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(32) 東国にて㉜

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 殺されるような状況が日常茶飯事とは、どういう師弟関係だ。

 実年齢を指摘して激怒したイーレは、理不尽で「恐怖の大王」だ、とカイル様が謎証言をしていたな――と、リルはぼんやり思い出した。


 サイラスが死ぬことに無頓着なのは、簡単に復活できることと、師匠の悪影響ということはありえるだろうか?


「……シルビア様?」

「リル、何を聞きたいのかわかります。イーレは()()サイラスを殴り殺したことは、ありません」

「……()()?」


 微妙な表現にリルは思わず聞き直した。

 シルビアはわずかに視線をそらした。


「ええ、『()()』です」

「ギリギリのところで、イーレ様が手加減しているという意味の響きが込められているのは、気のせいですか?」

「いいえ、気のせいではありません。非常に正しい現状把握です」


 シルビアは頬に手を当て、深刻な憂いの吐息をついた。


「なぜだか、イーレはサイラスに対して厳しいのです。まあ、たいていはサイラスがやらかした時ですが……」

「……たいてい?」


 リルは遠回しな表現する導師達の癖に気づいていた。たまに婉曲な言葉に重大な情報が含まれているのだ。


「例外条件として、実年齢の指摘やババア発言は、問答無用で殴られます。この犠牲者はサイラスに限らないのです」

「…………もしかして、それでカイル様も派手に殴られています?」

「はい、私の目の前で」


 「恐怖の大王」発言の源泉をリルは悟った。


「幸いカイルは学習能力があるので、イーレの取り扱いが上手です。ディム・トゥーラも沈黙を選択する叡智があります。どういうわけか、サイラスにはこれに関して学習しないのですよね」

「俺を馬鹿扱いしないでくれ」

「馬鹿というより、被虐性欲(マゾ)の傾向があるのでは?」

「なんてことを言うんだっ?!」


 真顔で発言をする医療担当者にサイラスは猛烈に抗議した。


「年齢の話題は禁句であるとわかっていてイーレに喧嘩を売るとなると、どう考えてもわざとでしょう?イーレに殴られることが快感になっているとしか、考えられませんが?」

「ババアをババアと言って何が悪い?!」


 その瞬間、サイラスの暴言に呼応するかのように部屋の温度が下がった。その冷気は明らかに隣室のイーレ達がいるはずの部屋から流れこんできていた。

 サイラスが息をのむ。


「ひっ…!」

「…………だからそういうところです」

「俺は真実しか口にしないぞっ!」


 部屋の温度がさらに下がったようだった。


 明らかにイーレ様はこの会話を聞いているな――と、リルは察した。殺気で室温が下がる現象が起こるとは、驚きだった。

 いや、もしかしたらこれはメレ・エトゥールやディム様がよく場を支配するために放つ『てれぱしー』とか言う技術を使った威圧の一種かもしれない――今度、イーレ様に技術講習を依頼しなくては、とリルは頭の片隅にメモった。


 だが明らかに、扉が蹴り破られてサイラスの弁償負債が増えるのは時間の問題だった。


「サイラス」


 リルは平静を装ってサイラスに呼びかけた。


「なんだ?」


 サイラスは扉からの襲撃を恐れるかのように、その方向から視線を外そうとしなかった。その本能の警告は正しいだろう。


 負債増額のカウントダウンは、間違いなく始まっている。


「サイラスは私の(あに)弟子(でし)なんだよね?」

「そうなるらしい」

「つまり、同じイーレ様の弟子(でし)ということだよね?」

「ああ」

「イーレ様は私の師匠でもある――ここまではあってる?」

「ああ」

「じゃあ、妹弟子の見解を聞いてくれる?兄弟子として」

「うん?」


 サイラスは、はじめて怪訝そうに養い子の方を振り返った。

 意外に『兄弟子』という言葉は、サイラスへの殺し文句として使えるかもしれない、とリルは思いはじめていた。


「イーレ様がサイラスを殴り飛ばすのは、年齢うんぬんより、師匠に対する礼節の問題じゃないかなぁ」

「は?」

「商業ギルドでも後継者育成のため、弟子をとるけど、師匠に対する無礼は許されないよ?鉄拳制裁はよくある話だもん」

「イーレほどじゃないだろう?」

「それは……そうかもしれないけど、師匠に対して『ジジイ』とか『ババア』発言は論外だよ?非礼だもの」

「…………うっ……」

「正論です」


 シルビアは拍手して賛同の意を示した。


「だいたい信頼関係が築けないと、師匠として伝統技術は伝授できないよね?師弟関係ってそういうもので、言動の礼節は基本だと思うの」

「理不尽なことがあってもか?」

「平民が貴族から受ける理不尽さほどじゃないでしょう?」


 養い子の言葉に、賢者達の方が絶句した。

 リルは彼らの反応に気づかず、言葉を続けた。


「それにね、イーレ様の外見で、ババア扱いされると、私はどうなるの?成長してイーレ様より年上の外見だよ?私もババアなの?」


 サイラスは慌てたように、弁解を始めた。


「いや、これはあくまでも実年齢の話であって――」

「メレ・アイフェスは、外見年齢と実年齢が一致しない不老長寿なのは、わかっているよ。だけど、その理論から行くと、私はサイラスをお爺ちゃん扱いすることになるんだけど?」


 予想外の指摘にサイラスは雷に打たれたような衝撃を受けた。

 例えるなら中央の最新兵器のミサイルが背後に着弾をして爆炎に包まれるレベルだった。


「……………………は?」

「だからね、サイラスも(おとうと)弟子(でし)や妹弟子にジジイ扱いされたら、イヤじゃない?失礼だし、礼儀知らずだよね?それとも、寛大に許せる?」


 リルは首を少し傾げ、確認してきた。

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