第八話†大きな失敗とジュリアの逮捕
小規模楽浄壇の形成と、それによる人のノワール化
タッチの差で救うことが出来ない、歯痒い思い
それは大きな失敗
でもジュリアちゃんを逮捕して話す機会を得た
ジュリアちゃんを説得して、何としても仲間に引き入れたいみのるなの
ウェルファンジャパン・首都東京都内
この日、この場所で年に2回の風物詩、『コミックマーケット』通称『夏コミ』が開かれる。
それは、人が大量に集まり、仮面舞踏会の良い標的となる、ということだ。
もちろん、仮面舞踏会はこの機を逃すことなく、やってくる。
突如として、会場の片隅に狭間の回廊が出現し、そこから現れる3つの人影。
「手筈通りに、ロゼは星の涙を捜索、ラティオは小規模の楽浄壇形成、私は任務総括として、囮をする」
「相分かった」「了解じゃ」
指示を出した銀髪少女に呼応する短髪青年と金髪少女。
仮面魔戦士団のジュリア、ラティオ、ロザリアの3人である。
「スタンバイ位置に着いたら各位連絡を入れて。……レディ・トゥ・セット!」
ジュリアの指示で全員が定位置に向けて走り出す。
リヴァイアサン艦隊・魔法少女隊宿室
「そういえば夏のコミケって明日からだね」
「夏のコミケ?何なん?」
「コミックマーケットの略だよ」
実流は沙奈に説明する。
「コミックマーケット?」
「同人誌とか売ってるんだ。
コスプレしてる人たちも居て、話したりしてると楽しいんだよ!」
「見に行ってみたいなぁ」
意気投合!
「じゃあ行こうっ!」
「私も御一緒しても宜しいでしょうか?」
突然割り込むリィン。
「えぇよぉ!」
沙奈は満面の笑顔で返す。
「じゃあ、明日の朝、みのるの家の前で集合ね!」
「「了解!」」
実流は微笑むと、家に帰る為にテレポータールームへ向かった。
翌日早朝、コミケ会場
「昨日の手筈通りに、開始1時間で魔導祭壇を発動して」
「「……了解」」
暗躍する影が蔓延る。
徐々に増えていく客。
「案外来るのが早いものね」
ジュリアは、客のふりをして見回りをする。
「まだ始まってもいないのにこんなに人が集まるとは……」
ロザリアも驚愕。
「想定していたより多くの心が集まりそうだ」
ラティオは建物の高所で、入る客と時計を交互に見ている。
そのまま数分経ち、影は動き出した。
「時空結界発動!」
ジュリアが一声放つと、何もない筈の空間が歪み、そこに祭壇が現れ、祭壇から放たれた黒いビームが赤黒い結界を構成する。
「楽浄壇開放!」
ラティオの叫びに呼応するかの如く、祭壇が大きなダーククリスタルを召喚した。
「大丈夫じゃ、まだ魔術師連合は来ぬ」
ロザリアが出入口に立ち、見張りながらジュリアとラティオに言う。
「これで、泉は完成する。
……泉が完成したら大きな前進が期待できる」
ジュリアは、巨大ダーククリスタルが人々の心を集めるのを見上げながら、誰に言うともなく呟いた。
それから数分して、客の殆どがノワールになってから、実流たちが走ってきた。
「結界!?」
「この色……仮面舞踏会や!」
実流の一声に沙奈が返した。
「来たな、魔術師連合!」
ロザリアが大鎌を構えながら言う。
「邪魔しないで!」
「ジュリ様の邪魔をするやつは許さぬ!」
どちらも引かない。
「そこをどいて、お願いだから!」
「余はジュリ様の下僕……。
主の計画を邪魔するなら、向かい討つのみよ!」
「忠犬とでも言うつもりなんか?」
沙奈が問うた。
「そこをどいてって……言ってるでしょ!」
実流はディバイン・フレアを放つ。
「そんなもの、余には効かぬ!」
ロザリアが手に持つ大鎌を振るうと、炎線は真っ二つに別れて消えた。
「まさか……死に神『魔導破壊』の鎌……!
リィンから話だけは聞いた……」
「その通り、魔法を殺す死に神の鎌だよ」
沙奈の一声に、ジュリアは歩み寄り、ロザリアを愛おしそうに撫でながら答える。。
「お疲れ様、もう計画は済んだ。
後はお好きにどうぞ、ロゼは先に行ってて」
「あぁ、ジュリ様は?」
「私は……一試合してから帰還するわ」
そう言いながらロッドを構えるジュリア。
「待っておる」
ロザリアは狭間の回廊を出現させて逃げていった。
「あ、待って!」
「行っちゃダメ!」
追おうとした実流を止めたのは何と沙奈だった。
悲しい記憶、レヴィーナが帰ってこなくなったあの時を思い出していた。
1ヶ月前、某海上運搬企業……
「星の涙は既に我々の手に入った。
もうここには用はない。
お前たちもここと一緒に海に沈むが良い」
ラティオは冷たく言い放つと、狭間の回廊を出現させ、その中へと消えていった。
「沙奈ちゃん、貴女は私みたいなバカなことをしちゃだめよ」
「……?」
「帰還したら、私が戻って来ないかも知れないって、提督とセルジュくんに伝えてくれるかしら?」
「それ、どゆことなん?」
「細かい説明をしてる暇はないわ」
レヴィーナが狭間の回廊へ入っていった直後、それは消えていった。
「そんな……嘘や……!嘘やって言ってよ!!」
沙奈は泣き崩れた。
「居たぞ、逃げ遅れた子だ!」
「連れていこう!」
無事救助された沙奈は、その後、どうやって帰っていったのか、自分でも覚えていない。
現在に戻り、コミケ会場……
「一人、同じ理由で仲間を失ったんよ……。
よくうちの面倒を見てくれる優しいレヴィーナお姉さんや……」
沙奈は悲しそうな顔をしている。
「それに、今は目の前の人を助け出すのが先決!」
実流はロッドを構えた。
「……縛れ、焔よ!」「……アルテマ・レイジ・バインド!」
それはほぼ同時だった。
実流とジュリアはお互いに縛り上げられたのである。
「みのるんお姉さん!」
沙奈は助け出そうと、ジュリアに対して攻撃をする。
魔力弾を一つ出現させると、それに向けてロッドを突き込み、飛ばす。
光の矢となったそれの直撃を受け、一度は倒れたジュリアだったが、一気に空へ上り、ロッドを実流たちに構えた。
「雷よ、我が手に集え、閃光残し稲妻走れ……」
魔法陣には、金色輝く雷のエネルギーが溜まっていく。
「サンダー・ブラスト!!」
収束された雷の一撃を、実流たちは諸に受ける。
「なかなか……やるね。
みのるも負けてられないな……!」
「何っ!?」
あれだけの雷を受けたにも関わらず、まだ立ち上がれる。
その上、バインド魔法による足止めまで。
「受けてみて、ディバインフレアのバリエーション……!」
実流が魔力を溜めていく。
周囲の熱を一カ所に溜めるため、それは徐々に熱くなる。
「くらえ、ギガント・フレイム・ブレイカー!!」
収束された焔の魔力がジュリアを包み込んだ。
「くぅっ!……耐えてみせる、あの子だって耐えたんだから……!」
灼熱の焔に身を焼かれる。
服の焦げ付く臭いが鼻を突く。
「絶対に……耐えるっ!」
だが、灼熱はジュリアの体力を奪う一方だった。
耐え切れず落ちたジュリアに歩み寄る実流。
「気を失ってる……」
いろいろと聞きたいことはあったが、今は無理だ。
沙奈と協力してジュリアを転送ポイントに運ぶ。
「ノワールになっちゃった人達も逃げちゃったみたいだし、彼らの救出は後回しになるかな」
「せやな」「我が主!」
実流に答えた沙奈と、リィンの呼び声はほぼ同時だった。
「リィン?」
「我が主、結界の気配がしたので急いで来たのですが、遅かったようですね……。
私も同時に家を出ていれば……!」
「うちらも、来るんがもう少し早ければ……」
「己れを責めないでください」
「うん……」
「とりあえず、その娘の逮捕に成功したことだけでも、喜びましょう」
「せやな……」
「私は先に戻ってますね」
リィンは狭間の回廊を出現させて、そこに入っていく。
実流と沙奈も、ジュリアを連れたまま、転送装置で帰還していった。
実流と沙奈の活躍で、ジュリアの逮捕に成功した魔術師連合。
だが、事の成り行きを見ていた影と、仮面舞踏会の新たな動き。
せっかく逮捕したジュリアの脱獄。
心の泉の完成と、次の計画の幕開け。
いよいよ、仮面舞踏会の計画は実行に移る。
果たして心を盗まれたノワールはどうなるのか、次話へ続く!