(30) 第1回メレ・アイフェス集合会議⑤
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「そんなにパワーアップしている自覚はないんだけどなあ」
カイルは無意識に自分の右手を見下ろした。
世界の番人と体内で同調をした当時は、周囲に影響を及ぼさないように、常時気をはりつめていたが、最近は慣れた。
体調がよいわけでも、悪いわけでもない。極めて標準的な健康状態といえた。
「貴方は、いつでも自覚のない規格外でしょう」
シルビアはカイルの反応に対し、無表情のままそっけなく言った。
カイルはその言葉に唇をとがらせて抗議した。
「シルビア、その言い方は傷つくよ」
「――と、ディム・トゥーラが言ってました」
うっ、とカイルは詰まった。
その規格外の人物の支援追跡者であるディム・トゥーラは、カイルにとって伴侶であるファーレンシアと同格ぐらい頭があがらなくなる存在だ。カイルが能力の暴走などの破綻を回避できているのは、彼のおかげでもあった。
そんな彼が言っていた――と、言われればカイルには抗議すら許されない。迷惑をかけている立場としても。
中央の将来の技術官僚を辺境の原始文明惑星に足止めしているという事実は、カイルに否定することはできない。中央と研究都市の管理関係者が事実を知ったら、卒倒しかねないだろう。
ディム・トゥーラを快く観測ステーションに送り出すことができたのも、彼が拘束されて中央に強制送還される先見がなかったという隠れた理由になる。
シルビア・ラリムの小言に近い指摘は、まだ続いた。
「最近の貴方には、何点か気になるところがあるんです」
「どういうところが?」
「まず一つは、あなたの精霊獣の成長が遅いことです」
「遅い?トゥーラが?」
技術支援者であるディム・トゥーラと同じ名前を持つ精霊獣を、カイルは顧みた。
この名づけは、長い間ディム・トゥーラの怒りを買った。獣に俺の名前をつけるとは、なにごとか、と。
大災厄後、再会した精霊獣は、シルビアの指摘通り、子供の白い狼のままだった。大きさ的にはカイルの娘のよい遊び相手になっている。
「以前、長期に意識を消失した時、あなたの精霊獣は急成長したではないですか。それと比較すると、今回明らかに成長が停滞しています」
「あの時、僕は眠っていたから、トゥーラがどんな成長過程だったか知らないよ?」
「誰も知りません。気が付いたら、貴方の枕元で成体になっていましたから。精霊獣は主人の思念強度や意志などで成長すると思われるのに、貴方のウールヴェの成長が止まっているなんておかしいじゃないですか。貴方の規格外の思念エネルギーはどこで消費されているのですか?」
「――」
思わぬ仮説と指摘事項にカイルの方が困惑した。
二人は間近にいるトゥーラをそろって見つめた。
――僕、わかんないよ
子供の狼は正直に告げた。
――僕はできる優秀な子だけど、姿が変わらない理由はわからない。問題ある?
「トゥーラ、いいのですか?」
シルビアはトゥーラを見下ろした。
「このままだと事情を知らない人には、ファーレンシア様の精霊獣の番の相手というより、産んだ子供に思われますよ」
めちゃくちゃ明後日の方向の指摘だったが、きいていた周囲の人間は納得した。確かに。
シルビアが思わぬ指摘をしたとたん、トゥーラは尻尾を太くした。衝撃を受けている証拠だった。
――僕、成長する!すぐ成長する!絶対成長する!
どうやら精霊獣が所持する辞書にも『見栄』とか『プライド』とか『男の沽券』というものが確実にあるようだった。
――かいる 僕に『規格外の思念えねるぎー』をちょうだい。食べて成長する。
「僕の思念エネルギーをそこらに大量にある林檎と同格にしないでくれ」
トゥーラの食欲の無限を知っているカイルは顔をしかめた。下手をしたらカイルの能力がロニオスのように枯渇しかねない。
「シルビア、余計なことを言わないで」
「成長は大事だと思います」
「ちょっと待って、シルビア。私も今のあなた達の会話で気になる点があるわ」
イーレが会話に割り込んだ。
「どこらへんでしょうか?」
「私、カイルが婚約式の前に顔を怪我したなんて、初耳なんだけど?」
カイルの周囲の空気が一気に冷えた。専属護衛であるミナリオとアッシュの顔色は、明らかに悪かった。
「あらあら、専属護衛の方も、事情をご存知のようね。報告してくださる?」
にっこりと西の民の装束の子供が愛らしく笑う。それは先ほどリルを傷つけたウールヴェ達に激怒した姿より、なぜか迫力があった。
特にカイルはその表情を見たことがある恐怖の記憶があった。イーレの実年齢を正確にあてて殴り飛ばされた時である。