(31) 第1回メレ・アイフェス集合会議⑥
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「まあ、イーレ様、奇遇ですね。私も初耳ですの」
不意にカイルの背後からイーレに対して声がかかった。
もちろん、声の主はファーレンシアだったが、そこに込められた温度は、明らかに氷点下であり、カイルが凍死するレベルだった。
「カイル様、婚約式の前に顔を怪我されたという話は事実ですか?私は当時、全く知らないのですが、おかしなことですね」
カイルが何か答える前に、ファーレンシアはちらりと専属護衛達に視線を向け、追求の相手をあっさりと変えた。
「ミナリオ」
「……メレ・エトゥールには、報告をあげております」
当時現場に居合わせた専属護衛のミナリオは、遠回しにファーレンシアに伝えなかったのはエトゥール王の判断だ、との意味をこめたが、その言い訳は事態の悪化を招いた。
「なるほど。お兄様に報告をあげるほどの出来事があったというのですね」
「うっ……」
メレ・エトゥールの妹姫は、さすがに兄の性格と行動パターンを知り尽くしていた。
「そして私の耳に入ると、私が激しく動揺する類ですね?ミナリオ、アッシュ、カイル様はどのような状況で怪我をしたか私に説明しなさい」
「……ファーレンシア」
「カイル様はしばらく黙っていてください」
カイルはピシャリと言われた。
観念して説明のために一歩進み出たのは、意外なことにアッシュの方だった。
「ご説明します。婚約の儀で、特別な市がたっていたので社会勉強と称して、カイル様は街中の散策を希望されました」
「あら、ズルい」
ファーレンシアの漏れでた言葉に、当事者のカイルは驚いた。黙ってろ、と言われたことを忘れて思わず伴侶に突っ込んだ。
「えっ?それってズルいことなの?」
「ズルいですわよ。女性の方は、ドレスや髪や装飾品などの最終チェックの多忙の中、男性にそんな余裕があるなんて……私だって市を見て見たかったです」
「ゴメンナサイ」
一人だけ楽しんだのは事実なので、カイルは素直に謝った。
「それで?」
「突然、カイル様が拉致られ、行方不明になりました」
「「は?」」
イーレとファーレンシアは同時に驚きの声をあげた。
「犯人は四つめ使いでした。不可思議な遁術で、カイル様と共に姿を消してしまったのです」
「ああ……アードゥルの瞬間移動ね」
事情を察したイーレは、額を抑えて埋めいた。
アードゥルはイーレの原体であるエレン・アストライアーと夫婦であったという過去があった。アードゥルは己の知らない間にクローン再生を施されたクローン体であるイーレの存在に激怒していた。
今はもう解決した事案とはいえ、イーレとアードゥルの関係性は複雑極まりなく、周囲の人間が最大限に気を使うことでもあった。
しかも、アードゥルはイーレの弟子であるサイラスを東国で殺しかけている。
「幸いミナリオがクトリ様に作っていただいた『位置表示機能』とやらの腕輪で場所が特定できましたので、かけつけることができました」
皆が最大の功労者である少年姿の賢者を見つめた。
いきなり注目されたクトリの方が慌てた。
「いや、僕は皆さんのリクエストに応じただけで……あれは単純なただの追跡システムですよ」
「しかし、あれがなければ我々は途方に暮れたと思います」
アッシュは淡々と語った。
「四つ目使いから、カイル様を奪い返しましたが、すでに頬を切られたあとでした。この事態は、我々が四つ目使いより怖い存在に立ち向かわねばならない事実を示しておりました」
「四つ目使いより怖い存在?」
「当時、婚約式の成功に命をかける城の侍女達です」
「…………………………………………」
「…………………………………………」
説明を受けた二人の女性は黙り込んだ。
特にファーレンシアは複雑な表情を浮かべた。侍女達がファーレンシアの婚約の儀に燃えていたことをよく理解していた。
初社交を騒動のために、台無しにされた分を取り返そうとした侍女達の並々ならぬ熱意をファーレンシア自身が感じていたからだ。
そこへアッシュの独白が続く。
「私ごとですが、この失態に侍女達に八つ裂きにされるか、切腹かの究極の選択の場合、私は間違いなく後者を選びます」
「…………確かに八つ裂きにされますね……」
ぼそりとファーレンシアが肯定し、エトゥールの内部事情に疎いイーレの方が思わぬ二人の発言にギョッとした。
当事者であるミナリオも、アッシュの言葉にうんうんと頷いている。
「ちょっとカイル、エトゥール城の権力図ってどうなっているのよ?」
「普段はセオディア・メレ・エトゥールの支配下だが、ある時期と分野に関しては、女官長以下侍女達が最高権力を持つことがある。逆らうことは許されない。メレ・エトゥールから忠告を受けた」
カイルは真顔で答えた。