(1) 東国にて
お待たせしました。本日分の更新になります。 第2章開始をお楽しみください。
現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)
「サイラス、サイラス」
寝台で裸の女性に揺り起こされる。東国の高級娼館で、最近馴染みになっている娼婦がサイラスの顔を覗き込んでいた。
上階である部屋は安くはない。それなりの調度品があり、なによりも窓があった。朝日が差し込み、夜が明けたことを示していた。
サイラスがこの娼館を使う理由は、関係があることと、居心地がいいこと、そして何よりも清潔に管理されているからだ。さすが支配人の意向が反映されている。
夜が明けたか――。
サイラスは女の背中に手をまわすとそのまま引き寄せ濃厚なキスを交わした。
女の方が職業にもかかわらず、赤面する。内心、この男が男娼になったら、すぐに東国一になるのではないか、と思う。それほど手慣れているし、上手い。
だめだだめだ、と正気にかえり、客の身体を押し戻したのは女の方だった。
「もう、サイラスったら。娼婦を赤面させる技術ってどういうこと?」
「このキスでもう少し延長できない?」
なんとも魅力的な申し出だが、女は首をふった。
「お代は昨日ので充分よ。延長といわず、一週間は独占して欲しいんだけどねぇ――」
名残惜しそうに身体を売ることが商売の女は吐息をつく。彼女は昨日、同僚達の間のあみだくじで勝ったことで、彼と一夜を過ごす幸運を得ていた。
最近常連になったエトゥールのこの貴族は、気前がよかったし、あろうことか娼婦までも夢中にさせる体力と技術の持ち主なのだ。
問題は、彼が自ら指名をしないで、誰でもいいと条件をつけないことだった。
この上客の相手を決めることが、娼婦同士のいがみ合いに発展しかねず、高級娼館のまとめ役でもある支配人の伴侶から「あみだくじ」でその日の相手をきめるという折衷案が生み出されたのだ。
彼が出現すると、すでに今宵の客がいる娼婦は密かに嘆き、相手がいなかった娼婦は狂喜乱舞して「あみだくじ」に参加する。
それは最近の娼婦達の娯楽行事になっていた。
「そろそろ、恒例の騒動が起きる時間だけど?」
その言葉にサイラスの眠気は吹っ飛び、跳ね起きた。
彼は床に散らばった衣服を拾いあげ、急いで身に着ける。女はふきだした。
「サイラスってば、浮気を奥方に見つけられた貴族みたいよ」
寝台にいる女は頬に手をあて、不敬とも言える発言をして揶揄ってころころと笑う。
「俺は独身だし、誰と関係をもとうと文句は言われる筋合いがないが、なぜか怒られるんだよね」
はあっ、とサイラスは溜息をついた。
奇妙な衣服を隠すように、エトゥールの長衣を着込む。それは上級貴族が好むエトゥールの刺繍紋様が施されていた。
「でも、サイラスはそれを楽しんでいるじゃない」
女の指摘にサイラスは虚をつかれ、目を剥いた。
「楽しんでないぞ?!」
「毎回の鬼ごっこを楽しんでいるとしか思えないけど?だって、場所が割れているこの館ばかり利用している」
「他の東国の宿が、耐え難いほど不潔だからだ」
キッパリとサイラスは言った。
答えているうちに1階で怒鳴り声が聞こえる。子供の声だ。
「あの馬鹿はどこにいる?!」「サイラス!大人しく、でてこいっ!」と怒鳴り声は階段をあがるように近づいてくる。
「おっと、ヤバい」
サイラスは勢いよく窓を開け放つと、窓枠に身軽に飛び乗った。
「また、ドアが壊れると思うけど、弁償の請求はエトゥール王宛でよろしく」
「そのうちエトゥール国が破産するのではないか心配。このドアの装飾、安くないのよ?」
「知ってる。だからちょうどいいんだ」
手をひらひらと振り、サイラスはそのまま窓から飛びおりた。
最初は投身自殺か?と度肝を抜かれたものだが、数回遭遇すると慣れる。4階の窓から飛び降りたはずの男は、身軽に地面に着地し、逃走体制に入っている。
新人の娼婦が、彼の非常識な逃亡手段に悲鳴をあげて失神することもこの娼館の風物詩になりつつあった。
と、同時に、部屋の鍵がかかっていたはずの扉が、乱暴に蹴り破られた。
正月そうそうこんなネタから始めていいのか、と作者は内心悩んでいる。(マジで)(でも始める)