(42) 第2回メレ・アイフェス集合会議②
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サイラスはカイルのウールヴェと称する仔犬もどきを観察した。
確かに外見は犬より狼に似ている。鼻口が長めで、耳が長い。
だが野生というよりは、まるで愛玩動物のような愛らしさがあり、瞳の色はカイルと同じ金だった。しかも尻尾は長く複数あった。
尻尾を感情表現で激しく振るのは、狼ではなく、犬の特徴と合致している。
サイラスはディム・トゥーラに向き直った。
「動物学者さんよ?世界を壊したくないけど、コレはどう見ても犬に分類されないか?」
「言いたいことはよくわかるが、まず大前提として、ウールヴェを動物と分類するのは断固として拒否する」
「なんで?」
「こんな遺伝子理論が破綻した生物を動物と認めたら、俺の大半の論文を破棄する羽目になるからだ」
「………………」
これは冗談だろうか、とサイラスの判断に迷いが生じた。
所長エド・ロウの片腕として観測ステーションを影で牛耳っていたディム・トゥーラは、冷静沈着な指導者の見本のような人物だった。
だが、彼が支援追跡をしている問題児カイル・リードと自分の研究分野に関しては、その仮面が剥がれることが多い。観測ステーションでサイラスは、その落差を楽しんでいたものだ。
「楽しむな」
筒抜けだった。
「ウールヴェは動物じゃなくて、『精霊』の類だよ」
カイルが会話に静かに割って入った。
「シルビアが言ってたヤツだな。半分も理解出来なかった。だいたい『精霊』って、なんだ?」
「あー、そこらへんの記憶もないのかぁ。僕達の世界では失われた概念で、理解するのは一苦労かもね。つまり、この世界の人々は、自然や世界を守護管理する目に見えない存在を信じているんだ」
「というと?」
「この惑星の人々は、山や川、大地、樹木などに宿っていると考えられる超自然的な存在を信じ、信仰しているんだ」
「……そんなのあるのか?」
「あるんだよ」
「目に見えなくてどうやってその存在は確認できるわけ?わかんねーな」
カイルはなぜか、ぷっと吹き出していた。
サイラスは馬鹿にされたのかと思い、ムッとした。
「なんだよ」
「あー、ごめんごめん。当初の僕と同じ思考をしているから、ちょっとおかしくって……。そうだよね、そう思うよね」
「そこらへんは、イーレの方が詳しいだろう。彼女の専門は、先住民文化で原始宗教の概念をある程度、理解している」
ディム・トゥーラの助言に、サイラスは変な顔をした。
「どうした?」
「……イーレの本職が学者だってことを失念してた」
「……」
「……」
カイルとディム・トゥーラは、その反応はわからないでもない、と内心思った。
イーレは研究より鍛錬に時間を割きがちであり、それに間違いなく付き合う羽目になっているのは弟子であるサイラス・リーだったのだ。研究馬鹿より筋肉馬鹿の方が称号として相応しい。
「ついでにいえば、その目に見えない存在の親玉がくたばりかけて、カイルと同調している。サイラスが恐怖を感じる元凶だ」
「シルビアが言ってたヤツだな?!」
サイラスは呆れたようにカイルを見た。
「お前、馬鹿かよ?、なんで、そんなものを拾ってるんだよ?!」
「いや、拾ったわけでは……」
「拾ったんだよ、この馬鹿は」
ディム・トゥーラが、冷たくカイルの過去の行動を批判した。
「そんなもの元の場所に捨てて来いっ!俺が近づけないだろう?!」
「いや、あの、捨て犬や捨て猫じゃないんだから――」
「飼えない動物を拾うな、って大原則を知らんのか?!」
「いや、動物でもないし――」
――犬じゃない
子狼型のウールヴェが不満そうに言った。
「トゥーラ、ややこしいからちょっと黙っていて」
「トゥーラ……?」
サイラスはカイルの言葉を聞き咎めた。
しまった、とカイルは片手で顔を覆った。
ディム・トゥーラは、そっぽを向いている。
「え、お前、この犬っころに支援追跡者の名前をつけたわけ?ディム・トゥーラ由来の?」
「うっ……」
「命知らずもいいとこじゃね?」
「……イーレをババア扱いする命知らずに言われたくない……」
その言葉は無視して、サイラスはディム・トゥーラの方を見た。
「よく、激怒しなかったなぁ」
「激怒したとも。ついでに言うと、判明した当時殴り倒している」
ディム・トゥーラは、そっけなく答えた。
「え、でも、許しちゃったわけ?本当にカイルに甘すぎねえ?」
はあ、とディム・トゥーラは吐息をもらした。
甘すぎる点は否定しないのかよ、とサイラスは内心思った。
「こいつは優秀なんだ。身を犠牲にして、地上とカイルを救った。尊敬に値する。だから名付けに関しては許した」
――僕、よくできる優秀な子
ウールヴェは得意げに胸を張った。
「すごい、知能だな……」
サイラスは会話を理解していることに驚いた。
「……養い子のウールヴェはここまで喋らないぞ」
「主人のカイルが規格外だから、成長度が違うんだ」
「僕だけ特別扱いしないで。ディムのウールヴェだって利口じゃないか」
カイルがやんわりと抗議した。




