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(24) 東国にて㉔

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 その時、貴賓室の扉が開き、東国(イストレ)人に見える黒髪の若い男が部屋に入ってきた。

 導師(メレ・アイフェス)であり、リルの養い親でもあるサイラスだった。


 リルは待ちかねた人物の登場に驚き、久々に見る養い親の姿を観察した。


 長い黒髪は相変わらず無頓着に束ねられている。

 左頬が赤く腫れているようにも見えるのは、イーレに殴られたからだろう。それ以外は健康そうだった。ちょっと拗ねたように唇を尖らせている。


 身にまとっているエトゥール特有の鮮やかな刺繍の入った長衣は、侍女達と一緒にリルも刺繍したものだ。だが、記念すべき一枚目は無惨にも血の滲みだらけになり、侍女達の密かなる怒りを買ったことを、サイラスは知らない。

 カイルとディムとクトリが3人がかりで布地を見事に漂白したが、色糸が使われている刺繍はその手段が使えず、四つ目の血に染まったままだった。白生地に赤い飛竜の刺繍紋様は奇妙にサイラスに似合っていた。


「無事ですね」


 シルビアはサイラスの姿を見て即座に言った。


「これを見て無事と評するのは、医者としてどうかと思うぞ」


 まだ痛むのか赤い頬を押さえてサイラスが半眼でシルビアを見つめる。


「肋骨の一本や二本やられているかと思いました。拠点の再生ユニットをわざわざ起動待機させてから、こちらにきた私の労力(気遣い)が無駄になりました」

「だから医者としての発言じゃないぞ、それ」


 シルビアはサイラスの指摘を華麗に無視し、それからつぶやいた。


「おかしいですね。イーレの怒り具合からすれば、それぐらいですむはずがないのですが……」

「それについては賛同する。俺ももっとボコボコにされるかと思ったのに」

「長期間逃げるからでしょう」


 二人(メレ・アイフェス)の会話は物騒だった。

 リルが声をかける前に、サイラスの方がリルに気付きに言った。


「おい、(いもうと)弟子(でし)

「……はい?」


 (いもうと)弟子(でし)

 リルは思わぬ新しい呼び方にきょとんとした。相変わらず名前で呼ばれないが『養い子』から微妙に進化している。


「妹弟子って……」

「妹弟子は妹弟子だ。俺はイーレの一番弟子だからな。つまりは兄弟子だ」


 サイラスは自分を指さして言う。そこに少し誇らしげな響きが存在した。

 それからリルを指さす。


「同じイーレの弟子だから、妹弟子」

「…………えっと……」


 どうしよう、いつのまにかイーレ様に弟子入りしていることになっている。訂正した方がいいのでは、ないだろうか?――リルが迷っているうちに、サイラスが尋ねてきた。


「イーレに長棍を習っているんだって?」

「あ……うん……」


 それは事実だ。

 ただ習い始めた動機は、不純だ。死んだサイラスの形見としての長棍を受け取り、サイラスのように使いこなしてみたい――ただそれだけだった。


「護身術も?」

「うん……西の地に行った時に、教えてもらっている。クトリ様も一緒に」

「え?クトリ・ロダスも?」


 驚いたようにサイラスは目を丸くした。


「え?あいつ、運動嫌いで、どっちかというと、引き籠りの研究馬鹿で脳筋と無縁なのに?」


 あんまりな言い様だった。だが、昔のリルも同じ感想を抱いていたから、責められない。脳筋のサイラスとは真逆だ、と常々思ったものだ。


「うん、なんか反省したとか、なんとか言ってたけど……理由はよくわかんない」

「まあ、そこらの事情はカイルに聞いてみるか…………今後のことをイーレから指示された。俺も指導するから」

「はい?」

「俺が指南役にもなるってこと」


 リルは青ざめた。

 サイラスの鍛錬は尋常ではなく、専属護衛のアッシュが嘆くレベルだ。

 以前は兵団員全員を嘆かせていた。兵団員の戦闘技能が劇的にアップしたのは、武闘派のメレ・アイフェスが影にいたからと噂されており、それは正しかった。

 そのサイラスは、彼らから鬼教官と呼ばれていた。笑顔で過酷な訓練メニューを効率的に行うからだ。


「サイラス、あなたの鍛錬は兵団向きでしょう?リルのような、か弱い女性向けではありません」


 見かねたシルビアが口をはさんだ。


「妹弟子にそんな過酷な鍛錬はしないさ」


 過酷な鍛錬という自覚はあったのか、とシルビアとリルは内心突っ込んだ。


「だいたい俺が兵団の鍛錬なんて、面倒なことを引き受けていたことすら、信じらねーよ。そこはイーレが考えて、鍛錬メニューをもらっている。なんだったら、シルビアも参加する?」

「イーレに話しをきいて、検討します。暴走を食い止める役は必要でしょうし……」


 シルビアは口に拳をあて、真剣に考えこんでいた。ぶつぶつとなにごとか、つぶやいている。

 サイラスは頬をふくらませた。


「暴走って、俺……そんなに信用ない?」

「信用が残っていると自惚れているところが、びっくりです」


 シルビアは容赦なく言った。

 

「それで、他にはどんな取り決めが?」

「俺が妹弟子の専属護衛になることかな」

「「はい?」」

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