(41) 再会④ (役割分担協議(ただし一方的))
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「俺はサイラスを担当する。カイルはリルを頼む」
『わかった』
「今夜はこの小屋に泊まる。明日、移動装置でエトゥールに移動する」
その言葉を最後にディム・トゥーラは念話を終えた。
カイルがディム・トゥーラとの念話を終えると、白猫姿のウールヴェであるロニオスが腹天状態で笑い転げていた。そのそばでファーレンシアとイーレが、なんともいえない表情でカイルを見つめている。
「…………何?」
異様な雰囲気にカイルはたじろいだ。
イーレは盛大な溜息をついた。
「カイル、貴方って絶対に盤上遊戯でディム・トゥーラに勝てないタイプでしょ?」
「勝てないよ?」
きょとんとして、カイルはその指摘を認めた。
わかっていないカイルの返答にイーレは再び溜息をついて、ファーレンシアは憂えたように片手を頬にあてた。
「ファーレンシア?」
「兄がディム様に『権謀術数』の講義をした時から、ディム様が影響を受けて、兄に似てきたような気がします」
「メレ・エトゥールに比べたら、まだ可愛いものでしょ?」
イーレもその傾向を認めているような突っ込みをした。
「まあ、そうなんですが……」
「ディム・トゥーラは、管理職――ええっと、指導者候補の教育を受けているから、将来を見通すことに長けているのよ。ついでに言うなら、自分の得手不得手を自覚しているわ」
「そんな気がしました」
「二人とも何を言っているかわからないよ。はっきり、言って?」
ファーレンシアは困った表情を浮かべていた。
ちらりと、笑いすぎで瀕死にも似た状態の白猫を見てから、彼女は伴侶に向き直った。
「カイル様は、今ほど重荷を背負われました。問題はディム様から重荷を押し付けられた事実に気づいてないことです」
ファーレンシアの言葉に、猫のロニオスは再び大爆笑をした。
「ちょっとうるさいよ、ロニオス。――ファーレンシア、重荷って何さ」
「あまりにも巧みな業務分担でした。カイル様、サイラス様は忘れ病を患ったのですよね?」
「うん」
「ずっと、ロニオス様が念話を中継してくださいました。専属護衛のアッシュのことも覚えてない、と」
「うん」
「先ほど、カイル様自身がおっしゃいました。サイラス様は、リルのことを覚えてないかもしれぬと。その可能性をディム様もお認めになりました」
「うん」
「それは、可能性ではなく、確信ですわよ?」
「はい?」
「ディム様は、サイラス様にリルの記憶がないことを確信していらっしゃいます。だから、サイラス様の面倒を見るという楽な職務を確保されて、カイル様に大変な方を押しつけました。まあ、ディム様は子供を慰めるのを苦手としている傾向はあるとは、察していましたが…………」
「…………大変な方……」
「考えてみてください。死んだ養い親が戻ってきた。だが、彼は自分を覚えていない。私だったら、カイル様が私のことを忘れてしまったら、大泣きします」
「……………………」
カイルの顔は、みるみる青ざめた。
カイルは咄嗟にイーレを見たが、それを予想していたイーレは手を胸の前で交差し、大きな×印を作った。
「指名を受けたのはカイルだし、承諾したのはカイルだわ。まあ、多少のフォローはするけど、メイン担当は遠慮しとく。サイラスが死んだ時の告知は師匠としてしたけど、今度の方が嫌だわ」
「嫌って…………」
「あなた、サイラスがリルと出会って、どれだけ影響を受けたと思ってるの?リルはサイラスの性格矯正に多大な貢献をしていたのよ?それがリルとの記憶がなくなった状態なのよ。数年間分の精神成長がリセットされたなんて、考えただけでも、恐ろしいわ」
「恐ろしいって……」
「せめて地上で女性問題を起こさないよう、指導しなくては…………」
イーレの呟きの内容は、とても不吉だった。
『ちょっと、ディム・トゥーラ!!ズルいよっ!!』
ようやく、気づいたか。
ディム・トゥーラはカイルの悲鳴に近い抗議を華麗に無視した。