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(2)東国にて②

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 凝った装飾のある高価な内扉を蹴破り部屋に飛び込んできたのは、長い金髪を三つ編みにし西の民の民族衣装に身を包んだ子供だった。

 子供は、背より長い棒武器を握りしめ、開け放たれた窓に駆け寄った。


「ちっ!逃げやがったか!」


 子供は舌打ちすると叫んだ。


「ハーレイ!アッシュ!陣形(フォーメーション)C!」


 子供は追いかけて窓から飛びおりることを()()()()()()()()

 彼女は、寝台にいる裸の娼婦の方を振り返ると、今までの怒気をかき消し、すまなそうに言った。


「商売の邪魔をしてごめんなさい。とりあえず()()が捕獲されるまで、下でミオラスの入れたお茶とアイリが作った茶菓子を食べながら、特別手当の精算をしましょうか」


 娼婦はにこやかに微笑んだ。


「毎度、ご馳走様でございます」





 耳飾りからイーレの指示が飛ぶ。

 アッシュは呟いた。


「陣形・(しい)ですか」

「ということは、俺の番だな」


 西の民の若長であるハーレイは、腰をおろしていた路上の木箱から立ち上がると、長棍とともに準備運動を始めた。


「陣形・『海鷂魚(えい)』とか陣形・『()』とか陣形・『(しい)』とか、メレ・アイフェスは奇妙な符号を使いますね」

「いやいや突っ込むところは、弟子の逃走経路の予想を当てるイーレの才の方だろう」


 ハーレイは言った。


「本当にこんな狭い路地に、彼はやってくるのか?」

「私が描いた街路図から、毎度逃走ルートを割り出すのはイーレ様です。なんでも『心理学的分析』とカイル様の先見の絵から割り出すと、この路地なんですが……」

「毎回、兎のように我々のところに来るとは思えないが……」

「彼は筋肉馬鹿なので、兎の方が賢いと思います」

「――」


 西の民の若長は、エトゥールの優秀な専属護衛である中年の東国(イストレ)人を思わず見下ろした。


「サイラスは、護衛対象の主人では?エトゥールでは不敬にあたる発言のような気がするが?」

「私が忠誠を誓っているのは、エトゥール王(メレ・エトゥール)ですので。もっとも最近では不敬罪で、投獄か追放される方が幸せなのでは、と思ってます」

「………………もしや、()()に苦労しているのか……?」

「とっても」


 アッシュは否定しなかった。

 そこへ人の気配が近づいてくる。路地裏に飛び込んできたのは、噂の黒髪のメレ・アイフェスの青年だった。

 目の前にいる二人組に気づき、サイラスは急制動で立ち止まる。 


「げっ!!熊男(くまおとこ)っ!!それにアッシュまでっ!!」


 サイラスは無礼にも、西の民の若長という首長代理に対してなぜか『熊男(くまおとこ)』というあだ名で呼んでいた。

 確かに若長ハーレイは、長身と鍛えられた筋肉をもつ均整のとれた肉体を持っているが、『熊』と呼ばれるべきは、エトゥールの第一兵団長であるクレイの方がふさわしいだろう、と専属護衛のアッシュは思っている。

 『熊男』扱いされた若長は、豪快に笑い飛ばした。


「ははっ、よし、今日の勝負の賭は俺が勝ったら『今後は名前で呼ぶ』でどうだ?サイラス」

「やなこった、熊男は熊男だろう。俺がなんで勝負を受けるって決め込むんだ?!」

「連続敗退記録に不戦敗を加算するとは、イーレの弟子とは思えない不甲斐(ふがい)なさだ」


 ぴくりとサイラスの頬が引きつった。




「見事な挑発ですね」

「イーレが挑発文句リストを作ってくれている」

 アッシュの呟きに、若長が答えた。

 師匠に先を読まれすぎだろう、とアッシュは思った。




 サイラスはイライラしたように、ハーレイを指さして怒鳴った。


「だいたいなんで、長棍を持っているんだ?!それはイーレが作ったヤツじゃないか?!」

「うん?確かにイーレが作ったものだが?」


 突然の怒りのベクトルが理解できずに、ハーレイは怪訝そうな顔をした。


「イーレは俺が死んでいる間に、新弟子を作りまくっているのかよっ!!畜生っ!!」

「いろいろ突っ込みたい台詞ですね。『死んでいる間』なんて、メレ・アイフェスにしか使えない表現ですよ」


 アッシュの指摘に、追い討ちをかけたのはハーレイだった。


「俺はイーレの伴侶であって、弟子ではないぞ?」

「ハーレイ様、ハーレイ様」

「ん?」

「完全に喧嘩を売ってます。師匠が知らぬ間に婚姻していることで、サイラス様が(こじ)らせている、とカイル様が申しておりました」

「そうなのか?」

「はい」

「アッシュっ!俺に聞こえるように、悪口を言うなっ!」


 サイラスが顔を真っ赤にして、専属護衛に怒鳴った。


「悪口ではなく、現状説明です」

「それが、余計だっ!!」

「忘れ病とは、やっかいだな。サイラス、イーレが伴侶になるきっかけとなった御前試合を以前、見学しているぞ。覚えてないだろうが死ぬ前は、イーレの輿入れを認めている」

「………………えっ?そうなの?」


 やや、サイラスの勢いが削がれた。


「そうだとも。いや、それよりイーレが新弟子をとりまくっているって、なんだ?」

「…………俺の長棍の欠片を勝手に新弟子に与えていた」


 不機嫌そうにサイラスは言った。子供が拗ねている雰囲気にも似ていた。


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