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お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

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「サイラス・リー。貴方の記憶の消失はイーレと同現象との判断は、し(がた)いわ」

「……と、いうと?」


 サイラスは首をかしげた。


「イーレはオリジナルのほとんどの記憶を保持していなかった。貴方は降下前までは完璧に保持しているわよね?」

「確かに……ディム・トゥーラがカイルのお守りをしていたことは、よく覚えているぜ」

「そういうことは忘れろ」


 ディム・トゥーラは端末でサイラスの頭を軽く叩くことで、発言をたしなめた。


 ディム・トゥーラの反応がいつもと変わらぬことに、サイラスは、ほっとした。違う反応だったら、保持している記憶にすら、自信をなくすところだった。

 ディム・トゥーラがカイルのお守りをしていたことは、観測ステーションメンバーの周知の事実であり、『何か起こればディム・トゥーラ』が合言葉になっていたことを本人達は知らないだろう。


 イーレと記憶喪失のパターンが違う――その指摘は正しかった。


「すると、俺の記憶の消失は、記憶保存の不備?」

「そんな事例は今までない」


 ディム・トゥーラは、全否定してきた。

 ジェニ・ロウもそれに賛同した。


「ないわね。だけど、イーレと共通するところもあるのよ」

「どんな?」

「イーレはこの惑星で死んでいるの、貴方同様にね」

「はあ?!」


 サイラスは驚きの声をあげた。


「いや、この惑星の探査は初めてだよな?!」

「そこらへんの裏事情は、そこの狸親父に聞いてくれ。それより本当に記憶を失っているんだな」

「いやいや、待てよ。エレン・アストライアーがここで死んでいるって、どういうことだ?」


 イーレの原体(オリジナル)の本名は、エレン・アストライアーということをサイラスは知っている。

 原体(オリジナル)の記憶がないイーレは自身を『ポンコツ複製体(クローン)』と呼んで、原体(オリジナル)を嫌っていた。

 年齢は揶揄(からか)いの材料にできても、原体(オリジナル)については話題に出すのを控える――それがイーレと付き合うルールでもあった。そのルールを教えてくれたのが、ジェニ・ロウだったことを、サイラスは思い出していた。


 その原体(オリジナル)がここで死んでいる。この探査惑星がイーレと深い因縁があることは、驚きだった。


「…………()()、そのことを知っていたのか?」

「惑星降下後に知った」

「イーレは?」

「彼女も降下後に知った」

「ディム・トゥーラ、そこまでにしなさい。記憶にない事実を伝えることは、認知を歪めることもあるのよ。貴方の伝えることは伝聞であって、本人が経験したこととは微妙に異なるのよ」


 何かを言いたげだったが、ディム・トゥーラは最終的に口をつぐんだ。


「俺は聞きたい」

「やめておきなさい。イーレみたいに不安定になるわよ」

「――」


 サイラスは初めて、イーレの悩みの真の部分に触れた気がした。5年分の記憶が欠落しただけで、世界が違う気がするのだ。

 原体の記憶がないとは、どれだけ不安なものだろうか?

 自己を証明するものがない。

 知らぬ間にもう一人の自分が行動して、周囲の人間に認知されているのだ。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()


 これはキツい。

 哲学的な分野に足を突っ込むようなものだし、極めて不快な命題だった。


 イーレはずっとこんな重いものを背負っていたのか。

 サイラスは判明した事実に愕然としていた。


「……俺はどうしたらいいんだ?」


 自身のことも。イーレのことも――。


「イーレは心配いらないわ。ディム・トゥーラの報告によると、極めて安定しているから。問題は貴方よ」


中央の管理官は容赦なかった。


「サイラス・リー。貴方の道は二つあるわ。このまま中央に戻り、記憶喪失の原因を究明する」

「それってほとんど実験動物だよな?!」


 サイラスは叫んだ。


「イーレが散々やられたヤツじゃないかっ!」

「ええ、そうよ」


 ジェニ・ロウは否定しなかった。責任者であるエド・ロウは黙ったままだった。


「……もう、一つは?」

「惑星に降りる」

「――」

「ディム・トゥーラは、貴方を迎えにきたのよ。記憶障害が出るとは計算外だったけど」

「………………迎えにきた?」

「記憶があれば、絶対に地上に戻る道を選ぶと思ったからだ」


 ディム・トゥーラがぼそりと言った。

 おかしな確信だった。なぜ、自分が惑星降下の道を再び選ぶと思ったのだろう、とサイラスは疑念を抱いた。


「なんで?イーレが地上にいるからか?」

「それもそうだが、他にも――」


 言いかけて、ディム・トゥーラは再び口をつぐんだ。

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