(25) 東国にて㉕
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サイラスが自分の専属護衛になる――リルは困惑した。
サイラスは養い親であって、『専属護衛』ではない。専属護衛は守るべき対象者と主従関係が発生するのだ。
昔のサイラスはリルに対して過保護で、商人であり養い子であるリルの『保護者』というを立場をとっていた。行商時の同行は、保護者として当然というのが彼の行動指針だった。
出会った頃の10歳のリルはサイラスにとって幼い子供であり、リルもサイラスという保護者がいたからこそ、王都での商売が成立していた事情はある。
だが、なぜ今、あえて『専属護衛』なのか?
「……サイラスは私の養い親を辞めたいの?」
やや震える声で、リルは恐る恐る重要な事項を確認した。
それに対して、サイラスは鳩が豆鉄砲を食らったような表情になった。まるでそんな質問は想定外だった、という反応がリルには解せなかった。
「はあ?なんで、そうなるんだよ?」
「えっと……」
「専属護衛は主従関係が発生します。子供を主人と仰ぐのは、いささか養い親の定義からはずれるからです」
事情を理解した地上生活の長いシルビアが、わかりやすくサイラスに向かって説明をした。リルに向かって頷いてみせたのは、少女の心情を察したからであろう。
「そもそも専属護衛を任じるのは、セオディア――エトゥール王ですよ?貴方が勝手に着任できる役職ではありません」
「なんか面倒くさい風習だな。それ、王様に承認を依頼すればいいわけ?」
「まあ、そうですね」
「じゃあ、シルビア、頼んでおいて」
「はあ?!」
シルビアが珍しく驚きの声をだした。
「なぜ、私が?!」
「シルビアはエトゥール王と結婚したんだろう?可愛く妻がお願いすれば、ほいほい叶えてくれるだろうさ」
「メレ・エトゥールは、そんな甘い方ではありません」
「そうかなぁ。シルビアが治療をする目的とはいえ、娼館に出入りすることを許可するって、相当の甘やかしだぜ?王の立場なら外聞や悪影響を第一に考えるだろうに。ようは『エトゥール王はシルビアに甘々だ』って結論になるけどな」
「そ、そ、そんなことは――」
まあ、確かに――と、リルは思う。
腹黒、冷酷、鬼畜と敵に容赦ないことで有名なセオディア・メレ・エトゥールは、妻になったシルビアや義弟のカイルという異国の賢者には甘かった。
カイル様はその事実について全力で否定しそうだけど――とリルは正確に予想した。
「だいたい、なぜそんなことを言い出したのです?発案者はイーレですか?リルの現在の専属護衛は、アッシュですよ?アッシュの能力に不満でも?」
当然の質問をリルに代わってシルビアがする。
「知ってる。アッシュの腕はいいし、文句はない」
「だったら、なぜ」
「理由は幾つかある。まず、地上に降下した関係者の中で、イーレと俺を除いて自己防衛力が皆無――それは認めるだろ?」
「まあ、確かに……虚弱ではありませんが基本的な体力、運動能力は平均か平均以下ですね」
なにをもって、平均値を設定するのだろうか。
イーレとサイラスを基準にすると、運動能力の平均値はエトゥール軍よりはるかに跳ね上がる、とリルは心配になった。その問題点を規格外のメレ・アイフェス達は気づいていない。
「その中で、表舞台に出ていないクトリと、ディムは除外だ。初代達も除外だ。彼等の心配は不要だろう」
「その不要の理由は?」
「あの娼館主のアードゥルは、敵対すれば東国一つくらい壊滅させると思うぞ?」
「――」
シルビアとリルは、その評価に絶句する。
そして過去の対決の記憶を失っているサイラスが、アードゥルという人物の能力を正しく見極めていることに、唖然とした。
確かに、アードゥルの特殊能力は敵を簡単に壊滅状態に追い込めるだろう。
ただ、強力な精神感応で支配した魔獣の四ツ目を召喚すればいいのだ。
シルビアは以前、同じことをセオディア・メレ・エトゥールが口にしていたことを思い出していた。
「シルビアは、わけのわからないケモノを使いこなしているし、それなりの地位について護衛が集団でいる。だから、心配していない」
「わけのわからないケモノではありません。精霊獣です」
「俺達の文明で解明できない類は、『わけのわからない』という比喩表現がぴったりだぜ?」
サイラスは真顔で主張した。
記憶がなくても、精霊獣を毛嫌いする傾向は変わらなかった。
「カイルにいたっては論外だ」
「論外?」
「あれは、以前のカイルじゃない。なんで、皆、カイルを放置しているんだ?あんな得体のしれないモノを抱えているカイルの対処をなぜしない?ディム・トゥーラがあの状態で納得していることにびっくりだ」
「――」
シルビアはサイラスを見つめた。
「……サイラスには、カイルがどんな風に見えるのですか?」
「シルビア、地上生活が長すぎて鈍くなっているのか?俺はあんな感覚を味わうのは初めてだぞ?地上降下した時に、肉食恐竜群に遭遇しても、そいつらが雑魚に思えるレベルだ」
「……それは、貴方がカイルに畏怖を覚えるという意味ですか?」
慎重に言葉を選んで、シルビアは確認した。




