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(35) 東国にて㉟

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 サイラスは頭を掻きむしった。

 たかが数年――そう、たかが数年の記憶の喪失なのだ。それなのに、わけのわからない事態に陥っている。


 一方サイラスは、カイルが観測ステーションで行方不明になった事件を昨日の出来事のようにはっきりと覚えていた。

 (カイル)は追跡不能状態で生体反応(バイタル)を消失させたのだ。

 

 通常、生体反応(バイタル)の消失は、死亡を意味する。


 しかもカイルはその二週間前に地上探索の精神飛行中に心拍停止という死亡状態に陥り、蘇生処置を受けていた。

 当然、蘇生後は予後の監視対象となっていた。担当はシルビア・ラリムだ。


 その監視体制が整っている中の行方不明事件など、前代未聞の出来事だった。しかも痕跡がないのだ。

 ありえない――その一言につきた。


 観測ステーションはこの事件で大混乱に陥いった。瞬間移動(テレポート)の能力者でもないカイルが忽然と姿を消したのだ。その後、中央(セントラル)からの指示で惑星探索(プロジェクト)は中止になった。


 通常は帰任するところを、ディム・トゥーラは観測ステーションに残留することを選択した。

 これもサイラスにとって驚きだった。


 中央(セントラル)未来の技術官僚(エリート)には、辺境に位置する観測ステーションに残留するメリットなどない。

 それを証明するかのように、ほとんどの研究員はプロジェクト中止と同時に帰還した。

 にもかかわらず、ディム・トゥーラは再三の帰還提案を見事に蹴飛ばして、辺境の観測ステーションに残ったのだ。


 理由はカイル・リードだろう、と簡単に推察はできた。

 しかし、その行動選択の原理をサイラスには理解できなかった。少なくとも、規約重視の中央(セントラル)に所属する人間の選択ではない。


 ディム・トゥーラはカイル・リードの支援追跡者(バックアップ)だった。精神が不安定になりやすい強大な能力者の保護のため、優秀な精神感応者(テレパシスト)がそのサポートをするというシステムだ。

 ディム・トゥーラの残留の選択は、支援追跡(バックアップ)対象のカイル・リードが行方不明になったことの自責の念とは、少し違うようにサイラスは感じた。


 所長エド・ロウの右腕として、観測ステーションを牛耳っていたディム・トゥーラは、完璧な管理者に近かった。

 研究馬鹿で研究がからむと暴走しがちの研究員達を、飴とムチで見事に統率していたのだ。


 その冷静沈着な指導者候補の(ディム)は、カイル・リードがからむとよく感情を爆発させていた。

 カイルのやらかし具合から考えると、無理もないと周囲に思わせる事案が多かったとはいえ、サイラスは人間味の断片を見せるディム・トゥーラの反応を興味深く観察していたものだった。カイルがディム・トゥーラの説教を受ける光景は、観測ステーションの平和な日常の一つとして風物詩にさえ、なっていた。

 そのカイル・リードは、ディム・トゥーラの内面に影響を与えている自覚が皆無だった。


 カイル・リードは間違いなく要注意な『人たらし』な人種だ――とサイラスは結論づけた。周囲の人間に無関心なサイラスでさえ、興味をひいてしまう存在なので、間違いなかった。


 事件当時、イーレも残留を選択した。

 これもはっきりと覚えている。

 責任権限を持たない顧問(オブザーバー)の立場を放棄してまで、所長エド・ロウの代理人として残務整理を理由に観測ステーションに残った。

 そのため弟子であるサイラスも当然、研究員が激減した観測ステーションで生活を継続した。


 降下隊の任務もなく、物流管理も減ったサイラスは暇を持て余すしかなかった。

 余った時間は、身体が鈍らないようにほぼイーレ相手の鍛錬か自主トレーニングで消費し、単調で退屈な日々が続いた。


 だが、行方不明のカイルが発見されると怒涛の展開が待っていた。


 カイルはなぜか探索対象であった惑星の地上にいた。しかも接触禁止対象の地上の人間と深く関わっていた。怪我人に体内チップを譲渡するなど、軽く見積もっても数十年の禁固刑に該当する違反行為だった。

 地上の人々を救うため、体内チップを使い果たしたカイルをシルビアが救出に向かった。


 サイラスはこの時点でカイルの行動が理解できなかった。

 自分の命を危険にさらして、なぜ地上の人々を救うのか?

 将来の自由との等価交換と言うには、絶対に割りがあわない。なのに、なぜ?

 孤立無縁の地上で死んで、クローン再生の復活にかけた自殺行為なのか?


 単純な救出のはずだったが、事態はさらに混迷を深めた。

 合流した二人揃って帰還する寸前に、地上に定着した移動装置(ポータル)が落雷によって破壊されたのだ。


 その瞬間を画面(メイン・スクリーン)で目撃したサイラスは、面白いと感じてしまった。

 カイル・リードとシルビア・ラリムの二重遭難という非常事態にもかかわらず、サイラスは不謹慎にも好奇心と未知の現象の遭遇に心躍ってしまったのだ。

 

 移動装置(ポータル)の定着条件と強度をサイラスは知っている。

 正確な確定座標の数値と安全確保が必須条件であり、その強度は、たかが落雷で破壊されるものではない。

 地軸変動がおさまらない原始惑星に降下したこともあるサイラスには、知識があった。常時、雷雲がたちこめる地上への着雷があり、移動装置(ポータル)への直撃もあったが壊れない。それは想定内の自然現象なのだ。


――これは自然現象ではない()()だ。面白い。


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