(10) 東国にて⑩
お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。
現在、「電化製品クラッシャー」から「クラッシャー」に進化しました。
眼鏡のフレーム(テンプル)が折れるという惨事……。出費の総額を出すのが、怖い(ガクブル)
現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)
胸の大きさは重要な問題だ、とリルは思っている。この意見にはファーレンシア姫も強く賛同してくれていた。
シルビアはリルに対しての健診時に、「成長は個人差があるから気にしないように」と、アドバイスをしてくれたが、「最終的に本当に大きくなるか?」というリルの質問は、華麗にスルーをしたものだった。
このまま、胸が成長しなかったら、どうしよう。リルの悩みは終わりが見えなかった。
だが、それはサイラスが未帰宅な事案に比べれば、些細なことだった。
「これ、お値段は?」
白粉を手にした娼婦の質問に、リルはやや慌てた。
客を放置して考えごとにふけるとは、商売人としてあるまじき行為だ。
「は、はい。前回と同じです」
「本当に?利益でてる?もっと高くていいのよ?」
ミオラスと同じような反応だった。
買い手側に利益を心配されてしまったが、どれだけこの人たちは東国の商人達に食い物にされていたのか――リルの方が心配になった。
「亡くなった父が、必要とする人に適正な価格で提供すれことを信念とした商人でした。私の憧れであり、尊敬する師であり、目標です。白粉は銅貨5枚、口紅と爪紅は銅貨3枚です。今回は容器代が含まれていますので、次回のお買い上げ時は、銅貨1枚分ほど引かれた価格でご提供できます」
リルはそう言って、にっこりと笑った。
娼婦の一人はリルをじっと見つめ、それからため息をついた。
「ここ、娼館よ?商人とはいえ、若い女の子が出入りするべき場所じゃないわよ?次回もまたくるつもり?」
「それも、理解しています。来るとしても治癒師の同行者だと思います」
答えつつ、商人の自分よりシルビアの出入りが問題だろう、とリルは思う。
治癒師シルビアの正体がエトゥール王妃と知ったら、娼婦達の半数は卒倒するに違いない。
「それにしても、こんな高品質でその値段は安すぎるわよ。ミオラスの縁が理由の取引価格としても安すぎるわ」
「エトゥールでは、その価格で商いをしています。まあ、貴族相手には、もう少しあげてますが……」
「私が買い占めて、転売するとは思わないの?」
「転売は東国内に限られますよね?東国のがめつい商人に、がつんと一発いれるのは、楽しそうです。ただあの人達、がめつすぎて目立つ商売敵に刺客を送ってくることもあるので、転売はこっそりやってください」
少女商人は、世間話のように怖いことをあっさりと口にした。
娼婦は、なんともいえない表情をした。
「そうね、ダカンなんて露骨に邪魔な商人は消していたわ」
ダカンとは、東国の悪名高き老中の名前だ。
その死亡事件には、間接的にサイラスとアッシュは関わっている。直接的に関わっているのは、ここの娼館主であるアードゥルだ。
「ダカン……死んだ前老中ですよね?確か、悲惨な死に方をしたとか……」
リルは、よく知らないふりをして尋ねた。
歌姫以外のこの館の住人が、支配人の蛮行を知っているとはどうしても思えなかったからだ。
「そうそう、魔獣の四つ目集団に八つ裂きよ。天罰が下ったって、皆が言ってるわ。ざまーみろ、って」
ここまでは商業ギルドに流れる情報の通りだった。ダカンは民衆に嫌われていた。
「……エトゥールの商業ギルドでは『東国では、ダカンに睨まれれば首が飛ぶ』って、噂がありました」
「それ正しいわよ。他国の商人はともかく、東国のこの都では」
白粉の色を確かめながら、東国の美女は言った。
「賄賂を要求して、従わない店の主人は不審な死を遂げたりしたものよ。街を守護するの大衛士が、ダカンが処断しようとした民を庇ったら、翌日には投獄され、罪状をでっちあげられ処刑されたわ。その彼を弁護する者がいれば、その人も投獄。そういう事件が続いて、誰もダカンに逆らわなくなった。あとは治安が悪い東国のできあがり。この娼館だって、散々嫌がらせを受けてたんだから」
「賄賂を送らなかったからですか?」
「歌姫が身請けに応じなかったからよ」
「――」
なぜ、アードゥルが老中屋敷を襲撃しダカンを殺したのか、リルは悟った。
歌姫の安全を脅かす存在だったからだ。
サイラスとアッシュは、巻き込まれただけなのだ。
いや、違う。
あの晩、そもそも、サイラスとアッシュが老中屋敷にいたことがおかしい。
リルは当時、見落としていた事実に気づいた。




