(37) 降下③
お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。
ネトコンの一次に落選しました。凹んだので更新がストップしましたが(笑)再始動します。
エトゥールの魔導師の挿絵も描き始めました。(AIイラストは破棄)そのうち改稿と一緒にアップします。
来年のコンテストを頑張るぞ!
現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)
意外すぎる言葉に、サイラスはぽかんと口をあけた間抜け面をさらした。
中央の『選ばれた者』であるディム・トゥーラは、言わばサイラスと対極の位置にいる人物だ。イーレが後見人になっていなければ、縁がなかったであろう天上人のようなものだった。
いくらディム・トゥーラが、カイル・リードの支援追跡者という精神防御役であるとはいえ、サイラスにはそこまで感謝される謂れはなかった。
後ろめたさは、半端ではない。
サイラスは思わず懺悔をした。
「あ〜〜悪い。俺の降下への立候補理由は、退屈だからとか、面白そうとか、動機不純なものであって――」
「知ってる」
ディム・トゥーラは、あっさりと言った。
「降下のための事前調査が停滞して手持無沙汰になっていたことも、単調な観測ステーション維持管理業務に飽きが来ていたことも、イーレが残留したために観測ステーションに残っていたことも知っている」
「バレバレなわけね……」
改めて言われると、さすがに羞恥心が湧き上がってくる。ディム・トゥーラは所長エド・ロウの右腕であり、そういう意味では、上司の評価査定が誤魔化しがきかない状態だった。
今年の特別手当は、今の発言で消滅したかもしれない……。
サイラスは思わぬ方向の絶望に、両手で顔を覆った。
「ついでに言えば、研究者とは距離を置いているサイラスが、珍しくカイルと交流していたのも知っている」
「――――さすが子守役」
「だから子守役と言うな」
ディム・トゥーラは、むっとしたように反応をする。
人は認め難い事実から目を逸らすものだな、とサイラスは哲学的に納得した。
「まあ、カイルはそこらのプライドの高い研究員とは違う、究極の変わり者だったからな。降下隊員とよく交流していた。蔑視することもしない稀有な存在だったよ」
「ああ、なるほど」
ディム・トゥーラも納得した。
降下隊員は一癖も二癖もある脳筋集団だ。同じ研究都市に属するとはいえ、本職の研究員に比べて諸事情により、職位ははるかに低い。サイラスが指摘するように、『臨時雇い』として蔑視する研究員は存在する。
知能を重視する研究者と、筋肉に価値観を持つ降下隊員の溝は、古来から深かった。
その降下隊員達にも受け入れられるカイル・リードの人たらしぶりも、規格外すぎた。
ディム・トゥーラのため息に、サイラスは笑った。
「カイルの能力も面白いな。上空降下を同調で再体験できるんだぜ?もう、降下隊員に大ウケでさー、擬似訓練よりリアルすぎで、娯楽の一つになってて――」
「……………………なんの話だ?」
ディム・トゥーラの声色が、氷点下まで下がった。
いったいどこが地雷だったのか、サイラス・リーにはわからなかった。
「えっ〜と、カイルは降下隊員と仲良くしてました、って話……」
「………………同調で何をしていたと?」
「………………上空降下の再体験」
「………………どうやって?」
「俺達の体験記憶を読みとったあと、その惑星降下と無縁だった相手と同調して、降下状態を脳内再現してみせた。緊張感と興奮度合いまで、正確すぎて面白かったぜ」
「…………あの馬鹿がっ!」
ディム・トゥーラは、怒りを押さえ込むかのように、罵った。
「え?これって、怒る案件?」
サイラスは困惑した。
「あいつが、この惑星に精神だけで降下することをあっさり承諾したのは、そういう体験をしていたからじゃないかっ!何が、『旧時代のアトラクションに似ている』だっ!あの野郎、他の精神感応者が耐えきれずに昏倒して脱落するのを、予想してたに違いないっ!!」
サイラスも噂で聞いていた。
精神跳躍の実験結果は散々で、カイル・リード以外は、医務室の住人になったのだ。シルビアなど、多数の入院患者の発生という事件に対応に時間をとられ、イーレの定期健診を延期してた。
「あ〜〜、確かに肉体での降下は、未体験の人間にはキツイなあ。高所恐怖症なら、なおさらだし――それを精神だけでやるというのも、無茶だな。遥かな高度を滑空するシャトルから飛び降りたいなんて、引きこもりの研究者は思わないだろう。ははは……カイルもなかなかの策士だなあ」
「いつからそんな遊びをしていたんだ」
「他の惑星探査の時から、ずっと」
「――」
ディム・トゥーラは、ため息をついた。
「もういい。あとで本人にきく」
「あちゃ……カイルのためには、黙っておくべきだったかな?ところで、俺達、カイル達のところまで、歩いていくわけ?」
「まさか」
ディム・トゥーラは、肩をすくめてみせた。
「迎えを頼んでいる。そろそろ着くだろう」