表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/70

(50) 再会⑬(エトゥールにて)

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 結局、サイラスは一睡もできなかった。


 睡眠不足であっても、体内のマイクロチップが管理調整しているので、即座に影響は出ない。こういう時は便利かもしれないが、精神的徒労(ストレス)が解消されるわけではないのだ。


 研究都市所属の研究馬鹿達は平気で6徹、7徹をして、体内チップの異常消費を感知した医療チームに強制睡眠処置を受ける羽目になる。たまに施設内で、逃げる研究馬鹿と捕獲に燃える医療員との追いかけっこが目撃される。

 研究馬鹿達(あいつら)は睡眠を削って研究時間を求めるくせに、逃げる時間がもったいなくないのか、とサイラスはよく思ったものだ。彼等の行動は矛盾に満ちていて、本人達はその事実に気づいていない。


 サイラスのような降下隊に所属する人間は、未知の惑星探査時に肉体を酷使しながら、そのような状況におちいることはあった。だが、考え事のために不眠になるという状況は初めての経験だった。

 地上に降下して1日でそんな精神状態になるとは、予想外もいいところである。キツい。肉体ではなく、精神負荷が多大だった。


 わけがわからない。


 この惑星で死ぬと、記憶が保持されない可能性がある――そんな馬鹿な仮説があるだろうか?

 すると、今自分が再び死ぬと、中央か観測ステーションで目覚めて、地上記憶がないことに唖然とするのだろうか。それとも気にせず通常任務に戻るのだろうか?


 それはないな、とサイラスは思った。

 イーレの所在を求め、イーレが地上に降りている事実に愕然とし、とりあえず降下の道を選ぶだろう。


 結局、ここまでは一択なのだ。


 今、何をすべきか――イーレに会うことだ。

 師匠でありサイラスの後見人であるイーレは、自分のクローン申請の権限を持っている。死後に再生を申請したのは、イーレだ。イーレなら道を示してくれる。

 その道の最悪パターンは、長棍を失ったことで何度目かの破門宣言を受けることだが――。

 

「おはようサイラス、寝不足か?」


 ディム・トゥーラは、起きてきたサイラスの状態を即座に見抜いた。精神感応者に誤魔化しはきかない。


「考えすぎて眠れなかった。頭がショートしそうだ」

「そうだろうな」

「この状況は俺の趣味じゃない。あれこれ考えるのも面倒だ。とりあえずイーレに会って……ロニオスという人物――今は人じゃないのか――そのロニオスと直接会話をすることは可能なのか?」

「可能だとも」


 ディム・トゥーラはサイラスの前向きな行動の選択に好感を持ったようだった。


「紹介を頼めるんだな?」

「紹介しなくても上質な米の発酵酒を所持していれば、むこうからやってくる」

「……俺は真面目に頼んでいるんだが?」

「大丈夫、俺も真面目に答えている」


 ディム・トゥーラは揶揄うタイプではないことを十分わかっていても、冗談にしか聞こえない。ロニオスは、アルコール中毒なのだろうか?しかも米の発酵酒限定の?

 わけのわからないことが、また一つ増え、サイラスをおおいに悩ませた。




 アッシュの作る簡単な朝食を食べ終えた一行は、荷物をまとめると各々の馬を率いて、移動装置(ポータル)のある地面に近づいた。

 ディム・トゥーラが静かに移動装置(ポータル)を起動させると範囲内がわずかな光の揺らぎを生み出した。


 日中である限り、太陽の光の方が強すぎて、そのわずかな変化に気づくものはいないだろう。それでもアッシュは、周辺を用心深く見張っていた。


「サイラス、行こう」


 ディム・トゥーラが移動を促した。

 サイラスは降下隊の任務についている時より酷い緊張を感じた。サイラスはこの移動装置(ポータル)が、エトゥールという名の目的地に繋がっていることしか知らない。そこにイーレとカイルが待っている――その言葉だけを信じて、サイラスは移動装置(ポータル)に足を踏み入れた。


 木々に囲まれた自然豊かな大地が、一瞬にして荘厳な大理石の広い建屋内に置き換わる。剥き出しの地面が、高価な分厚い絨毯に変化していた。

 無駄に広い空間だった。生活感が全くない。


 壁と柱には緻密な浮き彫り細工(レリーフ)がほどこされており、美術の知識がないサイラスにもその美しさと芸術性は理解できた。

 吹き抜けの天井には、天井画存在していた。中央の円形画とそれを囲むように配置された8枚の絵は、人物と動物が描かれている不思議な構図だった。


 数百人は収容できそうな広い空間の離れた戸口に、イーレとカイル・リードの姿が見えた。シルビア・ラリムとクトリ・ロダスも確認できた。あと見知らぬ人物が数人いた。


「サイラス!」


 カイルの横にいる少女が目を見開いて、サイラスの名前を叫んだのだ。


 誰だ?


 少女の表情が花がほころぶように明るい笑顔になり、次には泣きながら駆け寄ってきた。


「サイラスっ!」


 少女は全速力でサイラスに強く抱きついてきた。

 サイラスは強い感情のこもった抱擁に困惑し、硬直した。

 赤毛の少女は涙をボロボロとこぼした。


「ごめんなさい、ごめんなさい。私が悪かったの。私のせいで、サイラスを死なせてしまった。ごめんなさい。会いたかった。もう一度会いたかった」

「ええっと……」


 サイラスは最大の問題の解決をはかった。

 将来有望な、かつ発展途上の少女の身体を自分から引き剥がして、少女を見下ろして言った。


「あんた、誰だ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ