(44) 第2回メレ・アイフェス集合会議④
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サイラスは吐息をつくと、ようやく壁から離れた。カイル達のいる長卓に近づき、対面にあたる空いた椅子にゆっくりと腰を下ろす。人生、諦めが肝心だ――自分に言いきかせながら、恐怖に打ち勝った。
カイルが無意識に放つ得体の知れない威圧は相変わらず酷いが、隣にディム・トゥーラがいるならばまだマシなのだ、とサイラスは判断したのだ。
カイルはサイラスの行動に嬉しそうに微笑んだ。隣にいる子犬もどきのウールヴェの複数ある尻尾が全回転しているから、本当に嬉しいのだろう。
無意識の魅了全開行動であり、この人たらしめ、とサイラスは呆れた。こうなるとカイルを警戒していたことすら、馬鹿馬鹿しくなる。
侍女を呼ばず、カイル自身がサイラスのためにお茶を入れはじめる。やけに慣れた手つきだった。
こいつ、自動給湯器を持ち込んでやがる――サイラスは地上の品に偽装した拠点の日用品を見抜いて、問うようにディム・トゥーラを見た。
地上には、思念で起動し、お湯を沸かす機能のある携帯型小型給湯器などないはずだった。
「問題ない。無人走行荷車に比べれば、かわいいものだ」
「……その基準おかしくね?そんなこと言ったら、全部の違反がかわいいものになるじゃないか」
「その通りだ。こいつの通常のやらかし具合がこれぐらいだと、ケトルの持ち込みはこれくらいだ」
ディム・トゥーラは、両手をいっぱいに広げてみせてから、指で数ミリほどを示した。
そんなにかよ――サイラスは支援追跡者が気の毒になった。
「ひどいよ、ディム」
「事実だろうが」
カイルは抗議を諦めると、サイラスにいれたお茶を差し出しながら尋ねた。
「ところで、ひとり?リルはどうしたの?」
「養い子ならアッシュと一緒に猫親分のところで待ってる」
「……猫親分……」
サイラスが語る対象者は、間違いなくロニオスのことだった。
「猫親分って……」
「アッシュによると東国の縄張りを管理している任侠の首魁を『親分』って呼ぶらしいぜ。ありゃ、間違いなく『親分』だろう。猫姿の初代だから『猫親分』」
カイルは軽く顳顬を押さえた。
「……サイラス、東国の『任侠』の定義を本当にわかってる?『仁義を重んじ、弱きを助け強きを挫くため身体を張る自己犠牲精神にあふれる性質』って意味だよ?」
「俺が理解できない分野なことは、悟っている。イーレが語る武道の精神みたいなものに似てるな」
「だいたいロニオスは自己犠牲精神になぞ溢れていないよ。どちらかというと、己の欲望に忠実で、他者の犠牲を厭わない性格だから、ね?…………イーレの方が、よっぽど情に厚い『親分』だよ」
「いや、イーレは唯我独尊な女帝だぜ?」
サイラスの真顔な即答に、カイルとディム・トゥーラは納得しかけ、こらえた。
同意がバレれば、話題の彼女に間違いなく殴り飛ばされる事案だったからだ。
「あのロニオスとやら、中身が初代の一人でもちょっとおかしくね?」
「……どういう風に?」
「猫の姿のくせに東国の裏世界にアッシュ以上に詳しい」
「……………………」
「……………………」
「地理も歴史も些細な風習まで詳しくてアドバイスまでくれる。それが的確すぎる。まるで影で牛耳っていたことがあるみたいだ」
「……………………」
「……………………」
「だいたい発酵酒の注文が細かすぎるんだ。東国の全酒蔵の特色を把握してるって、異常だよな?」
「……………………」
「……………………」
カイルとディム・トゥーラが揃って微妙な顔をしていた。
エトゥール城の聖堂のそばには、かつて国のシンボルだった折れた精霊樹がある。 その精霊樹をはさんで聖堂の反対側の庭園の一部に、大災厄後のどさくさに紛れて、東国風の木造平屋敷がこっそりと建てられていた。
樹木の配置により、周囲の建築物とのアンバランスさは、ある程度誤魔化されている状態だ。
家主はサイラスのいう猫姿の『親分』であるロニオスだ。
三食昼寝付き酒付きで、隠居生活と本人が主張する自堕落な生活を現在進行形でしている。
「あの人は、その膨大な知識をどうして復興に役立ててくれないのかなあ」
カイルから愚痴に似た言葉が漏れる。
「協力の要請はしたのか?」
「もちろんしたさ!あの人、なんて言ったと思う?」
「なんて言ったんだい?」
「『忙しくても、猫の手は借りるべきじゃない』」
その言葉はサイラスの笑いのツボを直撃した。サイラスは大爆笑した。
「笑いごとじゃないんだよ?こっちは慢性的な人手不足なんだから」
カイルは唇をとがらせて、サイラスに訴えた。




