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(49) 再会⑫(専属護衛の場合)

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

身内は、無事ICUから個室にうつり順調にリハビリを開始しました。問題がないので、矢沢永吉の武道館ライブで、はっちゃけてきたことを懺悔いたします。(土下座)(さすがに年末年始の旅行はキャンセルしたけど、永ちゃんは譲れない)


ブックマークありがとうございました!励みになります。

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

「希望なら説教でもいいが?」

「説教ナシデオ願イシマス」


 サイラスは即座に答えた。


「サイラス、今のお前の状態は稀有なことだ」

「そうだねぇ」

「だからこそ、こちらも解決のための手がかりを探している」

「だけどさぁ、これって解決する問題?」


 サイラスは両手を広げて肩をすくめてみせた。


「正直、未知数だ」

「はっきり言う言う」

「単刀直入に質問をする。部屋に違和感を覚えたのか?」

「真新しくて落ちつかなくてさ。こっちの方がしっくりするだろう?」

「侍女が掃除の時に位置を変えたのだろう。こちらを見てくれ」


 ディム・トゥーラは小型の携帯端末を取り出し、起動した。端末上に精密な手書きの絵が浮き上がる。

 サイラスは驚いた。今いるこの部屋が描かれている。

 サイラスは奪うように端末を手にした。


 絵と視野の角度を調整して見比べる。

 なんだか間違い探しをしている気分だ――サイラスは困惑した。

 サイラスが配置し直した調度品の位置は、端末の絵と完全に一致している。違いは古いか新品と、壺や調度品の紋様の不一致だ。サイラスの感覚では、端末の絵の方がしっくりした。

 だが、これは映像記録ではなく、間違いなく描かれた絵だ。


「これはいったい……」

「その絵は、ここが焼失する前の光景だ」

「はぁ?!」

「お前は過去にここに来たことがある。記憶がなくとも、無意識に違和感をとらえている。これが証明だ」


 サイラスが見入っている端末の表面を指でつついて、ディム・トゥーラは言った。


「部屋に違和感を覚えた。薪の集め方や四つ目の倒し方に熟知している。高級素材をとってきた。路銀の心配をする。迷わず物置部屋から斧や鉈を調達してくる。全部無意識の産物だが、サイラスの行動は全て正しい」

「……俺は、ここに来たことがあるわけ?」

「初めての降下後に縁あって来たのが、ここだ。俺はその時、観測ステーションから補助していた。この絵は、焼失したここを再構築するためにカイルが関係者の記憶から読みとったものを描きおこしたものだ」


 他の絵もあるはずだ――サイラスは端末を操作しようとしたが、ロックがかかっていた。


「絵は他にもあるんだろう?」

「ある」

「見せろよ」

「だめだ」

「なんでだよ?!俺の記憶に関係するんだろう?!」

「お前が記憶を失っている原因が不明だからだ」


 ディム・トゥーラは、はっきりと言った。


「脳の損傷によるものではない。肉体の再生に問題はなかった。イーレもこの惑星で亡くなっている原体(オリジナル)の記憶を保持できていない。これは偶然だと思うか?」

「偶然じゃないなら、なんだって言うんだっ!」


 イライラしたように、サイラスは怒鳴った。それから慌てて口を抑える。

 ディム・トゥーラに八つ当たり的な言動はするべきではない。彼はカイル・リードの支援追跡者であって、自分は対象範囲外だ。にもかかわらず、手厚く面倒を見てくれている点は感謝するべきだった。


「クローン再生の記憶障害はありえない。にもかかわらず、イーレは複数回再生されても記憶を取り戻せなかった。そして、今、サイラスにも同じことが起きている。それを踏まえた上で、これは俺とカイルがたてた仮説なんだが……」


 懺悔と言い訳をするかのようにディム・トゥーラは前置きを告げた。それからしばし躊躇ってから本題を口にした。


「この惑星で死ぬと、生前の記憶が保持できないのではないのか、と」






 その言葉を理解するのに、サイラスはかなりの時間がかかった。結果、長い沈黙が続くことになった。

 

「いやいやいやいや」


 サイラスは、大袈裟に首をふった。

 生前の記憶が保持できない理由が、地上で死んだことに起因するとは、突拍子もなかった。


「俺には記憶がある。イーレも覚えているし、観測ステーションのやりとりもはっきり覚えているし――」

「ああ、すまない。表現が悪かった。喪失(ロスト)するのは、地上に関する記憶だ。『生前のこの惑星での記憶』だ」

「…………なんで?」

「それがわかれば、論文が50本はイケるんだが……」


 ディム・トゥーラの返答は研究員の悪癖の集大成であり、直訳すると「わからない」だった。

 サイラスは半眼になった。


「俺は研究馬鹿の趣味はない。論文より俺の記憶に価値を見い出すぜ」

「残念だ」

「……本気で残念がっているな?」

「症例がイーレとサイラスしかないからな。証明するには、圧倒的に統計標本(サンプル)が少なすぎる」

「人をサンプル扱いするな。いっぺんディムも死んでみれば?」

「馬鹿言え。俺は中央(セントラル)要注意人物(ブラックリスト)にカイルともども記入されているんだ。死んでここを忘れたら、戻って来れない可能性が高い」

「カイルがいるのに?」

「うるさい。なんでもかんでも、あいつを基準にするな」

「だってさ、実際、観測ステーションでの行動は、カイルに振り回されて――」


 サイラスは虎の尾を踏み抜き、端末を奪われるとその端末で頭を殴られた。手加減はなかった。


「〜〜〜っ」

「仮説にすぎないし、イレギュラーな標本(サンプル)もあるんだ」


 凶器にした端末を弄びながら、ディム・トゥーラは言った。

「イレギュラーのサンプル?」

「ロニオス・ブラッドフォード。初回探索時の責任者で、エド・ロウ所長の知人のメチャクチャ食えない古狐のクソ親父。500年前に降下して残留生存していた人物の一人だ」

「うん?」

「この古狐野郎は、肉体を捨てても記憶を保持している」

「肉体を捨てて?」

「この惑星の独特の異常生物――地上では、「精霊獣」と呼ばれる動物になっているんだ」

「――それ、最近の中央(セントラル)で流行っている娯楽画像のあらすじ?」


 サイラスは真顔で突っ込んだ。


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