(31) 東国にて㉛
お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。
現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)
反射的に馬鹿正直な懺悔をしてしまう理由が自分でもわからない。
地上人の「加護」と呼ばれる特殊能力に嘘や誤魔化しを許さない強制力があるというパターンはあり得るだろうか?
サイラスは今回の地上降下で突然誕生した「養い子」を名乗るこの少女の存在に困惑し、扱いの距離感をつかみかねていた。
養い子――孤児や親戚の子供を後見人として面倒を見るという地上のシステムは、サイラスの後見をしているイーレとの関係に似ていたが、立場が天と地ほど違う。
サイラスは「問題児」で、この新しい妹弟子は、非の打ちどころのない「優等生」な存在だった。
最初は同僚達が揶揄いのネタとして養い子の存在をでっちあげているとサイラスは思いこんでいた。
もちろん首謀者はあの凶悪な師匠で、サイラスの反応をモニタリングして娯楽の一部にしているに違いない、と。
そういう点では、イーレは信用ならないことを、サイラスは熟知していた。
にもかかわらず周囲の関係者は口を揃えて、過去のサイラスは自分の意志で少女を「養い子」にし、過保護に面倒を見ていたという。
ないないない。
絶対にありえない。
ないわ〜〜〜。
それが、サイラスの率直な感想と判断だった。
現地の子供の保護者になるなど、ありえない。そんな面倒なことをするはずがない。おまけに自分は社会不適応者だ――。
サイラスは自分の性格がわかっていた。
見知らぬ他者に対する慈善活動などする理由もないし、必要だとも思わない。
そもそも、それが出来る性格ならイーレが日頃に説く弱者を守れという「武術の真髄」とやらだって、理解できただろう。
過去の自分は、何を考えて血迷った行動に出たのか。当時の自分を問い詰めたい気分だった。
養い子で妹弟子でもある問題の少女は今や唇を強く噛み締め、瞳を潤ませてサイラスを見つめている。この反応もわからない。
少女が泣き出す寸前であることは、鈍いサイラスにもわかった。
サイラスは、女性が泣く修羅場をよく経験していた。
研究都市では、「イーレ博士と私のどちらが大事なの?」と、問われ「師匠」と答えると、相手は平手打ちの暴力行為におよび、のちにその答えが覆らないと察すると泣き落としの行為に走るのだ。
サイラスにしてみれば、遊びでという交際条件を承諾した相手が、師匠かつ後見人であるイーレと比較対象とする価値観の天秤に乗り込もうとする時点で間違っているのだ。
だが、相手は理解しないことが多々あった。
いや、待て。
イーレが話題に登っていないし、交際もしていない妹弟子が大泣き寸前に陥いる要素がいったいどこにあるのだ?
その反応は絶対におかしいだろう。
サイラスの過去の愚行を責めていることは察した。しかし、その責める愚行が女性問題ではないことが驚きで新鮮だった。
サイラスは状況に感心をした。
「えっと……今、泣きそうになってる?」
そこで状況確認をしますか、とシルビアの呆れたような呟きを、サイラスは無視した。
「……泣きそうになってるけど、我慢しているの」
「……泣く理由と我慢する理由はなんだ?」
リルはその無理解と無神経の総まとめのような発言に唇をますますギュッと噛み締めた。
繊細な商品の価値を理解していない客の発言にどこか似ていた。
なんか昔もこういうことがあった、とリルは思い出した。
サイラスがある日突然、綺麗な長い黒髪を無造作に切って、ボサボサにして帰ってきたことがあった。
幼いリルはその時、初めてサイラスの前で大泣きしたのだ。
父親は髪の毛を珍しく散髪した日に、帰らぬ人となった。その記憶と、新しい養い親がした縁起の悪い行為を目の当たりにして、リルは泣いた。
だが、元凶であるサイラスは、その時もわかっていなかった。
リルは徹底的に解説する決心をした。
サイラスの目の前に、ビシっと指を1本たてた。声がこころなしか低くなる。
「理由1。サイラスが死んじゃうような危険な職種についていて、また死んじゃう可能性があること」
サイラスはその迫力に怯んだ。
さすが、妹弟子だ。怒りの波動がイーレに似ている。だが、暴力を行使しないところが、やはり善良で優等生だ、とサイラスは現実逃避的な感想を抱いた。
「……うん?まあ、確かに可能性があるよな」
サイラスはその点は認めたが、それが泣く理由になることは理解しかねていた。
「だいたい今日の出頭で、イーレに殺されると、思っていたし」
「……………………」
「……………………」
サイラスの無意識の問題発言に、リルとシルビアは同時に頭を抱えた。




