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(26) 東国にて㉖

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

「畏怖という表現が正しいかどうかは、議論の余地があるけどさ」


サイラスは肩をすくめてみせた。


「手足を拘束されて、なすすべもなく底の見えない闇の穴に放り込まれる絶望の感覚って言えばわかってくれるか?」

「カイルには別に私達を害する意思はありませんよ?」

「もちろんだ。あの天然記念物並みのお人好しの人畜無害の人たらしが、そんな行動に出たら世も末だな」

「だったら――」

「俺には()()人畜無害(カイル)とは思えない。そういうことだよ、シルビア」


 サイラスは、はっきりと言った。


「カイルはいったい何と同調しているんだ?」


 思わずシルビアは周辺を見渡してしまった。

 精霊の加護と呼ばれる精神感応(テレパス)に覚醒したリルしか言語が理解できないはずだが、この世界の根幹(こんかん)にかかわる話題なのだ。

 幸い部屋に、この娼館で働く女達の姿はない。


「………………『世界の番人』――この世界の『信仰』の対象であり、肉体をもたない強大な力を行使できる存在です」

「は?」

()とカイルが滅びるはずの世界を救ったのです。力を使い果たした()は、カイルと同調することで生きながらえて治癒(ちゆ)の眠りについている――私達はそう認識しています」


 シルビアは、やや(つら)そうに答えた。


「なんだよ、それ」


 理解できずにサイラスは、口を軽くあけた。


「肉体を持たないって、精神生命体なのか?そんな前例はないぞ?」

「そう言っていいのか、いまだに判断がつきかねています。おまけに過去、現在、未来を見通し、干渉ができる力の概念は、私達にないでしょう?この地上世界を司る存在で、その『世界の番人』を信じ、地上の人々は日々の安息を祈り――」

「アレに祈ってどうするのさ」

「さあ……?」

「……祈ることで、日々の心の支えにするの」


 答えたのは二人の会話を静聴していたリルだった。リルには、エトゥール語ではない二人の会話がはっきりと理解できた。


「サイラス達の天上世界と違って、地上は理不尽なことが多いの。貧富の差や平民と貴族の身分の差、民族差別と偏見、暴力や略奪、疫病や災害、干魃による飢餓や混乱、領地間の戦争――エトゥールという国ができるまで、今の東国(イストレ)やカストより、それはそれはひどい有様で、人々は苦しんでいた。それを見かねた『世界の番人』が、人々を導くために精霊獣を作った。それでも世界は混沌としていたから、次は言葉を伝えるための審神者の役目の人間を選んだ。それが、西の地の占者や大陸の巫女の始まりと言われているの。『世界の番人』は人々の祈りによって、人の望みを知り、その望みを叶えるって、言われているの。だから人は平穏な生活をすごしたくて祈るようになったの」

「望みはなんでも叶えるのか?」


 リルは首を振った。


「人を害する望みはダメ。欲にかられるものもダメ。『世界の番人』は人の本質を見抜く審判者だから、偽りは通じないし」

「…………詳しいな」

「エトゥールでは、子供の時に聞かされる誰でも知っている寓話だよ。『悪いことはするな。世界の番人が見ているぞ』って感じかな」


 リルは微笑んだ。


「前にサイラスと一緒に、その手の書物を集めてカイル様に買い取ってもらったけど、やっぱり覚えてない?」

「俺が?」

「うん、私と仕入れの行商中に、カイル様に頼まれた『世界の番人』に関する書物や、各地の口伝を聞き取ってまとめたの。カイル様は金払いがいいから、私達の生活費は、それでだいぶ潤ったよ」


 私達の生活費――という表現で、養い子とともに共同生活をしていた事実をサイラスは垣間見た。

 本当にこの少女を養い子にして、同居生活をしていたのか。

 この俺が?

 サイラスは小さな動揺を押し隠した。


「カイルがそこまで収集をしていたとは、初耳です」


 シルビアは別の点で驚いているようだった。


「カイル様が来てからエトゥール城の蔵書は増えてますよ。ミナリオ様も実家の商家を通じてかなりの量を入手していたし、ギルドの方に書庫部屋の増築依頼が来てましたから」

「何ですって」

「多分、シルビア様の施療院建設の時期と被っています。ほら、片方の賢者にだけ優遇すると、外聞が悪いじゃないですか。メレ・エトゥールは、シルビア様を口説くためにかなり外堀を埋めていたのは、城内では有名でした」


 思わぬ話にシルビアの顔は真っ赤になった。


「な、な、な――」

「俺は記憶がないから、その話を詳しく」


シルビアの動揺ぶりを見て、サイラスは悪ノリをするかのように続きをせがんだ。


「サイラス!」

「話を聞けば、俺も何か思い出すかもしれないし」


 しれっとサイラスは答えた。


「だいたい動揺するってことは、シルビアも知らなかったってことだろう?情報収集は大事だぜ?」

「貴方は面白がっているだけでしょう?!」

「バレた」


 治癒師であるエトゥール王妃は、サイラスを叩こうとしたが、サイラスは当然軽々と避けた。


「それで、それで?」

当時のシルビアへの優遇(重要)を誤魔化すために、カイルのための書庫部屋が増築された(ついで)という当人達が知らなかった新事実判明。

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