(6) 待機
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イーレが地上にいるなら、付き従い地上に降下するのは当然の選択だったが、ディム・トゥーラの言い方は、微妙にニュアンスが違った。
いったいどういう意味だろうか――。
「俺は降下する」
「そう」
ジェニ・ロウはあっさり承諾した。
「手続きがあるから、1週間ほど待機しなさい」
「……1週間」
サイラスには、なぜだかそれがとてつもなく長く思えた。
「なぜ、待機が1週間も?」
「何言ってるの、通常より短いわよ」
ジェニ・ロウは、サイラスの顔面に指をさして、子供に言い聞かせるように言った。
「やることは山ほどあるでしょう。肉体のリハビリは必要だし、無理をして無駄に体内チップを消費しかねないわ。念のため、言語も再習得しなさい。そこも欠落している可能性があるから、ディム・トゥーラにコピーをもらいなさい。あと最低限の地上風習も、ね。くれぐれも、シャトル強奪や観測ステーション破壊などの行為は慎むように」
「…………………………」
「ジェニ、そんな突拍子もない注意は――」
「いるわよ。この子、そういう前科があるの。前に言ったでしょ?だから、再生体培養槽を中央から観測ステーションに運んだのよ。英断だったと思うわ。中央で記憶の欠落が発覚していて理不尽な足止めを食らっていたら、大暴れしていたわ」
「……………………」
「……………………」
「サイラス・リー、いいこと?シャトルや観測ステーションに被害を及ぼしたら、イーレに言って、永久破門してもらうから覚悟しなさい」
「……………………」
サイラスは怯んだように黙り込んだ。
『永久破門』が脅し文句として有効なのか、とディム・トゥーラは記憶の片隅にめもった。
「ディム・トゥーラ。貴方には申し訳ないけど、もう少しこちらで付き合ってもらうわよ。サイラス・リーの準備はもちろん、聞きたいことが山ほどあるのよ。ロニオスのこととか、ロニオスのこととか、ロニオスのことをね」
問題の人物の名前の連呼に、今度はディム・トゥーラの方が怯んだ。
「ロニオスって誰だ?」
「あ~~」
サイラスの当然の質問が飛び、ディム・トゥーラは視線を彷徨わせた。ちらりとジェニ・ロウを見ると彼女は、ディム・トゥーラに頷いてみせ、許可を出した。
「……ロニオス・ブラッドフォード。ジェニ・ロウやエレン・アストライアー達のプロジェクト・リーダーだった人物だ」
「………………それが、どういう関係が?」
「さっき、ここでイーレの原体が死んでいると言っただろう?」
「あ……ああ」
「彼等が惑星探査の初代チームになる。ここだけの話だが、あの惑星にいた」
「……………………は?」
サイラスは、ぽかんと固まった。
わけがわからないことに加えて、情報量が多すぎた。
ディム・トゥーラは、困ったようにジェニ・ロウに助言を求めた。
「ジェニ、認知をゆがめるとしても、今の背景情報を伝えないでいることに限界があるのですが……」
「まあ、確かにそうね」
ジェニも深い溜息をついて同意した。
「私生活に関わることを除いて、背景を語ることは許可するわ。記録はオフね。口止めも忘れないで」
「了解しました」
「……え?……あの、イーレの原体はこの惑星で死んで、当時の関係者が生存していたってこと?」
「まあ、そうだ」
「500年前の話だよな?イーレの実年齢から行くと――」
禁断の話題を出して、サイラスははっとした。蒼白になって口を押える。
「あ~~、大丈夫だ。俺もカイル達も知っている。まあ、正確な年齢を知っているのは、カイルと主治医のシルビアぐらいかもしれない」
「カイルがなんで?」
「同調能力で、イーレの実年齢を見事に当てて、過去に殴られているらしい」
「うわっ…………カイル、すげえ、勇気あるな……尊敬しちゃうぜ……」
サイラスの漏れ出た本音の感想は、イーレとの関係性を示していた。
怖い物知らずの先発降下隊員に称賛される勇気って、どのレベルだ、とディム・トゥーラは内心呆れた。
「勇気というより、馬鹿なだけだろう」
「――前々から思っていたけど、ディムって、カイルにだけ厳しくない?」
「…………そんなことないぞ」
突然の話題の転換に、ディム・トゥーラの反応は遅れたものになった。
「本気で怒り狂うのも、カイルに対してだけだし」
「…………………………おい」
ジェニ・ロウが面白そうな顔をしていた。
「そうなの?」
「そうなんだよ。普段は冷静に陰で観測ステーションを牛耳ってたくせに、カイルがからむと豹変するんだよなぁ」
「あら、そこは詳しくききたいわね」
「ジェニ、今はそんなことどうでもいいでしょう」
ディム・トゥーラはさりげなく方向修正を試みた。