(3) 東国にて③
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「欠片……?まさか、リルの持っている長棍のことか?」
リルは養い親の死んだ現場から発見されたサイラスの長棍を、形見としてイーレから受け取っていた。
不思議なことにイーレ達の武器は、自己再生能力がある。過去の御前試合でイーレが愛用する長棍を折ったことがあるのは、ハーレイだった。試合後、イーレは簡単にその場で折れた長棍を修復してみせたのだ。
養い親を失い精神を病んだリルは、イーレの住む西の地でしばらく静養していた。その間、ハーレイとともに少女の面倒をみていたのはイーレだ。彼女は女性の自衛手段として、長棍の技をリルに教えていた。
半分になっていたサイラスの武器は、徐々に姿をかえ、リルの手にあった細さの長棍に再生されていったことをハーレイは目撃している。
「リルだかなんだかしらないけど、イーレが俺の長棍の欠片を勝手に与えたんだ。師匠の物は師匠の物、弟子の物は師匠の物――昔からその主義だが、今度ばかりは酷すぎる!」
師匠の物は師匠の物、弟子の物は師匠の物――それはただの暴君ではないだろうか、という発言を賢明な二人はこらえた。
つまりは宝の様に所持していた武器を、イーレが勝手に処分したことにサイラスは怒っているのだろう。
「リルに返却してもらうことは――」
「もう無理だ。イーレが持主を書き換えてしまったからな」
吐き捨てるようにサイラスは言った。
「ああ、なんとなく今回の長い放蕩理由が見えてきましたね」
アッシュは、呟いた。
「つまり自分には厳しい師匠が、リル様にサイラス様の形見として長棍を与えたことに拗ねているんですね」
「形見って、俺、死んでねーし!」
「いや、死んだでしょう」
アッシュは突っ込んだ。
全ての問題は、サイラスが命を落としたことから始まっているのだ。
「死んでいる間に、イーレはほいほいと熊男にまで長棍を分け与えているんだぞ?!俺はもらえるのに50年かかったのに!」
「「あ〜〜〜」」
50年。
アッシュとハーレイは彼等が不老長寿であることをあらためて理解し、初めてサイラスの心情を組み取った。
「………………つまりサイラスがイーレに認められて取得に50年かかった長棍が、イーレから簡単に授与された俺が気に入らない――例えるなら入門1日で免許皆伝を不正で得たようなものか」
「そりゃ、苦労したサイラス様には面白くないわけですね」
アッシュは腕を組み、頷いた。
「だからといって、娼館での連日の放蕩はいささか問題ですよ?養い子であるリル様が心を痛めていらっしゃる――」
「その養い子が問題だっ!!」
「「は?」」
「なんで、俺があんな年頃の娘の親なんだよっ!おかしいだろう!」
「まあ……リル様は確かに年頃の娘ですが……」
「俺が親なんて、間違っている!しかも一緒に住めだと?!」
サイラスはわなわなと手を震えさせた。
「俺が手を出したらどうする気だっ!!イーレは何を考えているんだっ!!」
「「あ~~~~~~~~」」
リルのサイラスに対する恋心を知っている関係者達は「手をだしてしまえ」と思っているが、それを口にするとさらに事態はややこしくなることは明白だったので、二人はそれについて沈黙を貫いた。
「あの年齢の娘を俺が養い子にしたなんてあり得ない!」
「イーレが言うには、我々は短命な種なんだ」
ハーレイがサイラスに向かって説明をする。
「ついでに言うなら50年たてば、間違いなく死んでいる。サイラス達から言えば、肉体の成長が早い。老いも早いがな」
「――」
「生前の――変な表現だな――あ~、死ぬ前のサイラスがリルに出会ったのは10歳の時ときいている。父親を失い孤児だったリルに出会っているんだ」
「俺が養い子にした経緯はおかしくないと?」
「そうだ」
「だが、今は違う」
サイラスは顔を背けて言った。
「もっとまっとうな人物の養い子になるべきだ」
「まあ、娼館で放蕩生活を行う人物は、まっとうとは言い難いが、以前のサイラスは真っ当だったぞ」
サイラスは唇を尖らした。
「俺は劣化品かよ」
「もしや、素行不良が理由で養い子から三行半を突き付けられることを狙っている、とかですか」
「――」
アッシュの指摘に再びサイラスは黙り込んだ。
「「ないないないないないない」」
ハーレイとアッシュはシンクロしたように、手をふり言った。