(46) 再会⑨(専属護衛の場合)
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「ディム」
「サイラスが堅物で生真面目だったら、まずはイーレが弟子に対してする理不尽な要求の数々に疑問をもち、待遇の改善に奮起して、あげくの果てには師弟関係が破綻してるだろう」
反論しようとしたが、ディム・トゥーラの主張はもっともだ、と思った時点でサイラスの負けだった。
あの子供姿の詐欺みたいに愛らしい外見を持つクソババアの元で、師弟関係が継続しているのはサイラスだけだった。
イーレの長棍の演舞に惚れ込んだ人物は多数存在していたが、イーレは正式な弟子をサイラス以外とらなかったし、しつこい希望者も『お試し期間』と称するトレーニングを課して、全員がもれなく1日ももたずに音をあげた。
「……いや、待て、俺が不真面目でいい加減な人間だから、師弟関係が続いているって、言ってないか?」
「違うのか?」
ディム・トゥーラはサイラスの指摘を否定しなかった。
「違う――と言い切れないところが、イーレだからなぁ……イーレも不真面目なところもあるし……お堅い人間が大嫌いだったからなぁ。アスク・レピオスなんて天敵だったぜ?」
その名前をだしたとたん、ディム・トゥーラの顔色が変わったようにサイラスには見えた。
ディム・トゥーラは問いかけてきた。
「……なぜ、アスク・レピオス博士の名が?あ、いや、イーレと博士が、なぜ天敵なんだ?」
「知らないのか?アスク・レピオスは医療学会の重鎮で、研究都市のクローン再生を担当していたんだ。それがイーレの原体のクローン再生を続けて失敗した。能力の喪失、記憶障害の発生で、責任を問われ降格処分を受けた。その後、イーレにしつこく付き纏って、接近禁止処分を受けている。当然、この不祥事で閑職に追いやられたってわけさ」
「…………初耳だ……」
「そりゃ、クローン失敗事例がらみで、緘口令が敷かれているからさ。俺もアイツが大嫌いだった。だけど、所長から何も聞いてない?」
「いや、なにも……」
「変だなあ、緘口令を出したのは所長なんだけど」
「――あの狸親父っ!!」
ディム・トゥーラの珍しい絶叫に、荷馬車に高級木材を積み込む作業をしていた専属護衛二人はギョッとして、振り返った。彼等は、そのまま見なかったふりをするという行動を選択した。
「だからイーレがよく言ってた、と言っただろう?所長は狸親父だから気をつけろ、って」
何をいまさら、と怒りに震えるディム・トゥーラの肩をサイラスは優しく叩いた。
荷馬車の往復任務から戻ってきたミナリオは、3台目の積荷である魔獣の素材の山を見た時に、深い吐息をついた。
「なにか問題でも?」
察したディム・トゥーラが質問を投げた。
「四つ目が魔獣だと理解していますか?」
「もちろん」
「討伐には、通常は兵団が派遣されます」
「うん?」
「これは、大規模な討伐があったレベルの成果になります。20頭近くありませんか?」
ディム・トゥーラはちらりとサイラスを見た。
「つまりうちの脳筋は、1個小隊並みってことか?」
ミナリオは首を振った。
「小隊は20名から30名で組まれますが、せいぜい討伐対象は1匹です」
「…………は?」
「猛毒をもつ四つ目に接近戦を挑むことは無謀。盾役と前衛で注意をひきつけ、遠隔武器で攻めます」
「――」
「小隊3つで中隊を構成し、一週間ほどかけてもこれほど成果を出せるかあやしいものです。次に問題になるのは場所です」
「場所?」
「放棄された土地ではなく、なぜ人的被害がでている場所から討伐しないのか、という非難が生じる可能性があります」
「なんとなく理解した」
ディム・トゥーラは、軽く片手をあげた。
「つまり我らが脳筋のサイラスは一騎当千並に暴れて、誤魔化すのに苦労する事態に陥っているってことだな?」
「脳筋と言うな」
サイラスの抗議は二人に黙殺された。
ディム・トゥーラは考え込んだ。
「素材を破棄するか?」
「こんな貴重な素材を恐れおおい……」
「だが、大災厄で移住を余儀なくされている民衆が誤解するネタは避けるべきだろう?エトゥール王の立場を悪くするわけにはいかない」
「しかし――」
「つまり、俺がうっかり退治した魔獣で悩む地域が多数あるってことか?」
サイラスは頭をかいた。
「かなり問題になっています。討伐隊を組む余裕がない状況です」
「俺がその魔獣を退治すれば、いいんじゃね?」