(36)降下②
お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。
現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)
「すまない。先程の発言は忘れてくれ」
「………………無理っす」
サイラスは頭を掻きむしった。
プライドの高い男から、まさかの詫びの言葉が降ってきた。サイラスは、カイル・リードとの扱いの差を感じたが、対象者と支援追跡者の絆は、腐れ縁の呪いに等しいことを知っていた。
なんといっても、ディム・トゥーラは、カイル・リードの子守役なのだ。
「子守役と言うな」
筒抜けだった。
「で?」
「で、とは?」
「俺が死んだ場所は?」
「気遣いが欲しかったのでは、なかったのか?」
「まさか、カイルが相手だったら死んだ場所も教えないとかじゃないだろうに――」
再び、奇妙な沈黙の間が生まれ、サイラスの方が焦った。
「え?まさか、カイルだったら何も教えないわけ?」
「…………あいつは、今、面倒くさいんだ。あいつが記憶喪失なら、速攻で連行して観測ステーションに帰還している」
「なぜ、俺と真逆?」
「サイラスは、神経が図太いだろう?あいつは、神経が繊細な癖に、時に大胆すぎて、後先考えずに本能で行動して騒動になる。腹立たしいことに、それが最適解だから始末が悪い。騒動の収集をはかるのは、いつも俺だ」
「…………まあ、そうだねぇ」
サイラスは、思わぬ愚痴にも近い事実の言葉に同意した。カイル・リードの規格外の能力を見誤った研究馬鹿達の騒動を始末していたのは、ディム・トゥーラだった。
もしかしたら、地上でも記憶にない数年の間に騒動は起こったのかもしれない。いや、起こったのだろう。
「地上でも、なんかやらかした?」
「やらかしたどころじゃない」
「俺とカイルで、地上の騒動のネタはどっちが多かった?」
「カイルに決まっているだろうっ!サイラスは巻き込まれた方だっ!」
「わ〜〜、めちゃくちゃ安心したぁ〜」
サイラスの大げさすぎる安堵に、ディム・トゥーラは眉を顰めた。
「おい?」
「少なくとも俺は『降下メンバー最大の問題児』の称号は回避している、ってことだろう?」
「…………まあ、そうだ……な……」
「じゃあ、もう一つ質問」
「なんだ?」
サイラスはディム・トゥーラを正面から見つめた。精神感応者に隠し事はできない。だから浮かんだ疑念はぶつけるしかない。
「ディム・トゥーラが俺にここまで付き合っている理由はなんだ?」
「それはどういう意図の質問だ?」
「質問に質問で返さないでくれよ。俺なんかにディムが至れり尽くせり状態で同行する理由が知りたいんだ。イーレに頼まれたのか?それともカイルか?」
「ああ、なるほど」
ディム・トゥーラ自身も納得したようだった。
「俺が同行することが異常に思えるか」
「異常とまでは、言わないけどさ……」
「理由はいくつかある。一つは、案内人なしに降下すればいらぬ騒動を起こす」
「……ごもっとも」
「自由行動できる立場であるからフォローに回っている、と解釈してくれていい。もう、一つは地上の記憶を取り戻してほしいからだ」
「理由は?」
「サイラスに記憶を取り戻してほしい、と思う人間が多数いるからだ。近しい人を含めて――その中に俺も含まれている」
「なるほど」
「そして、もう一つは…………」
「もう一つは?」
ディム・トゥーラは小さく息をついた。
「カイルの主義が『与える者に与えられる』って、やつなんだが……」
「はい?」
唐突に話が飛んだように、サイラスには思えた。
「心理学における返報性の原理だ。好意には好意が、敵意には敵意が返ってくる」
「うん?」
「人のために無償で行動できる人間には、その行為に心をうたれた人間が自然に協力的行動に出るっていうのが、カイルの持論なんだ」
「それ、搾取者の犠牲にもならないか?」
「俺もそう思っていた」
ディム・トゥーラは肩をすくめてみせた。
「無償の奉仕に味をしめる人間は必ずいるだろう、と。カイルが言うには、そうではなく、対等につきあえる人物を見定める技術だそうだ」
「よく、わからん」
「サイラスは、過去に地上に降下してくれた。ほとんどの連中が、研究都市に帰還し、カイル・リードの事故をなかったかのように扱った。その中でサイラスは協力してくれたことを俺は覚えている。だから今度は俺がサイラスに協力する――それだけだ」




