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(27) 東国にて㉗

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 シルビアは悪ノリして続きをせがむ同僚の顔を、掌底でぐいっとリルの前から押し退けた。


「リル、そこまでにしてください」

「いや、妹弟子、俺の記憶を取り戻すためにも、詳しく」

「嘘をおっしゃい。記憶の欠落がそんなことで戻るなら、イーレは苦労しません。貴方は面白がっているだけです」


 ピシャリとシルビアは言った。

 一方、リルは王妃と身内の要求の板挟みに困惑するしかなかった。


「試してみないとわからないだろう?」

「サイラス、これ以上ふざけるならイーレに言いつけますよ?」

「うっ……」


 伝家の宝刀って、ヤツだ。サイラスはイーレ様に勝てないし、シルビア様はイーレ様の大切な主治医でどっちにつくか明白だ――この時点でリルはサイラスの敗北を悟った。


 リルはシルビアに向かって、コクコクと頷いて黙秘を承諾した。

 そこに王権を用いた脅迫は存在しなかったが、ロニオス同様の大口顧客の要求に逆らう商人はいないだろう。


「兄弟子よりシルビア優先か?」


 サイラスは養い子の選択に、少しだけ拗ねた表情を浮かべた。


 ああ、昔と変わらないサイラスだ――リルは、それを見て少しだけ安心した。

 出会ってからの記憶は失われていても、ここにいるのはメレ・アイフェスであり、養い親だったサイラスなのだ。

 一緒に暮らしていた頃のサイラスは、大人なのに、まるで子供のように拗ねることがあったことを、リルは懐かしく思い出した。


「リルに対して、兄弟子面をするなら、品行方正を心掛けてもらいたいものですね」

「ぐっ……」

「だいたい、私のことはどうでもいいでしょう。リル、カイルが世界の番人についての書物を持っているのですね?」


 シルビアが甘味並みの熱意を持って尋ねてきた。リルは圧倒された。


「カ、カイル様がというか……エトゥール城の書庫に大量に保管されています。カイル様は一度、書物を読むと記憶してしまいますので、その後は不用になるじゃないですか」

「「なるほど」」


 二人は思わずリルの説明に納得した。


「カイルの記憶術は驚異的だもんな」

「歩く大容量記憶装置(サーバー)ですものね」


 さーばー?

 聞き慣れない単語に、リルは頭を傾げたが、二人がカイル・メレ・アイフェス・エトゥールの記憶容量を驚異的に思っている比喩表現であることは、なんとなく伝わってきた。


「――でも、シルビア様もサイラスも同じことができるのでは?」


 ふと、リルは疑問を口にした。


「あんな規格外と一緒にしないでください」

「俺は標準的な一般人だからな。一緒にしないでくれ」


 二人揃っての拒否に近い即答に、リルはこの場にいないカイルにやや同情した。そもそもサイラスが『標準的な一般人』であるわけがない。

 見事な棚上げ方程式だった。


 なぜだかカイルは『規格外という言葉は断固として褒め言葉として認めない』と常日頃(つねひごろ)から主張している。確かに二人の会話には、褒めている気配はない。

 そもそも『規格外』という言葉を褒め言葉として引用するには、やや無理がある。


「シルビア、カイルにその情報を譲渡(ダウンロード)してもらえば?」

「……………………」


 サイラスの提案にシルビアが黙り込んだ。


「シルビア?」

「なんというか……それは最後の手段にしたいものです」

「なんで?」


 シルビアはため息をついた。


「カイルの支援追跡者(バックアップ)って、ディム・トゥーラじゃないですか」

「うん?」

「ディム・トゥーラは、中央の5本の指にはいる優秀な精神感応者(テレパシスト)です」

「俺と違って将来有望な未来の中央(セントラル)における技術官僚(エリート)様だしな」


 サイラスは同意したが、シルビアが何を言いたいのか理解できなかった。


「ディム・トゥーラが何の関係があるの?何が問題なんだ?」

「……………………カイルの行動基準がディム・トゥーラになっているんです」

「……意味がわからない」

「一般人の情報の転送(ダウンロード)可能量や、遮蔽の平均能力値をディム・トゥーラ並みだと勘違いしている――こう言えば、問題がいかに大きいか伝わりますか?」

「……………………」


 サイラスはようやくシルビアが躊躇する危険に気づいた。


「あの……さ……?カイルがディム・トゥーラ相手にやり取りしている情報量を転送されたら一般人はどうなるんだ?」

「間違いなく失神しますね」

「――」

精神感応者(テレパシスト)ですら耐えかねて昏倒するのだから、能力値の低い我々なんてほぼ瞬殺です」

「……………………」

「おまけに、後遺症として数週間の頭痛や吐き気、酩酊状態が漏れなくプレゼントされます」

「……………………」

「比類なき勇気をお持ちの降下隊員であるサイラスは、私に代わって()()を受け取りたいと思いますか?」


 無表情で淡々と語り迫るシルビアの方が、ホラーだった。

 そこで保身に走れば問題はなかったが、サイラスはつい興味を持ってしまった。


「俺、カイルに同調してもらったことがあるけど、そんな後遺症はなかったぜ?」


 瞬間、サイラスはシルビアに右手をガシッと掴まれ、彼女の両手に強く包まれた。

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