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(13) 東国にて⑬

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

「男女の事情に踏み込む気はなかったけど、あまりにも酷いから、期待を持たせる行為は控えるように指導したら、あの馬鹿どうしたと思う?」

「…………どうしたんですか?」

「『結婚とか婚約とかする気はない。遊びでいいなら付き合う』って、周囲に宣言をしたのよ」

「……………………」


 確かに期待を持たせる行為を控えている。むしろ女性達の期待を木っ端微塵に粉砕している。


「で、遊びでもいいから付き合いたいって、女性だけが残るんだけどね。まあ、これはこれでやっかいで……」

「はい?」

「遊びで付き合うということは、サイラスの中で優先度が低いの。私の業務があれば、サイラスは同行するから、私を優先させるわけ。そうすると、苦情がくるのよ。『サイラスの行動を制約するな』『師弟関係を解消してくれ』『彼を自由にしろ』みたいな?」

「あ〜〜」


 それは最大の悪手だろう。サイラスとイーレの絆は特別枠だ。そこに口を出すことは――。


「サイラスは怒りそう……」

「よくわかるわね?」


 イーレは肩をすくめた。


「即、別れて、寄りを戻すことはなかったけど、私は確実に巻き込まれるのよ。次は『サイラスにとりなしてください』って元彼女達に泣きつかれるの」


 確かにサイラスに、何か言えるのは師匠のイーレしかいないだろう。だが……。


「…………苦情を言った相手に、そのお願いごとは図々しいのでは……?」

「そうでしょう?!そう、思うでしょう?!それが正常な意見よね?!」


 リルの感想にイーレは飛びついた。

 なんだかいつの間にか、師匠の弟子に関する愚痴大会になっているが、サイラスの過去を知る機会など二度とないかもしれない――リルは聞き役に徹することにした。


「あとは、その繰り返し。あの子にしてみたら、遊びと承諾したはずなのに、私生活の干渉はルール違反に等しいみたい」

「よく……わからないんですが……」


 リルはさらに困惑した。


「……交際しているなら、私生活に自然と踏み込むことになりますよね?」

「だからあの子にとって『遊び』なんでしょうね。誰にも自分の領域に踏み込ませる気がないの」

「………………」

「『女・子供に親切にしろ』じゃなく、『女・子供を泣かすな』にするべきだったと激しく後悔しているところよ」

「それだとサイラスが交際相手を振った時点で泣かれて、無理では?」

「そうなのよねぇ」


 イーレはその点を認めた。

 リルは恐る恐る尋ねた。


「サイラスが……その……過去に真剣に付き合った相手とかは……」

「いないわよ。少なくとも私に弟子入りした以降は存在しないわね」


 リルは、ほっとしたが、サイラスの正体が難攻不落の『遊び人』とは想像外だった。

 養い親は女性にモテていたが、交際は断る硬派な姿しかリルは知らない。

 わからないことは、まだある。


「サイラスにとって、踏み込まれたくない私生活ってどの部分で、どこまでの範囲なんでしょうか?」


 う〜ん、と腕を組んでイーレは考えこんだ。


「例えるなら私との師弟関係とか、リルとの生活とか、あとは趣味の分野?」

「サイラスの趣味って?」

鍛練(たんれん)

「…………それはわかりますが」


 アッシュを相手にしての鍛練(たんれん)は、嬉々としてやっている。確かに、交際相手より優先しそうだった。


「…………そもそも、鍛練(たんれん)って趣味に分類されるものなんですか?」


 イーレはリルのツッコミにきょとんとして、首を傾げた。


「分類しちゃだめ?私達の世界では運動施設(トレーニングセンター)道場(ジム)で、趣味の範疇(はんちゅう)でしか(きた)えてないわよ」


『とれーにんぐ・せんたー』や『じむ』の音の響きは不明だったが、リルはなんとなく何を指しているか不思議なことに脳裏に映像が浮かんだ。目覚めた加護はこういう時に便利だった。

 兵士や傭兵でもないのに趣味で身体を鍛える――貴族のような優雅な話だった。

 カイルが言うにはメレ・アイフェスには仕事上の上下関係はあっても、身分差はないらしい。


「あの……ちなみに、イーレ様の趣味は」

「長棍技の鍛練」


 イーレは『さすが、サイラスの師匠。同類か』というリルの視線を感じとり、慌てたように弁解した。


「私は一応文武両道だからね?!サイラスと一緒にしないでね?!」

「すみません、一緒にしかけました」


 リルは素直に詫びたが、イーレは間違いなくサイラスに多大な影響を与えている。


「メレ・アイフェスの故郷では、サイラスもイーレ様も兵士ではないんですよね?」

「軍人ではないわよ。私は学者みたいなものだし、サイラスは――この世界の職としては、何かしらね?単純な護衛でもないし、未知の土地を専門探索する武闘探検家?だから、危険察知能力が高いし、西の民みたいな戦闘能力をもつ脳筋男よ」

「脳筋男…………」

「考えるより本能で行動に出ているでしょ?」

「……ああ、確かに……」


 リルはイーレの説明に深く納得してしまった。サイラスは戦技指導者として兵団をまとめることはできても、戦術指導者としての将軍職になれないだろう。

 本人もそれを言っていたことがある。


「……他者に無関心……」

「それよ、それ。サイラスの最大の欠点はそれ。他者に無関心なの。それでも、リルと出会ってからだいぶ矯正されたと思うけど」

サイラス大暴落中(読者視点)

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