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(30) 東国にて㉚

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

滑落(かつらく)して骨折したり、熱水鉱床で火傷(やけど)を負ったり、酸素欠乏で窒息(ちっそく)したり、まあ、事故は日常茶飯事なんだよな。他にも、現地動物の(つの)で刺されたり、群れに()(つぶ)されたりとか――」


 怖いことのオンパレードになり、リルは青ざめた。

 サイラスの過去を語る言葉に想像力が刺激されたのか、怪我を負い、血まみれになって、かつ精力的に活動しているサイラスがはっきりと脳裏に浮かぶ。

 この言葉は真実だ、とリルは悟り、悲鳴に近い声をあげた。


「なんで、そんな危険な仕事に()いてるの?!」

「それしか、才能がないから」


 サイラスがキッパリと言ったが、意味不明だった。


「才能……才能……」


 才能の定義とは、なんぞや――リルはさらに混乱した。


「シ、シルビア様っ」

「リル、落ち着いてください。そこは「才能」を「脳筋職(のうきんしょく)」に差し替えて翻訳すると、理解が容易(たやす)いと思います」


 そうじゃない――っ!!

 リルは心の中で突っ込んだが、シルビアの助言通りに確かに理解は深まった。

 サイラスの職種である『降下部隊』とは、金銭で戦場に赴く傭兵のようなものかもしれない。実際、出会った頃のサイラスは周囲に『商人が護衛のために雇った傭兵』のふりをして、違和感がなかった。

 一方、シルビアの言葉にサイラスは珍しく()じるように片手で顔を覆った。


「……シルビア、言い方……」

「あら、何か間違っていましたか?降下部隊は好奇心旺盛な命知らずの特攻野郎チームですよね?それを一般的に脳筋集団といいます」


 その後始末をするのは医療担当者達です――という副音声が、サイラスには聞こえた。


「……間違っていないような気もする……」

「でしょう?」


 シルビアがこれまた珍しく、ドヤ顔の表情を浮かべてサイラスを見た。

 本当に表情が豊かだ――サイラスは再び失われた時間経過を痛感した。

 だが、そのそばにいる妹弟子の顔が蒼白に見えるのは気のせいだろうか。サイラスはそちらの予想外の反応の方が不安になった。

 なぜ、彼女がこの話に衝撃を受けているのか?


 サイラスはようやく理由に思い当たった。


「え〜〜っと、以前の『俺』は、こういう話をしていない?」


 サイラスの問いかけに、リルはこくこくと頷く。

 なるほど。初耳だったらしい。

 サイラスは思わず同僚のシルビアに尋ねた。


「……なんで、『俺』は話をしていないんだろう?」

「なんで、それを私に訊ねるんですか?『貴方』のことですよ?」


 シルビアは呆れたように吐息をついた。

 

「だから、言ってるだろう?当時の状況を把握しているのはシルビア達しかいないって。記憶がない俺にはわかんねーよ」

「推察するに、当時のリルが幼かったとか、内容が子供向けじゃない残酷描写(スプラッター)だから配慮したとかでは?」

「『俺』がそんな気がきく配慮なんかをする?」

「…………意外に自己肯定が低いですね?」

「だって『俺』だよ?」

「…………言いたいことはわかります。貴方が周囲に配慮できる思慮深い人間なら、女性問題はゼロで、イーレの研究都市生活は平穏だったに違いありません」


 事実とはいえ、意外に傷つく言葉だった。


「…………シルビア、俺には厳しいよね……?」

「当たり前です。それに巻き込まれたイーレの苦労を間近でずっと見ていますから」


 うっ、とサイラスは詰まる。

 シルビアの背後には、「お前が諸悪の根源」というプラカードが幻のように見えた。


「まあ、他には中央の説明が困難だったとか、脳筋がバレるのを恐れたとか、説明が面倒だったから控えたとか、単に語ることを思いつかなかったとか――」


 怒涛のようにシルビアはありそうな理由を羅列した。

 どれもサイラスの性格上、ありえることは、本人が認めるところだった。


「…………シルビア様、出会った頃からサイラスは脳筋でしたよ?剣も持たずに素手で私を襲った盗賊団を薙ぎ倒して捕縛していましたし、四つ目もいっぱい倒してたし――」


 妹弟子(リル)の遠慮のない証言は、兄弟子(サイラス)が維持したかった見栄と矜恃を一瞬で粉砕した。それはシルビア以上の厳しさがあった。


 『俺』はこの養い子の前で、自由気ままに過ごしていたのか?


 妹弟子でもある少女は、真剣な瞳を向けてきてサイラスをどきりとさせた。


「サイラス、才能うんぬんじゃなくて、どうしてそんな危険な職に就いたの?昔は私が子供だったから語れなかったというなら、今ききたい」

「あ〜〜」


 サイラスは目を泳がせた。必死で近い説明ができる語彙を探す


「サイラス、話したくないことなら、無理に聞かないけど」


 その逃げ道を残してくれる慈悲深さにサイラスは白旗をあげた。

 まさにサイラスにはできないであろう配慮の見本だった。


「あ〜〜、就職時には強制任期があったんだよ。そのある一定の任期をこなすと、転職も可能なんだけどさぁ」

「けど?」

「任期終了後、他の職を探すのが面倒くさかった」

「……………………」


 長い沈黙が流れた。

 イーレだったら、次に鉄拳制裁につながるような不気味な静寂だった。

 正直に語りすぎたかもしれない。

 サイラスはやや焦った。

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