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(17) 東国にて⑰

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 メレ・アイフェス達が個人の趣味の範囲で執着するのは、野生のウールヴェの肉だったり、甘味だったり、古書だったりして分野が極端すぎた。

 だが彼等は贅沢と浪費とは無縁だった。


 そのために、使われないメレ・アイフェスのための予算が、余剰金としてすごい金額になっていると事実をリルは知っている。

 カイルなどひそかに描いた絵を売ることで収入を得て、高級紙取得の経済循環をこなし、予算消化をさらに妨害していた。

 これについては、提案と販売にリルも関わっているので共犯ともいえる立場だ。


 ただ彼らの中でエトゥール国における標準的な物価を把握しているのは、直接商売に関わっているカイルと昔のサイラスぐらいだろう。

 そもそも知る機会がないのだ。

 シルビアの施療院の維持管理や経理はエトゥール王の側近が直接こなしている。

 イーレは西の民に属しており、そもそも国が違う。西の地は氏族同士の商売は物々交換が基本だ。


 これはシルビア達に正しい金銭知識を伝授した方がいいかもしれない、とリルは思った。


「そうですね、基本的に言いますと銀貨1枚は例えるなら一般職人の日給相当になります」

「「はい?!」」


 二人は驚きで目を見張る。


「アイス一つが日当と同額なんてありえないでしょ?!」

「あいす?」

「ああ、ごめんなさい。氷菓子の名称の一つよ」


 こちらが『あいす』とシルビアが氷菓子の一つを指して教えてくれた。もう一つの氷菓子は『じぇらーと』と言うらしい。

 見た目は酷似しているが、確かに食感が違う。


 リルはこて、と首を傾げた。

 作るのも輸送も困難な希少な貴族用高級甘味が、なぜ安いと思うのだろう?

 時々、メレ・アイフェスの感覚はズレている。いや、時々じゃないな、とリルは内心ツッコミを入れた。

 そこでその原因に思いあたった。


「もしかしてイーレ様の国では、このような甘味はとても安いのですか?」

「食後の提供物(デザート)として、毎回でてくるレベルよ。城下の食堂や屋台で、売られている菓子と変わらないの」


 なんとも羨ましい話だった。

 それは東国で伝わる『極楽』と呼ばれる理想郷ではないだろうか。


「観測ステーションでは、取り扱ってもらえませんでしたが」


 ボソリとシルビアが恨み言をもらした。実際、言葉に怨嗟の響きがこもっていた。

 思わずイーレとリルは、エトゥール王妃をかえりみた。無表情に戻ったシルビアから漏れでているのは間違いなく『積年の恨み』の波動だった。


 『かんそくすてーしょん』は天上にあるメレ・アイフェスの街の一つだ。


「シルビア、あなたは個人的に取り寄せていたじゃない」

「その取り寄せの注文書(カタログ)に載っているのが一種類というのが迫害のレベルです」


 シルビアは真顔で答えた。

 なんとなく入手で苦労したという背景はうかがえた。そうなると、専属護衛兼菓子職人であるアイリを得たシルビアの幸福度は地上の方が高そうだった。

 天上の理想郷にも欠点があるとは、驚くべき話だ、とリルは思った。


「ええっと……シルビア様とイーレ様は、この嗜好品を屋台などで銀貨1枚で売りたいのでしょうか?」

「売りたいわけじゃないの。なんだったら無償配布でもいいわよ?」

「…………はい?」


 リルは耳を疑った。


「あのぉ…………銀貨1枚って、安く見積もって、の話ですよ?それを無料で配布なんて商売的に論外です」

「待ってください。リルが以前持ってきてくれた東国の酒饅頭も銀貨1枚ですか?」


 シルビアが慌てたようにたずねた。

 知らぬ間に浪費していたのか、気になったらしい。

 嗜好品の値段など、貴族なら気にも止めない話題だろう。

 

 こういう庶民に寄り添うことを努力している姿勢が、メレ・アイフェス達を好ましく思える性質の一つだった。


「いえいえ、あれは庶民のお菓子ですし、米の発酵酒の副産物から生まれたものですから、手頃な値段です」

「ああ、よかった……」


 シルビアは胸を軽く抑えて、安堵の吐息をついた。

 イーレがちらりとシルビアを見た。


「シルビア、よかったのは浪費をしていなかったこと?それとも今後も酒饅頭を変わらず食せること?」

「両方に決まっているじゃないですか」


 エトゥール王妃は、ある意味、ブレがなかった。


「リル、銀貨1枚は北国の話よね?それって、どんなコストがかかっているか、わかる?」

「原料はもちろんのこと、作る職人の賃金、製作の季節が限定されること、低温の調理場の確保、長時間労働、氷室の維持――それと貴族の箔付のための価格の釣り上げですかね」


 リルは考えながら答えた。


「……最後の箔付のための価格の釣り上げって何?」


 イーレは、なんとも言えない表情で突っ込んだ。


「当然、社交の晩餐会などで出して財力や権力を誇示するために、安いと意味がないからです」


 リルはさらりと答えた。

 イーレは貴族の打算かつ政治的駆け引きにゲンナリとしたようだった。

現代で例えるなら、アイス一つが1万円という恐ろしい世界と言えばご理解いただけるだろうか。

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