(4) 東国にて④
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「リル様から養い子の解消を申し出ることはありえません」
「ないな」
「なんでだよ?!」
焦るサイラスに、アッシュは出来の悪い生徒に諭すように、はっきりと言った。
「リル様はサイラス様をそれはもう慕っていました。サイラス様も過保護すぎるくらいに、彼女の面倒を見ていました。それは周囲から見ても微笑ましい関係でしたよ。子供のリル様の生活を支え、共に過ごした養い親が、忘れ病にかかり素行不良になっても、リル様は見捨てるようなことをしないでしょう」
ハーレイも頷いて同意した。
「そもそも、その縁切り手段は悪手だぞ?導師は王侯並みの地位と名声を持つ。メレ・アイフェスの素行不良を非難できる民衆などはいない。大災厄後の混乱期のメレ・アイフェスの素行問題の非難の矛先は、同じ平民である養い子に向かう可能性はある。事実、過去はそうだった。リルはサイラスが死んだ時に、メレ・アイフェスを死なせた養い子のレッテルが貼られて周囲から責められている。同じ苦しみを味合わせる気か?サイラスが名声を落とすのは大人の勝手だが、養い子のリルがそれに巻き込まれてしまうことを一番に考えろ」
「え?」
サイラスはそこまで考えが回っていなかったようで、激しく動揺した。
自分の行動があの養い子の評価を落とすとは、計算外もいいところだった。評判を落とすのは自分だけのはずだった。
「俺は養い子を不幸にしたいわけではないぞ?!」
「そうだろうそうだろう」
ハーレイは頷き、さらに理解を示した。
ハーレイは、サイラスの師匠の性格も熟知しているので問題点がよくわかっていた。師匠と弟子の間に欠けているのは、間違いなく話合いだった。
「生前のサイラスがいたら、今のサイラスを間違いなくぶちのめす。養い子を不幸にしてはいけない。やるべきことが真逆だ」
「真逆とは?」
「養い子が年頃の娘なら、養い親としては周囲の不埒な男共から守護すべきだろう」
「不埒な男の代表が俺だけど?」
「自分で言わないでください」
アッシュが呆れたように静かに諫めた。
ハーレイも短い息をついた。
「『女・子供は大事にしろ』がイーレの教えなら、今の生活は完全にそれに反しているだろう?イーレが怒り狂って追いかけてくるのはそれもあるし、リルを泣かせているからだぞ?」
「別に泣かせては――」
「「泣かせている」」
見事に唱和された。
「実際、再会した時に泣かせたじゃないですか?」
「いきなり抱きつかれたから、誰だって驚くだろう?!記憶にないんだからどういう関係か尋ねるのは当たり前じゃないかっ!」
「驚いて動揺したから、『あんた、誰だ?』ですか?」
「それについては、後日謝っているっ!」
「とりあえず娼館遊びはやめることだな」
きっぱりとハーレイが言った。
「問題をややこしくしている。まずは、イーレと話をしよう」
「イーレと話をするって簡単に言うけど、そもそも殴られずに話が可能か?」
サイラスの問いに、ハーレイとアッシュは揃って視線をそらした。
つまり二人は、サイラスが必ず殴られることを予想しているらしい。
「そこは嘘でもいいから、殴られないって言うところだろ?!」
「そんな嘘を主人につけません」
「都合のいい時だけ、主人扱いするなっ!」
サイラスはしれっとした顔で主張する東国人に怒鳴った。
「イーレは拳で語り合うのが好きだからなぁ……」
しみじみと西の民の若長が言う。
その見解は、サイラスも認めざるを得ない。毎回、拳で語り合ってコテンパンにされるのが、弟子だ。
「ある意味不器用だよな。そこが可愛いのだが」
「可愛い?」
驚愕の発言を聞いたという表情で、サイラスは凍りついた。
「可愛いだろう?」
「今、誰の話題だ?」
「イーレ」
「あの冷酷無比な暴君で唯我独尊な「私が神」なんて発言をする女帝が?」
「えらい言われようだな」
ハーレイは弟子の酷評に笑った。
「まあ師匠として弟子には弱みを見せたくないことは理解できる。上に立つ者がよく持つ見栄だ。イーレも、本音を言えず、結果、拳で語り合うことを選んでいる節はある」
「西の民が総じて、拳で語り合うのが好きですよね?」
アッシュが若長に突っ込む。
「否定はしない」
「否定しないのかよ」
サイラスは呆れたように呟いた。
ディム・トゥーラは、西の民を自然と共生をする戦闘民族だと言っていたことをサイラスは思い出した。
サイラスは逃亡を諦めた。確かに地上に降り立ってから、イーレと話し合うことなどしてなかった。サイラスの方が避けていたからだ。
「…………多少はフォローを期待していていいのかよ?」
「イーレが殴りそうになったら止めよう」
なぜか手慣れているように、西の民の若長は言った。