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(33) 東国にて㉝

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

「許せるも何も俺は若いぞ?!ジジイじゃないっ!その前提がそもそも間違っているっ!」

「サイラスが爺様(じいさま)扱いされると、同年代の私も巻き添えを食うので嫌です」


 叡智(えいち)(つかさど)るはずのメレ・アイフェスの二人は、ズレた視点で抗議してきた。


 年寄り扱いされるのは、導師(メレ・アイフェス)でもやっぱり嫌なのか――と、リルはサイラス達の反応に笑った。

 そういえば初対面の時に、死んだ父親ぐらいの年齢の男性に見えて『おじさん』と呼んだら、『名前で呼んでくれ』と当時のサイラスは片言なエトゥール語で強く主張してきたことがあった。


「サイラスでも年寄り扱いされるのは、嫌なんだ?」

「当たり前だ」

「でも地上人よりはるかに年上なのは、事実でしょ?」


 リルは理詰めでサイラスに問いかけた。


「事実でも嫌だ」

「だったら、イーレ様も同じ心境だと思うけど?」

「――」


 それは思いもよらなかった、という表情をサイラスは浮かべている。

 え?まさか、本当に今、指摘されて気付いたの?

 これには、リルも驚いた。

 誰もサイラスに指摘しなかったのだろうか?

 リルは念のため、と解説を加えた。


「特に女性は年齢に関する発言には敏感だから、地上でも禁句に近い話題だよ?そこは控えるべきじゃない?多分、この点は変わらぬ女性特有の共通文化じゃないのかな?」

「どうしてそう思うんだ?」

「過去にイーレ様がサイラスを殴り飛ばすのは、ほぼ年齢に関する発言だったから」

「――」

「すごい地獄耳で、失言をしたサイラスを木盆をなげて昏倒させたりしていたもん」


 サイラスは指摘が正しいことに黙り込んだ。そして同時に別の点で衝撃を再び受けていた。

 地上生活でも、養い子の目の前でイーレに叩きのめされていたとは――新しい妹弟子に対して見栄をはる余地は、加速発射装置(マスドライバー)で宇宙の彼方に弾き飛ばされてしまった。

 

「イーレ様は師匠で上司――礼節は守るべき。女性に対する気遣いとして、年齢の話題や暴言は封印するべき。ここまでは理解できた?」

「お、おう」


 サイラスは、ぎこちなく応じた。


「だいたいサイラスは破門されるのは嫌だったんでしょ?」

「俺……過去にそんなことを喋ってる?」

「破門されるたびに、再試験を受けて弟子入りをしているって言ってた」

「へっ?」


 サイラスは心底驚いた。

 そんな内情は、周囲の関係者にすら、あまり語ったことがないが事実だった。


「カイル様は、それをイーレ様とサイラスの定期行事って言ってた。超ハードだけど、師匠が弟子を鍛えている範疇(はんちゅう)だって。イーレ様を師匠として尊敬しているから、破門されても再試験を受けるんでしょ?」

「……………………」

「まあ、でも、その再試験が四つ目100匹と戦闘する方がマシっていうのもどうかと思うけど」


 リルはさりげなく、隣室で聞いているはずの師匠(イーレ)に苦情を申したてた。





「………………イーレ?」


 実際に多数の四つ目と死闘を演じた経験のある西の民の若長は、自分の伴侶を見おろした。

 年齢に関して失言を繰り返す一番弟子を殴り倒すために、隣室につながるドアを蹴破ろうしたイーレをハーレイは寸前で阻止して、背中から抱きかかえることで動きを封じていた。

 だが隣室から漏れ聞こえてきた、弟子入りの再試験の内容が『四つ目100匹との戦闘より厳しい』とは、勇猛果敢な西の民の若長ですら、想像外の案件だった。


「……本当に一番弟子にだけ、厳しすぎないか?再試験のレベルがあんまりだぞ?師弟関係に口を出したくはないが、これではサイラスに同情してしまう」

「………………まあ、一応、反省しています」


 唇をとがらせて、イーレはぼそりと答える。

 一応とつけるところが反省していないな、とハーレイは察した。


 頬をふくらませているところは、子供そのもの姿だが、外見と違って実年齢は導師達の最年長の責任者なのだ。

 年齢の話題に関しては、イーレは死の精霊の持つ巨大な鎌を振り下ろす。占者ナーヤも以前そう証言していた。


――どうして、彼女の配下にいるメレ・アイフェス達はそれを学ばない、とハーレイは呆れた。


 と、同時に気づいてしまった。


 もしや、嫁取りの御前試合で、イーレに対して年齢に関する挑発をしていたら、怒り狂った彼女に負けていたかもしれない。

 そう想像したハーレイは、背筋に冷たいものが流れる。


 ハーレイが負ける。

 イーレに対する嫁取りが終わらない。

 西の地は、大災厄の日まで混沌とした状態が続く。

 結果、ライアーの塚の大遺構は発見出来なかったかもしれない。

 そうなると、大災厄を止められたか、わからない。


 自分の不用意な一言で、世界が滅んだかもしれないと考えることは、勇猛果敢なはずの西の民の若長を畏怖させた。


 ハーレイは考えることをやめた。




「イーレの実年齢――じゃなくて、口にしてはいけない話題については、()()、理解した」


 隣室に控えるハーレイが「応答の微妙な表現にまで、師弟関係が伺える」と評したことをサイラスは知らない。

 突っ込みを入れたのはシルビアだった。


「なぜ、一応?」

「完璧に理解したと言えば、嘘になるじゃないか。しかも長年染みついた習慣を矯正するのは、難しいだろ?この先、絶対失言しないなんて、保証できねーよ」


禁断の年齢指摘の挑発行為でハーレイが負けると連鎖的に大陸が大災厄で滅亡していた世界線があったとか、なかったとか……(怖)


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