(38) 再会①(専属護衛の場合)
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「迎え?」
「歩いて次の移動装置まで、行けないこともないが、念のため専属護衛を呼んでいる」
「次の移動装置って、どういうことだ?」
サイラスの質問に、ディム・トゥーラは、北よりの方角を指さした。
「水平展開の移動装置は、少し離れた地点に設定してある」
「なんでここに設置しなかったんだ?」
「火砕流の被災地だったから、移動装置を設置するには危険すぎた。絶対座標の変動が激しいし、二次災害は避けたかったんだ」
「いやいや、待ってくれ。移動装置の設置は、災害後――俺が死んだあとか?」
「まあ、そうだ」
記憶がすっぽりないとは、もどかしい。
サイラスには、解説されたその状況が不自然に思えた。
サイラスが降下に使った移動装置を水平移動用に転用しなかったことは理解できる。この謎の惑星は、移動装置を破壊している前例があるし、再び定着できるとは限らない。実際に、ずれるはずのない絶対座標がずれて目標より南に500キロに定着するのは、究極の異常事態と言えた。
「水平用の移動装置はどこで調達を?」
「言っただろう。この惑星は500年前に調査対象になっていて、すでに地下拠点が大陸各地に設置されていたんだ。そこから旧式の移動装置を手に入れた」
「500年前と500キロの絶対座標のズレ……ね。奇妙な数値の符号だな」
「――」
サイラスの言葉に、ディムの方が軽く口をあけた。ディムは考え込んだ。今まで、考えもしなかったが、確かに一致している。
「……まさか……偶然の一致だよな?……いや、世界の番人ならやりかねん……俺達に500年前の降下を気づかせるために……?……ロニオスとの誓約逃れの小細工か?……いやいや、ただの偶然だろう……そもそも泉の位置やエトゥールの位置まで細かく計算されていたことに――そんなことがありうるのか?」
ディム・トゥーラがぶつぶつと何事か呟き始めた。
己の思考に没頭のし過ぎで、サイラスの存在など忘却の彼方であることは、サイラスも察した。研究馬鹿の恒例の悪癖だった。
「ディム」
「……どこまで先見がされていた範囲なんだ……カイルに確認する必要があるな」
「ディム」
「…………情報を時系列に整理する必要が……」
「ディム・トゥーラっ!カイル達が待ちわびているのでは?」
はっとディム・トゥーラは我に返った。
支援追跡者の任を抱える人間には、対象の固有名詞が正気に戻す唯一の呪文だな、とサイラスは苦笑した。ある意味、便利だった。
「ああ、すまない。検討はあとにするべきだな」
「そうしてくれ。ここで野営するのは、できないこともないが一苦労だと思う。俺はここに降下したあと、どうしたんだ?」
「ここから500キロ先のカイル達の滞在先まで、北上した。俺が上から補助したんだ」
それは真実だろう。
視覚リンクと観測ステーションの収集した地上情報を元にした案内しか対応出来なかったに違いない。
ディム・トゥーラは、サイラスをじっと見つめていた。
「何?」
「なんでもない」
ついっと視線をはずし、ディム・トゥーラは答えた。
「迎えがきた」
ディム・トゥーラには遠隔視認用の眼球調整などなかったはずなのに、彼は遥か遠方から接近してくる動体生物を察知していた。
ああ、精神感応力のせいか――と、サイラスは理解した。便利な能力だと、サイラスは羨ましくなった。
しばらくしてからサイラスの視野にも、遥か遠方に地上の騎乗型生物に乗った人物が入った。騎乗型生物は『馬』に似ているが『馬』ではない。生物には二本の目立つ立派な角があった。
「あれは『鹿』じゃないよな?」
「角はあるが、それ意外はほぼ馬に類似した遺伝子だ。『馬』として使役されている」
ディム・トゥーラの姿を視認したのか、騎乗者は一直線に向かってきた。彼はさらに二頭の馬を引き連れていた。
「ディム様、お帰りなさいませ」
馬から降り立った男は、サイラスと同じ黒髪だった。短い髪の40歳半ばぐらいの男は、制服らしき服装に身をつつんでいる。ディムの言う『専属護衛』の制服なのかもしれない。記憶にはないが、珍しさを感じない。もしかしたら見慣れていたのかもしれない。
『専属護衛』の黒髪の中年男は痩身だったが、サイラスはその肉体が鍛えぬかれたものであることに気づいた。これは、かなりの手練れだ。
男は遠慮なく、ディム・トゥーラに抗議を始めた。
「ディム様、それにしても、あのウールヴェを通じての伝言は、あんまりではございませんか?帰還の先ぶれは直前ではなく、数日前ぐらい余裕を持っていただきたいです。しかも内容が内容で、カイル様など混乱して大変だったのですが?」
「その通り、余裕がなかったんだ」
しれっと、ディム・トゥーラは専属護衛の愚痴が込められた言葉を受け流した。
専属護衛は、サイラスを見てさらに頭を下げた。
「サイラス様も……お帰りなさいませ」
俺を知っているのか――サイラスの記憶には当然なかった。なので自然に問いかけの言葉が出た。
「あんた、名前は?」
「……………………」
サイラスの言葉に、男は虚をつかれ、それから諦めに似た短い溜息をついた。
「なるほど。『忘れ病い』とはそういうことですか。カイル様が動揺するわけですね。――失礼、アッシュと申します。サイラス様とは多少、ご縁をいただいたものです」
「多少?」
聞きとがめたように突っ込んだのは、サイラスではなくディムだった。
「ええ、多少です」
専属護衛はしらばっくれた。




