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(33) 弟子と羽根ペンと熊男

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

「俺、暴れたい…………」

「暴れて観測ステーションをイーレのいる地上に堕とす気か」


 サイラス・リーは、ディム・トゥーラの言葉に深い溜息をついた。壮大すぎる仮定条件だが、それも一種の抑制になっていた。

 暴れたいが、観測ステーションを堕とすわけにはいかない。

 地上にいるというイーレが危機にさらされるし、帰還手段がなくなるということはいただけなかった。


 何よりもジェニ・ロウの脅迫である『永久破門』はさすがに回避しなくてはならない。

 それでも一週間の待機はサイラスにとって長すぎ、地獄の苦行に近かった。よく、俺は珍しく耐えている、とサイラスは自画自賛した。


 ディム・トゥーラは驚くべきことに、後見人代理のようにサイラスにずっとつきあってくれていた。カイル・リードの件も考えると、この無愛想な仕事人間は案外面倒見がいい性格をしているのではないだろうか。


「うるさい」


 精神感応者(テレパシスト)にはサイラスの思考が筒抜けだった。


 そういう恵まれた条件にあるにもかかわらず、サイラスのストレスは溜まる一方だった。

 目覚めてからの1日目は通例の検査づくし。

 2日目は記憶の欠落の判明でジェニ・ロウから超巨大な釘が刺された。

 3日目になると地上情報の学習漬けと肉体のリハビリが始まった。

 4日目は死ぬ前と同じ肉体調整を行う予定だった。


「握力調整は、ほどほどにしとけよ?」


 肉体調整を見守っていたディム・トゥーラが謎の忠告を投げかけてきた。


「へ?なんで?」

「地上で繊細なものを大量に壊すからだ」

「例えば?」

「…………羽根ペンとか……」

「羽根ペン?羽根ペンってなんだ?」

「…………そこからか」


 ディム・トゥーラは呻いたが、すぐに複製品を用意してきた。しかもそれは、何故か大量だった。


「何これ?」

「地上の文字は覚えただろう?たまに、自筆で名前をサインすることがある。その道具だ」

「は?」


 サイラスは鳥の羽根と加工軸から構成された古代遺物を見た。


「思念で反応するのか?」

「馬鹿、手で握って、紙に直に書くんだ」

「ああ、カイルがそんな手段で絵を描いてたなあ。でも、どこにインクが入っているんだ?ペンならカイルのために取り寄せたことがあるが、あれも頼まれた紙と同様に古代遺物みたいなもんだったぜ?」

「鉱物や植物から色つきの液体を作る。それにつけて、この道具で文字を書く。ペンを使って紙もしくは羊皮紙にサインすることが通常だ」

「…………羊皮紙…………」

「動物の皮を処理の手間をかけて、紙の代用品にしているんだ」

「そっちの方が人件費がかかって高級そう……」

「残念ながら保存と品質に難がある」

「原始世界ってわかんねぇ……」


 サイラスは用意された複製ペンを手にしたが、それは瞬殺された。


「…………」

「…………」


 ディム・トゥーラは、粉砕された複製品をしばし見つめたあと、片手で顔を覆って嘆いた。


「…………なるほど、これが噂のサイラスのペン破壊行動か……。カイルが頭を悩ませるのも納得だ」

「いや、これ、耐久性能がおかしいって?!」

「地上文明に最新の耐久性能を求めるな!」

「こんなの、俺専用の耐久ペンを制作して持ち込めばいいだろう?!」


 ディム・トゥーラはサイラスの言葉に納得しかけたが、首をふった。


「公の場で用意されたペンを使う場面がないとも、言い切れない。特に契約や交渉の場においてペンを折れば、破棄か宣戦布告と取られかねない」

「そんな重要な場に、俺がかかわらなければいいじゃん!」

「いや、むしろカイルや俺の代理人になることもあると想定するべきだ」

「握力を減らすと、イーレの長棍の一撃で、武器を弾き飛ばされるんだよ」

「握力の設定基準が間違っている。もっと臨機応変に変更できる仕様にすればいいだろう」

「イーレの奇襲に対応できないじゃないかっ!」

「奇襲…………絶対にお前達の師弟関係はおかしい」

「……ほっとけ」


 痛い突っ込みに、サイラスはそっぽを向いた。


 面倒くさい――その一言につきた。

 しかもカイルやディム・トゥーラの代理人であって、イーレではない。


 師匠であるイーレは西に位置する戦闘民族の地に滞在し、そこの次期族長の男に嫁いだ、と説明を受けた時にサイラスは卒倒しそうになった。


 結婚?

 イーレが?


 そんな言葉は、イーレの辞書にはないと長年確信していたサイラスは愕然とした。

 戦闘民族の内戦を未然に防ぎ、統一するための本人達の了承の元の政略的婚姻だと言われても、イーレにも好みというものがあるはずだ。彼女が己の好みを捨てて妥協するとは、サイラスには思えなかった。


 その次期族長の男は、筋肉もりもりの熊男(くまおとこ)に違いないとサイラスが言えば、ディム・トゥーラが「よく、わかったな」と肯定し、サイラスはさらに絶句した。

 イーレは自分より強い男が好みで、研究都市にそんな存在はなかった。地上の未開の文明にいるとは、盲点だった。


 おのれ、熊男(くまおとこ)め――師匠をたぶらかした地上に筋肉男に対するサイラスの敵愾心(てきがいしん)は既に臨界突破していた。


 すぐに降下したい。

 だが、降下できない。

 さらにストレスがたまった。

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