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(29) 東国にて㉙

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 「持ち帰りで検討したい」の要望に対して、「昏倒するサイラスは付き添いなしの放置でいいのでは」というシルビアの治癒師らしからぬ予想外の提案に、リルは慌てた。ぶんぶんと首をふる。

 多数の人にとどけるべき薬の輸送の重要度と優先度は理解できても、サイラスの扱いがあまりにも軽すぎた。

 心配はいらないという意味かもしれないが、不安は募る。


「俺が昏倒しなけりゃ、いいんだろう?」


 それで万事解決という口調のサイラスは、逆に呑気すぎた。

 サイラスのリスク管理の本能は鋭いが、たまに好奇心と冒険心の満足度を優先させる傾向があるのをリルは知ってる。

 呑気なサイラスと警告するシルビアでは、シルビアの方が信頼度があるとリルは思った。


 それに何故だか、改装されたエトゥール城の聖堂の一室である客間の寝台で眠っているサイラスの姿が、リルの脳裏にハッキリ浮かぶのだ。


 サイラスが昏倒することは、確定未来ではないだろうか。


「それより妹弟子よ、重要なことがある」


 サイラスは咳払いをして、リルに向かって宣言をした。


「重要なこと?」

「シルビアとの交渉は代理でまかせた」


 リルは昏倒する危険回避以外の重要な項目に心当たりがなかった。「交渉」が必要なこととは、なんだろう?


「報酬だよ、報酬。報酬交渉は商人の得意分野だろう?」

「はい?」

「交渉って、サイラスに対する報酬を、別に私はケチるつもりはありませんよ?」


 シルビアは、サイラスの言葉にやや不本意そうに抗議した。


「シルビアがケチなんて思ってないさ。むしろ地上人に対する無償の貢献(ボランティア)はカイルに匹敵するお人好し認定だぜ?」

「…………それ、褒めてませんよね?」

「俺の中では、最高級の賛辞だけどな?」

「嘘おっしゃい」


 シルビアが珍しく表情を崩して半眼になっている。ずいぶんと表情が豊かになっているな、とサイラスは不思議に思った。

 常時無表情の難攻不落の氷姫はどこに行ったのだろうか。


「報酬の交渉ってなんです?」

「シルビア、報酬を貯金(ポケットマネー)から出すと言うけど、使えない中央(セントラル)の電子通貨をもらっても、俺は嬉しくないぜ?俺は、しばらく中央(セントラル)に帰ることもないだろうしな」

「「あ……」」


 それは盲点な指摘だった。


「言われてみれば、そうですね……」

「どうせなら地上通貨でがっぽりもらった方が、今後の生活費として潤うよな?問題はシルビアが想定した提示額と地上の硬貨の為替相場がわかんねー。だから、地上の商人の妹弟子が俺の代理人として最適じゃね?だいたい、どれぐらいの危険任務を想定したわけ?」

「意識不明で昏倒して2週間入院治療レベルですね」


 シルビアは即答した。

 それは確実に重症想定ですよね――と聞いていたリルは心の中で突っ込んだ。

 シルビアの施療院でもそこまでの長期療養者は滅多に出ていない。おまけにサイラス達メレ・アイフェスには『体内チップ』なるものがあって疲労や傷、毒まで無効にして――。

 リルはそこで矛盾に気付いた。


 不可思議な治療をする『体内チップ』を所持していても、二週間の療養が必要になるって、どういうこと?


 さらに、サイラスの返答はリルの予想から斜めに突っ走った。


「甘いな、シルビア。研究都市の降下任務は、手足の欠損や死亡はざらにあるだろう?そんなレベルは危険任務に入らないぜ」

「そうですが…………」

「待って待って待って」


 リルは思わず導師(メレ・アイフェス)達の会話に割って入った。


「手足の欠損や死亡が、ざらって――」


 二人はリルが慌てる様子に、きょとんとしている。


「……ざらだよな?」

「……ざらですね」


 「メレ・アイフェスの常識は、エトゥールの非常識」を心の中で呪文のように3回ほど、唱えてリルは落ち着きを取り戻そうとした。

 確認したいことが山ほどある。


「…………えっとサイラスの本来の仕事は『こうかにんむ』なの?」

「そう」

「それは、メレ・アイフェスの世界から、地上に降りてくること?」

「まあ、そんな感じ」

「カイル様やシルビア様みたいに?」

「ああ、実は順序が逆です。本来は、サイラス達の職種が降下して、地上を調査して、危険状況を報告し、安全を確保してから、目的に移ります」


 シルビアが補足説明をする。


「目的?」

「今、進行中の業務依頼みたいなものですね。依頼者側の要望が様々です。研究馬鹿――じゃなくて、えっと……専門家が必要項目をサイラス達の部署に依頼します」

「必要項目……」

「単純な環境測定――例えば水質、気温、土壌成分、生物や植物の生育情報とか。複雑な依頼ほど高額です。まあ危険手当や、装備修繕費も含まれますからね。その後、安全が完全保証されれば、物好きな希望者が地上に降りたりします」

「カイルが順番をすっ飛ばしたんだよ」


 まるで屋台でウールヴェの焼き串を買うために並んでいたのに、カイルが順番整列を無視しました、というような軽い口調だった。

 シルビアがすぐに弁護した。


()()()のカイルは巻き込まれただけです」

「そこらへんが、報告書で見事にぼかされてるわけ。記憶がない俺は発端(きっかけ)結果(いま)しか知らない」

「ああ……まあ……そうなりますね……」


 シルビアは少し遠い目をした。

 詳細を報告書に書けるわけがないのだ。後始末をしたディム・トゥーラと所長エド・ロウの苦労がしのばれる。


「えっと、えっと……地上に降りて手足の欠損って……」

「未知の猛獣がパクリと食ったり」


 さらりとサイラスが怖いことを言った。

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