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(9) 東国にて⑨

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

今週は電化製品クラッシャーになってます。パソコンモニター、ヘッドセット、銀行ATM(私は悪くない)、そして玄関の電子錠が、2回に1回私だけエラーになる…………。(キーを変えてもダメ)

怖いからiPhone11(古)を機種変手続きしました。(←今ここ)


現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 リルは長卓の上にいくつかの商品をだした。

 手のひらに乗るサイズの金属ケースで、(ふた)には洒落(しゃれ)文様(もんよう)が刻まれ、高級感を出している。  


 文様彫刻の製作者は西の民だ。メレ・アイフェスが提供した『金属用の彫刻刀』で、彼等は木工や革細工以外にも見事な文様彫刻を再現させてみせた。

 この芸術性の高い技術は、西の民の外貨獲得の重要な位置づけになりつつある。狩りや巡回に出ることのできない怪我人や老人が、慰みのためにやっていた文様彫刻が芸術品として脚光を浴びることになったのだ。

 軽量の金属ケースに簡単な文様を彫り、平民が使える化粧品箱や携帯用箱を提案したのはリルだった。

 

 金属ケースの蓋をあけるとそこにある固形物は、鮮やかな紅色に輝いていた。


「こっちが口紅(くちべに)、こちらが爪紅(つめべに)になります」

「あら、素敵な色っ!」

「この前と違うわね」

「西の民が使っている花紅(はなべに)が原料なんですよ。植物から絞ったオイルと蜜蝋(みつろう)、あと材料がいくつか」


 実際は、クトリやシルビアが調合した『ふはいぼうしざい』や『あれるぎーふりー』の素材だが、それは秘匿(ひとく)すべき情報だ。


 部屋にいた女性達は、見本として提示された新商品をそれぞれ手にして、話題と評価に盛り上がる。

 娼婦達にとって、化粧品は重要だ。重要だが、手に入れる販路が限られた。その理由は、彼女達の職業にあった。


 貴族や金持ち向けの高級娼館であっても、彼女達が売るのは自身の肉体だ。

 それに対しての差別と偏見は東国であっても根強い。生活費のために身体を売る彼女達との取引を毛嫌いする商人も多い。


 隠れた理由は、彼女達との取引がばれると、そこに足繁く通う貴族男性に対して怒りを感じている奥方集団の不興を買い、商売があがったりになるからでもあった。だから、取引を断ったり、法外な値段を要求したりする。


 まして男性商人では、化粧品に対する女性のこだわりへの理解は薄い。彼等に化粧品の良し悪しは、わからない。使用していないからだ。うっかりすると肌荒れを起こす粗悪品を平気で売りつけてくる。


 娼婦達の健康を管理する治癒師であるシルビアが、実情を調査し、真っ先に禁じたのは、(なまり)が含まれた白粉(おしろい)だった。鉛中毒による手足の感覚障害、造血器障害の危険を講義し、彼女達に知識を与えた。

 実際、シルビアはすでに神経障害を発症していた娼婦の治療をはじめ、娼婦一同の厚い信頼を勝ちとった。


 ミオラスからそんな話を聞く機会があってから、リルはミオラス相手に彼女達に安全な化粧品の類を卸していた。

 シルビアとリルは周囲の協力を得て、鉛白粉(なまりおしろい)ではなく、絹雲母(きぬうんも)を原料とするおしろいを作成したのだ。

 開発のアイデアを出したのは、カイルだった。彼は膨大な知識の中から、古代文明の化粧文化情報を拾いあげ、代用品を提案した。これが大当たりだった。


 リルはそれらの商品をミオラス達に適正価格で売った。値段をきいた歌姫からは「安すぎない?」と過度に心配されたほどである。


 結果、ミオラス達が東国の商人達から、かなりボラれていたことが判明した。


 リルはミオラスを通じて、他の生活必需品も適正価格で卸すことを決意した。そんなリルの存在は、かなり娼婦達の間で話題になっていたらしい。敏腕で正直者なエトゥール人の商人少女がいる、と。


 元娼婦である歌姫ミオラスは、この娼館主であるアードゥルの伴侶だ。そしてエトゥールの妹姫と、エトゥール王妃の親しい茶飲み友達だった。この身分差を越えた不可思議な交流は、リルにも影響している。


 そもそも娼館主のアードゥルが、500年前から地上に滞在している不老長寿の導師の一人だから、話はさらにややこしかった。リルの重要顧客である猫姿のロニオスの『人間時代』の教え子だと言う。

 そのロニオスは妹姫の伴侶であるカイルの血縁者で――この時点で人間関係が渋滞していた。


 今回は、サイラスを捕獲にきたイーレに同行を頼まれての行商だったが、娼館に足を踏み入れるのは当然初めてだった。

 アードゥルが経営する娼館は、貴族の館並みに広く、清潔だった。そして娼婦達は、色気たっぷりの美女揃いだった。


白粉(おしろい)はある?」

「はい、鉛ではなく絹雲母から作りましたから、病気になる心配もありません。色合いも新しくいくつか用意しました」


 わっ、と娼婦たちがリルの取り出した新製品に群がる。


 皆、胸がでかい――リルは密かに女性達を観察した。

 その昔、カイルと胸の大きな歌姫ミオラスの密会を疑って、エトゥール城で騒動があったのをリルは思い出していた。

 一時期の城の侍女達の話題は『男性は胸のでかい女性に零落されやすい』『どうやって胸を大きくすればいいのか』『カイル様最低』だった。おおいなる誤解を受けたカイルが、当時の犠牲者だった。


 サイラスもやっぱり胸のでかい女性が好みなのだろうか…………。


 リルは思わず、でかいとは言えない自分の胸を見下ろし、ひそかに落ち込んだ。

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