(29) 第1回メレ・アイフェス集合会議④
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この状態では、話し合いも落ち着いてできない。
カイルはめったにしない「命令」を発することに決めた。
「リルとサイラスのウールヴェは、客間で寝ているリルの元に行くように。彼女なら輪切り肉とは無縁だ。今後、リルを護衛すること。リルの安全を専属護衛のアッシュと連携して確保する――それが当面の仕事だ」
二匹は、逃亡するかのように即座に命令に従った。命拾いしたという露骨な安堵の思念がカイルに伝わった。
「クトリとアッシュのウールヴェは、それぞれ主人の指示に従うように。クトリ、アッシュ、前のように世話を頼む」
「承知しました」
「はぁ、いいですが……」
次の二匹は元の世話役の元に素直に移動すると、その腕に両手両足と尾までからませ、しがみついた。まるでそれが命綱だとわかっているかのようだった。
クトリとアッシュは揃って自分にすがってきた精霊獣に同情に満ちた視線を落とした。世の中には絶対に逆らってはいけない存在というものがあるのだ。
残りの一匹は、カイルの頭にしがみついたままだった。イーレが世話をしていた仔竜だった。
カイルはイーレと視線があった。
「…………」
「…………」
イーレはニヤリと笑った。
そのとたん、仔竜はわかりやすく硬直した。
「お前は――イーレの怒りが収まるまで僕のところにいなさい。イーレ、イーレが野生のウールヴェ以外を食したら、信仰心の厚い西の民達が大混乱に陥いる。若長の妻なんだから」
「食の自由は許されるべきだと思うの。食材や調理方法が食の文化発展の基本でしょ?」
「そこに民族や宗教の特性による影響も忘れずに加えてくれないかな?」
「影響を考察するために実験は必要かもしれないわね」
イーレの言葉に、仔竜はさらにカイルの頭にしがみついた。ガタガタとおびえる振動で、カイルの頭も揺れた。
「イーレ、仔竜を脅して遊ばないで」
「バレた」
イーレはイタズラがばれた子供のように舌をだした。
実際、イーレの10代前半の外見はここ数年変化がない。いつのまにかリルの方が成長して身長も胸も外見年齢も逆転している状態だ。地上の人間はカイル達に比べて、成長が早く、はるかに短命なのだ。
「で、今後の方針なんだけどさ……」
「とりあえず、ディム・トゥーラの情報待ちしかないでしょう?あなたがウールヴェのトゥーラを観測ステーションまで飛ばせないのなら、打つ手なしよ」
イーレは肩をすくめて見せた。
以前のように、ディム・トゥーラの元にウールヴェのトゥーラを派遣できないのは、確かに痛かった。
イーレは言葉を理解し、人間くさく落ち込んでいる白い狼の子供を見つめた。
「なんでロニオスも、トゥーラも空間を跳躍できなくなったのかしらね?シルビアやファーレンシア様のウールヴェは、前と同じように空間を跳躍できて伝言も運べるのに」
「彼等には、大災厄後に生まれたという共通点はある」
「すると、貴方が世界の番人を取り込んでいるから?」
「可能性としては、あるね」
カイルはその点を認めた。
「世界の番人がどのくらい精霊獣に影響を与えているかは、誰も知らないことだ。僕だってわからない」
「興味深い話題ですね」
リルの様子を見に行ったシルビアが戻ってくると、会話に加わった。なんといっても、シルビアは世界の番人の友人を名乗るほど、その不可思議な存在に好意的であり、かつ友好的だった。
「リルは?」
「よく寝ています。まるで薬が投与されたかのように。感染症の心配はありません。まあ、精霊獣は清潔で野生動物というわけではないし、元よりリスクは低いでしょう。それより――」
シルビアはカイルをじっと見つめた。
「カイル、貴方の治癒の技術がパワーアップしていませんか?」
「は?」
カイルは指摘の意味がわからず、きょとんとした。
「パワーアップとは?」
「以前、貴方が婚約式寸前に顔を傷つけた時は、傷が治っても皮膚組織が新しいという痕跡があったのですよ。今回のリルは顔や腕にそういう名残りすら見つけられませんでした」
「それっていいことでは?」
カイルはこてっと首をかしげた。
「年頃の女の子に傷跡が残るのは、忍びないし」
「言葉を言い換えましょう。貴方の細胞組織の再生能力は、地下拠点の再生ポット入らずのレベルです。以前であれば、精霊樹や聖堂の癒しの力、世界の番人の助力などいろいろな要素がありましたが、今の現状から弱くなる要素は多数あっても、パワーアップする理由がよくわかりません」