駄にキメてから通信を切った。
「ちっ……言いたいことばかり言いやがって」
「噂をすれば影が射す……ですか」
「とりあえず、魔法少女隊に行かせよう」
同刻、何処かの牢獄
「まだあたしの迎えは来ないの……?」
「来るわけ無いじゃん。
まだ奴らはここの場所知らないし」
「あんたは……女?」
「くくく、私の名前はジュリア。
仮面舞踏会の、仮面魔戦士団のリーダーよ」
「あんたみたいな子供がリーダーなんて……どうかしてるわ……」
「奴らも子供をリーダーとしたギルドを興したみたいだけどねぇ」
鷹の仮面を付けたジュリアは牢獄の外から女に言う。
「こんなことをしてただで済むと思わないことね」
「煩いなぁ……。
煩い場合は黙らせろって言われてるもん……ね!」
ジュリアは電撃を女に浴びせる。
「きゃぁぁぁあぁあぁ!!」
「黙るならもうしないけど?」
「ここを出られるようになるまでは……黙らない!」
「じゃあ一生私の魔法を浴びてれば?」
ジュリアは再び電撃を浴びせる。
リヴァイアサン艦隊、魔法少女隊の宿室
「ただいま〜!……って言うべきかな?」
「はわわっ、おかえりなさーい♪」
元気良く挨拶する実流に、沙奈は同じく元気よく挨拶する。
「渚砂 実流を連れてまいりました、我が主」
「リィン、ご苦労様なんよ〜」
自分がしたことが小さくても、主は誉めてくれる。
――優しいな、我が主は
そう思い、微笑む。
「今日は、みのるんお姉さんの為に、お昼ご飯を作っちゃうんよ〜!」
沙奈は腕まくり。
「我が主の料理は絶品だから、頬が落ちないように注意な」
リィンは細やかな冗談を言う。
『ディアス提督より通信』
その刹那、突然鳴り響く通信。
「はい、魔法少女隊リーダーの実流です」
『仕事だ、ある場所にノワールの反応。
場所は……実流ちゃん、君の……学校だ』
「……!」
実流は驚き、言葉を失う。
「ほな行こか」
「……友達が…先生が……!」
実流の通う中学校は、休日でも、図書室を開放してあるので、生徒や先生が大勢居るのだ。
実流は慌ててテレポータールームに向かう。
「あ、みのるんお姉さん、待って!」
沙奈も急いで実流を追い掛けた。
「魔法少女隊は71番ポッドを利用してください」
71と書かれているポッドに入った実流に追いつく沙奈。
ポッドオペレーターは二人が入ったのを確認してからポッドの転送ボタンを押した。
実流の中学校
「人間の反応多数。
星の涙の反応あり、魔術を起動して、ノワールを増やした上で星の涙の捜索を開始する」
「あぁ、ジュリ様……」
ラティオと、普段は見かけない、ジュリアや実流と大して歳の変わらない金の長髪をポニーテールに束ねた女子がジュリアに反応する。
「貴女は今回の仕事が初めてだったよね、……ロゼ」
「うむ、妾は初めてじゃ」
「とりあえず、これの使い方を教えてあげる」
闇水晶を取り出して、ロザリアに見せる。
「これに魔力を送り込むと、これを見ている者の心を惹きつけ、吸収してしまう。
吸収された心は、各地の拠点……ここからだと、アライアベースが一番近い。そこを経由して、本拠地へと集められる。
それが私たちの『零化計画』に必要なの」
「ふむふむ……」
ロザリアは頷きながら、メモを取った。
「この後は、アライアベースの見学もしないとね」
「おぉ、本拠地以外の重要施設とやらを見れるのか!?」
彼女は目を輝かせながら、年の近い上司に言う。
「うん、もちろん、所属ギルドのリーダーである私がついているときのみ、だけどね」
ジュリアはロザリアににこっと微笑んでから、再び使い方をレクチャーし始める。
それから数分して、漸く魔法少女隊はその中学校へと現れた。
「とりあえず、図書館に急がなきゃ……!」
実流は沙奈を図書館まで案内しながら移動する。
「みのるんお姉さん、みんなが心配なのは分かるけど……でも、他の人たちにこの姿を見られたらどうするん?」
「あ……そうだった……でもどうすれば……!」
突如、狭間の回廊が出現する。
「我が主、よく聞いてください。
敵は人間が3名、ノワールが数十体、この学校の図書館を拠点に動いているらしい。
私が結界を張っておくので、そのうちに、ノワールを還元し、可能な限り、敵を補足してください。
我が主と、実流ならできる」
リィンはそう言うと、後ろを向く。
「あれ、リィンさんは何処かに行くの?」
「別の仕事を仰せつかっているのでな。
私も忙しいものだよ」
やや悲しい表情を浮かべて、リィンは狭間の回廊へと消えていった。
「せやな……ここはうちらが任されとるんや。
二人でがんばらな、みのるんお姉さん!」
沙奈は笑顔で実流に言うと、実流も微笑んだ。
二人が図書館に入ると、そこに居たのは三人の人間と、無数のノワールだった。
「やっぱり来たな、魔術師連合の魔法少女隊!」
「その声はラティオ!?」
「覚えていてくれて嬉しいよ、実流」
「忘れたくても忘れられへん!」
沙奈も言った。
「既にノワール化は終了している。
あとは星の涙探しだけよ」
ジュリアが言う。
「この敷地の何処かに星の涙があるのは分かっておる」
「君は……?」
「余はロザリアじゃ。ロザリア=リージュドット。
ジュリ様に仕えし精鋭兵じゃ」
鷹の仮面の後ろから伸びる金のポニーテールが美しい少女は名乗り、大鎌を構えた。
「余の大事なジュリ様の邪魔をしようものなら、余が許さぬ!」
「……」
ロザリアが向かおうとしたのを無言で制止するジュリア。
「ノワールの力、試してあげなよ」
ジュリアが腕を振り上げると、黒き巨大十字架が現れた。
「ジュリ様、これは……?」
「中〜大規模型司令塔『モノリス』。
これがあれば、大量のノワールも言うことを聞く」
「なるほど、便利じゃな。
……行け、我がノワールたちよ、妨害者を潰せ!」
無数のノワールたちは、ロザリアの命令で実流たちに襲い掛かる。
「いくら何でも数が多すぎるよ……!」
「みのるんお姉さん、あのモノリスさえ破壊すれば……もしかすると……」
「私のノワールはモノリスを守れ!」
ジュリアが言うと、一際大きいノワールがモノリスの前に出現した。
「おぉ……!」
ロザリアは、あまりの大きさに驚く。
「ラティオ、お前は星の涙を探し出せ!
ロザリアは私とアライアベースを見に行こうか」
「うむ、楽しみじゃ♪」
ジュリアとロザリアは狭間の回廊へと消えていった。
仮面舞踏会ウェルファンジャパン心転送拠点施設
「ふむ……ここが我等の拠点施設か」
「そう。そして、あの巨大な機械がこの付近のダーククリスタルと本拠地を結ぶ物。
この施設の要」
ジュリアが指差した方向には巨大なショーウィンドーのような物体と装置がある。
「なるほど、アライアベースに集められた心を本拠地に送る装置じゃな」
「あ……もうこんな時間か。
ロザリア、今日の昼食はここで摂ろうか」
「おや、そうか。
こういうベース拠点にも食堂なんてあるんじゃな」
「一応有人だからね」
「ふむ……」
実流の中学校・図書館
「お互いが守りあってる……迂闊に近づけないね……!」
「あの十字型司令塔さえ破壊できればえぇんやけど……!」
「そうだっ!」
「どうしたん?」
「沙奈ちゃんはあの十字型司令塔を守るやつの動きを止めて、その間にみのるが十字型司令塔を破壊するのはどうかな?」
「せやな、遠距離魔法使おう!」
沙奈は手に持つロッドで十字を描く。
出現した魔力玉が光の線で結ばれ、光の十字架となった。
「聖なる刃、ここに交わす!」
彼女がロッドを巨大ノワールに向けて振り下ろすと、十字架はノワールを貫く。
「グォォァァッ!」
「よし、みのるんお姉さん、今や!」
実流は待ってましたとばかりに、魔法陣を展開し、ロッドをモノリスに向けている。
「いつでも行けるよ!」
「十字型司令塔に留めの一撃を!」
「うん、任せて!
ディバイン・フレア〜!」
実流のロッドから炎の線が伸びる。
「貫け、焔よ!」
実流のロッドから放たれた炎はモノリスを貫いた。
ピキッと音を立ててモノリスは徐々に砕けていく。
まるで恐れをなしたかのようにノワールは散り散りに逃げていった。
残っているノワールは、おそらくこの学校の生徒や教師といった関係者だ。
一人ずつ、抵抗しないノワールたちを確実に人間に戻した後、実流と沙奈は即中学校を後にした。
アライアベース
「……っ!」
「ジュリ様、どうしたのじゃ?」
突然、ビクッと動いたジュリアを心配するロザリア。
「いや、なんでもない。
気にしないで食べよう」
ジュリアとロザリアは、引き続き昼食であるステーキを食べはじめる。
「お食事中に失礼いたします」
突如間の回廊から現れるラティオ。
「どうした?」
「星の涙は回収完了、しかし、モノリスは破壊されました」
「やっぱり……。
まぁあれはただの時間稼ぎだったしね」
「では、あの区域内の楽浄壇は……?」
「計画範囲外」
「分かりました……では失礼します」
彼は狭間の回廊を出現させて立ち去った。
「ふむ、良いのか?ジュリ様」
「ん?何が?」
「あのモノリスが壊されたのだろう?」
「構わない。さっきも言ったとおり時間稼ぎに過ぎない」
「そうか……」
ロザリアはテーブルに乗っている自分の分のステーキを切りながら言った。
「この後は何処かに移動するのか?」
「ん〜…そうねぇ……まぁ、行きたいならこの近くの拠点にでも行く?」
「そうじゃな、見比べてみたいってのはある」
「じゃあ決まりね!」
ジュリアとロザリアは昼食を食べ終わると、狭間の回廊を出現させてその中へ消えていった。
魔術師連合リヴァイアサン=フォルテス艦隊
実流たちが戻ってきた。
「あ、魔法少女隊、お疲れ様でした。
艦長執務室に行って提督に報告してください」
「「了解!」」
ポッドオペレーターに実流と沙奈が答える。
学校を守ることに成功したみのるん。
その裏では、リィンはどんな任務をしていたのか……。
次話へ続く!