表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/70

(7) 東国にて⑦

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 目にも止まらないあざやかな一撃だった。

 いつもイーレの怒りの鉄拳を寸止めする役割のハーレイは、唖然としてつぶやいた。


「…………これは、止め損ねたな。すまん、サイラス」


 彼は、元凶のイーレをいつものように小脇にかかえてそれ以上の暴行を封じ、イーレも暴れることはなかった。イーレは、荷物のようにハーレイにかかえられても、暴言を吐いた弟子を睨んでいた。


 『ばばあ』発言が惨劇の原因であることは、関係者の目からみても明らかだった。


 その場に居合わせた専属護衛のアッシュの方は、過去にイーレの年齢に言及した自分に対してカイルが『勇気がある』と称賛した意味を正確に理解した。

 なるほど、世の中には触れてはいけない禁忌の領域というものがあるのだ。イーレ様の実年齢に関する発言は要注意――アッシュは深く頭に刻み込んだ。

 一方、被弾したサイラスは、喚いた。


「何しやがる!この糞ばばぁ」

「なるほど、もう一発殴られたいと……」


 全面戦争勃発かというところで、そのやりとりを見守っていた娼館の主人であるアードゥルが静かに声をかけた。


「君達、娼館の弁償金がさらに増えてもいいのかね?私は間違いなく儲けをそれに乗せるから、一向に構わないが?」


 毎回、弁償金を増額している二人は「うっ」と、固まった。かなりの抑止のある現実的な指摘だった。過去に精算した弁償金の総計は、結構な額でもあった。

 修繕費とその工事期間中の娼婦達の休業補償も加算されている。娼婦達にとっては、天の恵みのような有給休暇であり、サイラスがますます歓迎されるという、明後日の方向の悪循環を生み出していた。


「イーレ、サイラスの失言より問題解決が優先だ。サイラス、余計な罵倒はしばしこらえろ」


 仲裁に慣れているかのように、ハーレイは双方に指示した。実際、彼は慣れていた。


「イーレ、サイラスの長棍の件について、彼に再度与えることについてどう思っているんだ?」

「……別に……」


 イーレは小脇にかかえられたまま、頬をふくらませて拗ねたようにそっぽをむいた。女帝の威厳は消え、父親に説教を受けている西の民の子供そのものだった。


「『別に』じゃ、わからん」

「ハーレイ、どっちの味方よ?!」

「長棍に関しては、サイラスだ」


 ハーレイは、はっきりと言った。


「敬愛する師匠からもらった長棍を失ったサイラスの失望は深い。不可避の事故の中の話だ」

「ババア扱いなのに、どこが敬愛?」

「敬愛しているだろう。失われた長棍が元で拗らせているんだから」

「………………」

「思い入れがなければ、他の長棍を入手しているのではないか?」

「………………」

「サイラス」


 裁定者はサイラスを見た。


「イーレにはっきりといえ。師弟とはいえ、言葉による対話は必要だ。欲しいのは、イーレから分け与えられた長棍だな?」

「そう……だけど……」

「だけど、とか余計な言葉はいらん。欲しいか欲しくないか、だ」

「欲しいに決まっているだろう!」


 叫んでから、サイラスは顔を赤らめて、イーレの視線を避けるようにそっぽむいた。

 サイラスの意外な反応にイーレの方がきょとんとした。


「………………なんで、そこで照れるのよ……」

「複雑な男心だ。見てみぬフリをしてやれ」

「はあ?意味わかんない」


 かかえられたままのイーレは、若長を仰ぎ見た。


「解説が必要か?日頃、イーレは一番弟子にだけ厳しく、めったに褒めもしない。サイラスは、弱音を吐けば愛想をつかされると思っている。だから、師匠に甘える方法も知らない。――イーレも不器用だが、なんだかよく似た師弟だな」

「「は?」」


 サイラスとイーレは、そろって解説に異議を唱えようとしたが、ハーレイはやれやれと首をふって反論を封じた。


「サイラス、記憶は失われているかもしれないが、東国(イストレ)で一般民衆を大量の四つ目から守ったことがあった。その時、イーレに褒められた感動のあまり、『死んでもいい』と口走っているぞ。カイルが証言しているから間違いない」

「………………は?」

「イーレに褒められたかったんだろう」

「そんなこと言うわけが――」


 あるかもしれない。

 いや、おおいにあるだろう。

 確かにイーレに褒められたら、『死んでもいい』と口走りそうだった。

 サイラスは片手で口を覆い隠した。


「…………イーレが褒めた?」

「褒めたらしい。『さすが、私の一番弟子』『最高』と」

「…………嘘だ。絶対に嘘だ。イーレがそんなことを言って褒めるわけがない」

「褒めてるぞ」


 意外な方向から声が降ってきた。発言者はアードゥルだった。


「私もその場にいたから、イーレのその発言を覚えている」

「その場にいた?ああ、東国の現場だったから居合わせたとか?」

「いやいや、問題の四つ目を大量に召喚したのは私だし、君を殺しかけて、駆けつけたイーレと殺し合いをし、止めに入ったカイル・リードを刺したのも全部、私だ」

「………………はい?」


 情報過多だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ