(28) 第1回メレ・アイフェス集合会議③
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当然、ディム・トゥーラは多忙のため定時連絡時間に接触ができないことはよくあった。ただディム・トゥーラは律儀に時間変更の伝言を精霊獣を通じて残す性格だった。
何かあったかもしれない。
カイルは考え込んだ。
だが、彼の白い虎型の精霊獣に変化がないということは、身の安全に関することではない。主人のディム・トゥーラが危機に陥れば、精霊獣は間違いなく駆けつけるために空間を跳躍するだろう。それにカイルも異変に気づくはずだった。
となると、地上に連絡する暇がない、持っていった報告書の件で追求を受けた――が一番可能性がありそうだった。
ロニオスの助言を元にディム・トゥーラの作成した一連の報告書は、非常に癖の濃いものとなった。
従来、探査惑星の地上文明との接触は禁止されている。
今回のこの惑星に限り特別に認可されていた理由は、恒星間天体の落下による文明滅亡が予測されていたからだ。どんなに地上文明に影響を与えても、恒星間天体の落下が確定していたこの惑星上の文明は滅亡する運命だった。隕石衝突による巨大津波、地軸の変化、舞い上がった粉塵による太陽光の遮蔽効果による急激な温度変化、食物の不足による飢餓の発生、暴動、戦争による死者の増加は、全て文明滅亡の要素であり、やがてくる氷河期が文明にとどめをさす。
それをカイル達がひっくり返した。
それがカイル達と世界の番人という精霊達の強引な力技で回避した。それに加えて、惑星で生存していた残留組の初代探索達の協力があったからだ。どれも報告書にかけないことばかりだ。
それをディム・トゥーラとロニオスは、文明滅亡の回避の原因と理由を捏造して報告書を作成した。
いったい彼等はどう報告書を書いたのだろうか?
カイルがどんなに懇願しても、二人は報告書をカイルに見せようとはしなかった。
とても気になる事案だった。
「……サイラスが起きたのかも……」
イーレが、ぼそりと呟いた。
「サイラスが?クローン再生が終わったということ?」
「クローン再生の申請と、再生槽の移送はお願いしたからジェニ・ロウなら、叶えてくれたと思う。問題はどこで起きたかで――」
「はい?」
「中央地区や輸送途中のシャトルのなかで再生が完了していたら、詰んでるわ」
意味不明の発言だった。
「イーレ、意味がわからない」
「以前、言ったでしょ?あの子、そういう前科があるって。信頼できる人間がそばにいないと、人間不信の塊だもの。ブチ切れて暴れるの。シャトル強奪とかしてなければいいけど」
「そんなことをしたら指名手配犯になるのでは?」
「そうね。もみ消すのは骨がおれたわ」
「…………………………………………」
「どうする?恒星間天体のあとに、観測ステーションが地上に落下してきたら?」
憂えたようにイーレは言った。
「ちょっと待って?!なんの話?!」
「観測ステーションが制御不能になって落下してくる話」
「なんでそんな話になるの?!」
「あの子、その気になれば、観測ステーションなんて楽勝で制御不能にするから」
「待って待って待って。その前提は何かおかしい」
ディム・トゥーラの連絡不能が観測ステーションでの暴動騒動の結果とは考えたくなかった。
カイルは思わず、娘のそばに白い虎を振り返った。今日も変わらず楽しそうに虎と戯れている。
知らない人が見たら卒倒しそうな光景だろうが、ファーレンシアや侍女達はそのほのぼのとした光景を見守っている。
「だいたいサイラスが、イーレやリルがいる地上を危機にさらすわけがないだろう?」
「そういえばそうね」
イーレはあっさりと説をひっこめた。
「まあ、僕もサイラスが目覚めたとは思うよ。サイラスの精霊獣が起きたから、その可能性は高いと思う」
「そうね」
「問題は別にある」
「別?」
「リルに怪我させた精霊獣をサイラスが許すかということだよ」
二人はそろって、五匹の仔竜達を見下ろした。
「そうねぇ」
イーレは頬に手を当てて、熟考した。
「みんなで輪切り肉を美味しくいただくというのは?」
「却下」
「サイラスが目覚めた可能性があるなら、なぜリルにそれを告げないのですか?」
クトリ・ロダスは、不服そうに抗議をした。クトリは、リルがどんなにサイラスを慕っていたか、身をもって実感した一人でもあった。リルはサイラスの死を自分が元凶だと責めて心を病ませた時期があった。
「目覚めたと、地上に再降下できるは同義語じゃないからよ。それにディム・トゥーラから報告がカイルにあがってきていないの。大なり小なり問題が発生しているのは、確かね」
イーレは、ちらりとカイルを見た。
カイルは腕や肩、頭までもが5匹の仔竜達にしがみつかれている。イーレの輪切り肉パーティの提案から、この状態になっている。まるでカイルが最後の防衛の砦の扱いだった。
カイルはため息をついた。




