(39) 再会②(専属護衛の場合)
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「会えば、毎日のようにサイラスの鍛錬の相手をしていた親しい間柄、とカイルが言っていたが?」
ディム・トゥーラの言葉に、アッシュは首をふって、否定した。
「親しいとは語弊がありますね。専属護衛である私は、身分の高いメレ・アイフェスの要望を断れる立場ではありません。リハビリと称して過酷な運動を強いられることを、カイル様は『ぱわーはらすめんと』とか言う、問題だとおっしゃってましたが?」
「……カイルめ……余計なことを……」
ちっ、とディム・トゥーラは舌打ちをした。
「それを『余計なこと』と言うような状況が展開される予定ということですね。私の本能が、呪いの印を切って逃げろと警告するのは、どうしてでしょう?」
「東国の呪いの印とは、研究課題としてなかなか面白そうだ」
「…………貴方様の専門は『動物』と聞いてますが?』
「俺は雑食なんだ」
「鍛錬の相手?俺の?」
ディムとアッシュの会話に耳を傾けていたサイラスの顔が、喜びに輝いた。
「あんた、俺の相手をしていたのか?」
「え、ええ、まあ……」
「すげぇな、やっぱり鍛え抜かれた身体をしていると思ったんだ。体幹のバランスも素晴らしい。本当に、俺の相手を?それって、たいしたもんだぞ」
町の子供が、専属護衛を称賛と憧れの眼差しを向けることに類似しており、アッシュはその素直さにドン引きした。
確かに、以前にサイラスの相手はしていた。それを本人は忘れているが、『対等な練習相手』が存在していたことに興奮している気配があった。
アッシュは、なぜ急な迎えの指名されたか理解した。
サイラスがどこまで記憶を失っていることの確認のためと、記憶を失うことでストレスに晒されているサイラスのガス抜きの人材を、欲しているのだ。
「…………ディム様?私を人身御供にしましたね?」
「……サイラスの相手をできるのは、アッシュか若長ぐらいだと、イーレからもお墨付きをもらっている」
「それは光栄な言葉で喜びたいぐらいですが、これからの私の未来はお先真っ暗です」
サイラスは子供のような無邪気な笑顔をアッシュに向けた。本当に邪気が一切なかった。
彼は記憶にないが、鍛錬の相手をしていたという専属護衛に絶大な親近感を抱いたようだった。
「目的地について、時間があったら、さっそく手合わせしようぜ?それぐらい、いいよな?えっと、アッシュだったな、よろしくアッシュ」
親しげな歓迎の言葉に、アッシュの方は疑いの眼差しを向けた。
「…………サイラス様、本当に記憶がないんで?忘れ病のふりをして、私を謀っていませんか?」
「うん、記憶はない。なんでそう思う?」
「…………出会った頃の反応と、全く一緒です」
「あ〜〜、わかるなぁ」
サイラスは、他人事のようにしみじみと言った。
「イーレ以外に俺の相手ができるなんて、地上人とはいえ、貴重な人材だ。こういうのなんて言うんだっけ?天然記念物?絶滅危惧種?」
「動物に例えるな」
サイラスがディム・トゥーラに確認をし、ディムはやんわりと地上人に対する非礼を嗜めた。
絶滅危惧種――つまりは、メレ・アイフェスの世界にも、サイラスの運動神経をもつ存在は稀有なのだろう、とアッシュは理解した。
「以前の俺も絶対喜んだろうな。いやあ、地上滞在の楽しみができた。観測ステーションに帰還する時も、同行しないか?」
「馬鹿な勧誘をするな」
「え?駄目?」
「駄目に決まっているだろう」
「……残念」
サイラスは吐息をつき、本当に残念そうにアッシュを見た。
『かんそくすてーしょん』なる場所が、メレ・アイフェスの世界であることは、予備知識としてアッシュも知っていた。そこを表現する一番近い語句は『天上の世界』だろう。
「…………ディム様、今の会話は私を冥界に連れ去る話ですか?」
「似ているようなニュアンスだが、行先は冥界ではないし、阻止するから安心してくれ」
「…………全然安心できませんが?」
「大丈夫、イーレがいる」
西の民に嫁いだ子供姿の老女は、メレ・アイフェスの最終兵器だろうか――アッシュは任務を放棄したくなった。
その心理をディム・トゥーラは察して、さらに切り札を切った。
「エトゥール王に特別手当の交渉をすることは、俺にまかせてくれていい。今の3倍以上は、保証する」
真の主人の名を出されて、アッシュは外堀を埋められたことを感じた。賢者の中でも、場を仕切っている茶髪の賢者はエトゥール王並みの狡猾な手腕を持っている。つまりは主人と似ているのだ。
「どうして、私が関わる人物は人を追い込むことを得意としているのでしょうか……」
アッシュの嘆きに、ディム・トゥーラは聞こえなかったふりをした。




