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(4) 欠落

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 再生体(クローン)の記憶の欠落――鈍いサイラスもこれが大問題であることは理解できた。

 

 絶対的な管理と安全性が保障されたクローン技術そのものの前提が覆されかねないのだ。

 イーレの記憶障害の存在が大問題になっていたのは、原体(オリジナル)の記憶が欠落しているという前代未聞の症例だったからである。

 何回再生されても、オリジナルの記憶が蘇らなかったことは異常であった。

 11回目の複製体(クローン)であるイーレの方が原因追求の材料になるのを嫌悪して、肉体の成長を子供の年齢で止めてしまったと、サイラスは聞いている。


「つまり俺には惑星を降下してからの記憶が欠落している、と。しかも5年以上経過しているわけだ」

「そうなんだが……本当に断片でも覚えていることはないか?」


 ディム・トゥーラの質問にサイラスは腕組みをして考え込んでしまった。何か夢をみたことを起床直後に忘れたような気分だった。確かにわけのわからない喪失感は存在していた。

 だが、なんの手がかりも思い浮かばなかった。


「あ、実はイーレが俺をからかうために壮大なドッキリを仕掛けて、隣室でモニタリングをしているってことは――」

「ない」

「…………イーレならやりかねないと思うんだけど、さ……」

「……時々、お前達の師弟関係はおかしいと思うぞ」


 ディム・トゥーラの容赦ない言葉が降ってきた。

 おかしな師弟関係を継続している本人の身になってほしい――サイラスは心の中で思った。


「サイラス・リー」


 それまで黙って端末を手に記録を検証していた黒髪の美女が呼び掛けてきた。サイラスはこの中央(セントラル)の制服をきている人物を過去に見たことがあった。


「えっと……あんたには見覚えがある。イーレをよく訪ねてきたイーレの友人だよな」

「あら、驚いた。別れた女性の顔は覚えていないのに、私のことは覚えているのね?名前は憶えている?」

「覚えていない」

「ジェニ・ロウよ。ついでに貴方の上司であるエド・ロウの妻でもあるわ」

「ついで……」


 妻の発言に、狸親父である上司エド・ロウは嘆いた。


「は?!所長の奥さん?!研究都市で見たことないぞ?」

「驚いてくれてありがとう。私は研究都市ではなく、中央(セントラル)の管理官だから、見かけたことがないのは当たり前ね」


 サイラスは慌てて口を抑えた。

 研究予算などつけるのは中央であり、管理官は研究や予算管理が正しく使われているか監査する立場の人間だ。

 先発降下隊所属のサイラスのクビなど、素行不良を理由に一発申告で飛びかねない。


「……ジェニ・ロウね。覚えておくよ」

「いや、問題発言は他にもありますよ?別れた女性の顔は覚えていないって……」


 ディム・トゥーラはジェニ・ロウの言葉に思わず突っ込んだ。


「あら、別に私がサイラス・リーと交際していたという意味ではないわよ?この子、交際した女性と別れると顔を忘れるらしいの。興味のない人物の名前も覚えようとしないって、イーレが言ってたわ」

「カイル・リードの真逆か……」


 カイル・リードは一度あった人間の顔と名前を忘れない。

 座っているサイラス・リーに全員の視線が集中した。

 後ろめたさに負けたのはサイラスだった。

 彼は片手をあげて弁解をした。


「……業務で必要な人間の顔と名前は憶えているよ」

「その消去癖は私生活限定なのか」

「もちろん。ちゃんと降下任務の時は、詳細に漏らさず報告しているだろう?」

「…………どこから突っ込んでいいかわからない」

「さて、サイラス・リー、貴方に確認することがあります」


 ジェニ・ロウは高らかに進行を宣言した。


「貴方、クローン再生は初めてではないわよね?」

「もちろん」

「今までクローン再生で記憶障害のトラブルは?」

「あったら、イーレみたいに有名人じゃね?」

「確かに……イーレとの生活は覚えてる?」

「殴られた回数は覚えてないけど、ね」

「軽口がたたけるとは、結構。イーレの実年齢を覚えてる?」

「……………………それを言わせて、俺にもう一度、クローン再生を味合わせたいわけ?」


 婉曲的な『イーレに殺される』という表現にジェニ・ロウは声をあげて笑った。


「そういえば、ババア発言してイーレに殴られていたわね」


 ジェニ・ロウは端末で顔を隠して、思い出し笑いに耐えていた。


「まさかの再生ポット行きだったよ。あのさー、やっぱりイーレは隣室に潜んでない?」

「いないわよ」

「そういえば、イーレの実年齢の情報をくれたのも、ジェニ・ロウだった」

「思い出せるようね。やっぱり、記憶の消失は地上降下後に限られるわけ……か」


 ジェニ・ロウは端末に何かを記録していた。 

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