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(34) 弟子と羽根ペンと熊男②

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

(うっかりしていたら間があいてしまいました)


現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 だが降下準備の時間が必要なことも確かだった。地上のイーレに関わった熊男を撃退する目的も追加された今となっては。


 文字の練習をしている最中も、ペン軸の破壊行為は継続した。なぜ、ディム・トゥーラがペンの複製品を大量に用意したのか、その先見の明にサイラスは感心した。

 しかもリサイクルできる素材で、廃棄品は再構築処理を短時間で行い、再びペンとなってサイラスのそばに積み上げられる。永遠の循環が続く恐怖に、サイラスは(おのの)いた。


 サイラスは文字を書くという単調な練習作業の合間に、ディム・トゥーラから情報収集することにした。


「………………地上の主流な武器はなんだ?」


 ディム・トゥーラは自分の専門外である質問に、しばし考えこんでから答えた。


「通常の携帯武器・接近戦では長剣だ。遠隔は弓矢だった。火薬武器はまだ発明されていない。ただ、俺も大陸中央に位置するエトゥールのここ最近事情しか知らないし、俺自身は武器を使ったことはない」

「治安が乱れているって言う割には、武器を使ったことがないとは平和だなぁ」


 サイラスの感想に、ディム・トゥーラは苦笑した。


「逆だ。お前やイーレ以外の戦闘センスが皆無の人間には、専属で地上の護衛騎士がついていたんだ。他にも身を守る手段を持っている。カイルなんか、誘拐されたこともある」

「は?なんで?」

「政治的な陰謀がらみだ。だから地上の王は、我々に護衛をつけて保護した。極めて自然な流れだ」

「そうかなあ。完全に囲いこむ気が、まんまんじゃね?」

「もちろんそうだとも」


 ディム・トゥーラは、小さく笑った。


「エトゥール王は権謀術数の専門家だ。他国に取り込まれて脅威になるなら、自国で保護と称して管理飼育が最適解だろう」

「やけに理解があるなぁ?」

「珍獣・猛獣保護の基本原則と一緒だ」


 ディム・トゥーラは、動物関連の研究者でもあった。研究馬鹿の気配がしたが、わかりやすい例えだった。


「俺達は珍獣相当なわけね……」

「戦争における死ぬはずの重体者を助ける。隣国の戦闘民族の民との一触即発の危機と誤解をといて、和議に持ち込む。さらに敵国の大将軍を懐柔する――」

「大将軍を(たら)したのは、カイルだな?」

「よくわかるな」

「俺、カイルの同調能力って、魅了の一種じゃないかと思うぜ?人の懐にするりと入り込むのが超絶に上手いんだ。心の悩みを見抜くのも、長けている。案外、心理助言者(カウンセラー)に向いているよな」

「――」


 ディム・トゥーラは、サイラスをまじまじと見つめた。


「だいたい生真面目な中央(セントラル)の未来の技術官僚に道を踏み外させて、ツンデレにまで変化させるから、あれはもう驚異的な能力だよな?」


 余計なことを言ったサイラスは、ディム・トゥーラに端末で殴られた。






 サイラスの文字習得訓練――実際は道具技能習得訓練だったが――に匙を投げたのは、意外なことにディム・トゥーラだった。

 線を1本引こうとしただけで、粉砕される道具の消費は、再生製作速度を凌駕した。


「無駄だ。時間の無駄だっ!進歩が全く見られないっ!」


 ディム・トゥーラは発狂したように成果がないことを嘆いた。


「ようやく、意見の一致が見られて嬉しいぜ」

「サイラスがペンを使いこなす頃には、地上文明が滅亡しているっ!」

「………………言い方……」


 サイラスは、やんわりと抗議した。


「わざとじゃないだろうな?」

「一応、努力した」


 ディム・トゥーラは絶望の吐息をつき、再度意思を確認してきた。


「どうやって、カイルはサイラスに教え込んだんだ……もう一度確認するが、握力調整をするという選択は?」

「ない」


 サイラスはきっぱりと拒否した。


 長棍を扱う者にとって握力は能力値を左右する重要な要素だ。体幹筋と体肢筋もバランスよく鍛えなければ、棒武器をふりまわす踏ん張りがきかない。

 イーレは子供の身体でありながら、その筋力バランスが絶妙であった。


 サイラスは自分の手を見つめた。

 数年の記憶は欠落しているが、肉体は馴染んでいる。それだけが、自分が自分であるという確証の拠り所なのだ。

 数年前の降下時点の肉体状態を変更したくはなかった。

 あとは武器の問題だ。


「長棍の代わりはどうするかな……」

「地上でイーレにもらえばいいだろう」

「気楽に言ってくれるなあ。長棍をロストしていれば、俺はイーレに半殺しだ」

「それはない。イーレはサイラスの最後の行動を褒めていた」

「それこそ、ないね」


 サイラスは即否定した。


「イーレが俺を褒めることは、ほとんどない。殴り飛ばすことはあっても」

「…………なんで、イーレに弟子入りして、師弟関係を継続しているんだ?」

「俺も時々、その点を自身に問いかけているよ」


 サイラスは遠い目をした。

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