第五話†分身魔法、伝授
日常と非日常の交差点
日常では運動会の競技が決定し、非日常では分身魔法を伝授してもらう
ただただ交差点に佇んだまま右往左往するみのる、なの
実流は家に帰り、『頑張れ魔法少女隊』の漫画を読む。
「魔王って、やっぱりチートだなぁ」
実流は、魔王のシーンを読んでいるようだ。
魔王に対して攻撃をする魔法少女隊。
しかし、魔王は軽くバリアを張るとその攻撃をバリアに溜め、バリアを同じ属性の攻撃の魔弾にして魔法少女隊に向けて投げる。
魔法少女隊の面々は苦痛に顔を歪めている。
『どうすれば、あの攻撃を……!』
魔法少女隊のリーダーは必死に考える。
「実流〜、ご飯よ〜」
「は〜い」
実流は栞を挟み、階段へ向かう。
「♪今日のおゆはんはなぁにかな?」
歌いながら下階に降りる。
今日の夕食はハンバーグだった。
「いっただっきまぁす!」
ハンバーグを食べはじめる。
『明日は分身魔法を伝授するんよ』
そのハンバーグを食べている最中に突如、テレパシー。
送ったのは沙奈である。
『うん、お願いします、師匠』
『そんな師匠なんて……』
頭に沙奈と喋っているイメージをすると、照れ臭そうな返事が帰ってくる。
実流はテレパシーの送り方もわかったようだ。
『とりあえず、明日の夕方7時頃にみのるんお姉さんの家の前に転送してもらうことになったん』
これで実流も日常生活に差し支えないよう、魔法戦ができる。
『じゃあその時にまたね』
「ごちそうさま〜」
実流はテレパシーを切ってから手を合わせた。
一方、八神家では……
「いつも通りの時間に夕食を届けに上がりました」
両親亡き後に引っ越してきた、よく沙奈の食事を作ってくれる女性だ。
「ありがとなぁ、リィンお姉さん」
リィンと呼ばれた女性は微笑むと、包みを沙奈に差し出す。
沙奈はその包みを受け取り、部屋に戻る。
「私も入って良いですか?」
「えぇよ〜」
沙奈はリィンを招き入れる。
「今日は沙奈の好きなハンバーグを作ってきました。
もちろん、ポテトとニンジン、ブロッコリーも一緒に」
「ありがとな〜」
沙奈はリィンに微笑むと、扉を閉じて鍵を閉めた。
「明日の夕食は沙奈が自分で作る日ですし、私は持って来なくて大丈夫ですね」
「うん、明日は7時から友達と会うから家には居ないよ」
「そうでしたか」
テーブルに着くと、リィンが作ってくれたハンバーグを袋から出してから話す。
「沙奈のご友人……私もお会いしたいものです」
「はわわっ、機会があったら紹介するんよ」
沙奈は少し慌てる。
……翌日、実流の学校の、最後の授業時間であるLHRにて
「本日から運動会に向けて練習を始めましょう」
「せんせ〜、今年はどんな競技があるんですか〜?」
「今年の競技は……」
担任は黒板に書きはじめる。
・組体操(全員参加)
・特殊スウェーデンリレー(一人目は100m、二人目は200m、三人目は300m、四人目が400m走ったあと、最初の人がアンカーとして1km走る、計2kmのリレー)
・300m徒競走(全員参加)
・ラジオ体操(開会式に行われる)
・玉入れ(全員参加)
・棒倒し(代表10名)
など、多種多様な競技が行われる。
「これらがあります。
私のクラスでの各競技選手の選定は運動会実行委員を最優先に、あとは立候補を優先して選出した後、くじ引きです」
平等性も考えた決め方である。
「このクラスの運動会実行委員は……
渚砂さんと前島さんですね。何がやりたいですか?」
「有沙ちゃんは何にする?」
「スウェーデンリレーかなぁ」
「ちょうどみのるもスウェーデンリレーに出たいと思ってたの」
「みのるんならきっとアンカーにもなれるよ!」
「え〜、そんなことないよ〜」
「えっと、前島さんと渚砂さんは「スウェーデンリレー!」
実流と有沙は同時に立候補した。
「二人とも走るのが得意っていう話を体育科から聞いてますし……
ちょっと大変だけど渚砂さんはアンカー、前島さんは四走者を任せて良いかしら?」
「はいっ!」
「ほら、言った通り、アンカーになったでしょ?」
有沙は実流に目配せしながら言った。
「みのるんがアンカーなら1位も間違い無しだね!」
「じゃああたしは有沙さんに渡したい〜!」
「このクラスがスウェーデンリレーで1位を取ることになるのは確実だね」
クラスメイトも絶賛である。
更に、スウェーデンリレーへの立候補まで。
「じゃあスウェーデンリレーは3人確定で、あとはくじ引きで良いかな?」
「「「「は〜い!」」」」
くじ引きで決まっていく競技。
「さ、競技も決まりましたし、早速練習を「キーンコーンカーンコーン」
あら、時間になってしまいましたね。練習は明日から始めましょう」
とりあえず、これで今日の1日の授業は終了になった。
「じゃ、引き続いてSHRを始めましょう」
いわゆる帰りの会である。
日直の挨拶、担任の挨拶が終わり……
「では、明日の日直への引き継ぎをお願いします」
日直当番の男子は、実流へ『日直』と書かれた腕章を差し出し、日直当番の女子は同じものを有沙に渡す。
「では今日はこれで終了です。
生徒は早く部活に行きなさいね」
担任の先生は教室を出ていった。
部活(バトントワリング部)
「今日は昨日から始めた曲に合わせてトワリングしましょう」
なんと、担任が引き続き顧問である。
「は〜い!」
顧問はCDを掛けはじめ、生徒たちは予め練習してあった曲を踊る。
一回踊り……
「みんな上出来ですね。これからも練習は欠かさずに!
以上で本日の部活を終わります…礼!」
「「「ありがとうございました〜!」」」
生徒たちは礼をして解散した。
その日の夜6時半。沙奈の家。
「っとと、みのるんお姉さんに分身魔法の伝授、やな」
携帯電話のアラームが鳴り、『魔法伝授』という文字が液晶画面に表示される。
一度リヴァイアサン艦隊を経由して実流の家に着いた。
「ここがみのるんお姉さんの家か……
立派な家やな……」
「あ、沙奈ちゃん、お願いします!」
実流は家から出てくると、沙奈を呼ぶ。
街頭の上から二人を見守る影が一つ。
「我が主の分身、今は5人が限度……
あの娘がどれほどの魔力か、見定めさせてもらおう……」
沙奈の気配を追い掛けてきたリィンである。
「じゃあ…早速始めよか」 沙奈もリィンに気づいていない。
「我が主……結界も張らずに始めるとは……」
リィンはそれだけ言うと、手を上げてから勢いよく振り下ろす。
リィンを中心に半径200m程の魔法陣が出現し、その魔法陣から大規模な青い時空結界(時間と空間を一時的に分離し世界の裏側に送り込み、魔法や魔術を持たない人間は中に入ることは勿論のこと、認識すら出来ない結界。中に居た一般の人は、世界の表側に残す)が発生する。
「はわわっ、結界!?」
沙奈は周囲を見渡すが、結界を発生させた存在は確認できず。
「まぁええか、ほな始めよか」
沙奈は目を瞑り、精神を集中させる。
「魔法は、所謂統一された精神をイメージすることでロッドからイメージしたベクトル、力、形で出すんよ」
「あ、それならユノくんに聞いたよ」
「つまり、沢山の自分を想像して……それをロッドから……」
沙奈は魔力玉を7つ出現させ、先端がクロスをモチーフとなっているロッドを出現させ、それを振り上げると、魔力玉は輝きだし、沙奈の姿になる。
「何と……我が主はいつのまに7体出せるほどまでに成長していたか。
問題はあの娘だ。どれほどの魔力を持っているのか、見てみたくはあるな」
「沢山の自分を……想像して……ロッドから……!」
沙奈の見よう見まねで、ロッドを振り上げると、空間の一部々々が燃えだし、その炎の中から大量すぎる実流が出現!
沙奈とリィンが驚きの表情で固まった。
「み、みのるんお姉さん……!凄い……」
沙奈は驚きながら拍手した。
「そ、そうかな……?」
出した分身は口々にオタク話を始め出した。
「えっと……分身の感情の制御って出来ないのかな?」
がやがやがやがや……。
「分身の感情の制御も精神の集中でできるんやけど……」
「せ、精神の集中」
実流は精神を集中し、分身実流を静まらせた。
「半分からこっちは三回まわってワン、残りは三回まわってにゃーと言いなさい」
実流が分身たちに言うと、分身たちは、言われた通りの行動をする。
「すっご〜い!」
「魔力の消費を制御すれば1体だけ出すのもできるんよ〜」
実流が魔力を制御すると、分身は1体残して全てが消える。
「分身が食べたものも本体のエネルギーになるから、分身に普段の生活をさせていれば問題ないんよ〜」
リィンは街頭から飛び降りて実流と沙奈の前に姿を現す。
「素晴らしい魔力だ。
さすが魔法少女隊のリーダー、と言ったところか」
「はわっ?何でリィンお姉さんがそれを知ってるん?」
「私も魔術師連合と通じていますから」
驚愕の新事実!
リィンは微笑みながら言った。
「こう見えて私も魔法使いなんですよ、我が主」
「はわっ、我が主……
うちのこと?」
「えぇ、主沙奈」
リィンは尚言う。
「そろそろ明かしても良いでしょう、私の正体を…そして、私の役目、貴女の家にあった古き『Faites』と書かれた魔導書のこと。
私は、貴女の家の魔導書を守るために生まれた……いえ、生み出されたというべきでしょうか。
貴女のご両親がお亡くなりになられた時に封印が解けるよう…予め彼らによる魔術が掛けられてました。
彼らは魔法を使えない代わりに、独学で魔術を学び、貴女の役に立てようと考えていたらしいです。
さらには、自分に死が訪れた時に、私の主が貴女になるよう私に命令しました。
貴女が私の主になる前は、貴女のご両親が主だったのですよ。
私の持つこの魔導書の名前は『宿命の魔導書-夜天-』、そう、貴女の家にあった物。
私が目覚めた時に私の手に宿る様に作られている。
私の指名は我が主である貴女を守ること、それと同時に貴女を鍛えることでもあるのです。
私が今住んでいる家は、私が眠りから目覚めた時のために彼らが用意して下さった場所なんですよ。
そして最後の説明、この魔導書について。
これには神の言葉で全ての生命の宿命が書かれている。
むやみにその宿命を変えられないよう、私が居る。
ですが、私の魔導書だけでは、いつ、何処でそんな宿命が訪れるかは分からない。そこで……
この気配……!奴らのノワールだ…!」
良いところで妨害が入る。
「我が主は逃げてください」
闇の穴を出したリィンはそこに沙奈を入れてから闇の穴を閉じる。
「実流と言ったか、私に協力してほしい」
「え、うん、良いよ!」
実流は分身を消すと、ロッドを構える。
「私は向こうをやるから……」
「みのるはこっちだね!」
円形の陣を組んで現れたノワールに対して半分ずつに別れて戦う。
「どれもクリスタルが無い……
どうやって倒すの?」
「完全に心が盗られてる。
構成崩壊すしかない」
「……仕方ないよね……。ごめんなさい……!」
実流はロッドを構えてからノワールの群れに向き直る。
「我が書に飲まれて消えよ……!」
「フレイム・バスター」
リィンが魔導書を開き、その中にノワールを封じ込め、その後ろでは実流がノワールに炎の魔法弾を打ち込む。
「流石に敵の数が多い……!」
「キリがないよぉ……」
倒しても倒しても現れてくる敵を見て、
「聖なる刃、ここに交わす!」
突如、沙奈の声が響き、十字架が現れ、光が飛び散る。
飛び散った光に触れたノワールは消え去る。
「みのるんお姉さん、リィンお姉さん!大丈夫?」
沙奈は二人に駆け寄る。
「我が主……逃げたのでは……?」
「一度は逃げたんやけど、やっぱ二人が心配で……」
――やはり…このお方も主の器だ。
今までの私の主は皆、私を完全に道具としてしか見ていなかった。
だが、このお方とそのご両親は私の見を案じてくれる。
このお方についていけば、きっと全人類共通の敵を討ち滅ぼせるであろう――
リィンはそっと胸を撫で下ろす。
「ん?どうしたん?」
沙奈はリィンを見た。
「いえ、ただ二人なら今魔術師連合と敵対してる組織と戦えるかもと思いまして……」
「仮面舞踏会……だね」
実流が言う。
「あぁ、仮面舞踏会だ。
連中が考えている計画もほぼ確定している」
リィンがやや悲しげな瞳言った。
「奴らは人の神化計画を狙っているらしい」
「進化……?」
「ある意味では進化と言えるだろう。
人間の心の奥底にある自身でも気付かない最も深く、最も強い願い、『神への回帰』…心を集めて星の涙を使うことでそれを叶える。
さらに、核となる人間に『神になりたい』と願わせながらその心の集積体に入れれば、結果は自ずと明らかになるだろう。
星の涙がもたらす人の運命の書き換えは私の魔導書には載らない。つまり、神化に使われる人間が誰であるかは私にも分からない」
リィンは淡々と説明する。
「人間を平気でノワールにする連中だ。
誰を神化させるにせよ、その後の全人類に影響をもたらすだろう。
極めて良いとは言えない影響を…な」
リィンはそれだけ言うと、闇の穴を出す。
「これは狭間の回廊。
次元間空間を移動するために使う穴だ。
仮面舞踏会御用達の、な。
さぁ、帰りましょう、我が主」
「あ、うん。また明日、艦隊でなぁ、みのるんお姉さん!」
「うん!」
沙奈とリィンは狭間の回廊へと入っていき、狭間の回廊は消えた。
「明日は休みか……」
実流は呟くと、そのまま家に戻る。
分身魔法をマスターしたみのるん
仮面舞踏会がある以上、まだ戦いは続くのだ
次話へ続く!