(27) 第1回メレ・アイフェス集合会議②
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カイルはイーレの思念を遮蔽することで、仔竜を恐慌状態から救った。
「イーレ、その精霊獣を見て、肉の味がどうだろうかと想像する癖はやめてくれないかな?」
「野生のウールヴェの肉が入手困難になって飢餓状態なのよ」
西の民の民族衣装に身をつつむ子供は、さらに怖いことをいい、聖堂内に待機している全精霊獣達の怯えがカイルに直射された。カイルは深い溜息をついた。
シルビアが空気を変えようと片手をあげて、カイルに話しかけた。
「サイラスの精霊獣の主人でもない私が一緒に呼びだされたわけは、なんですか?」
「情報を共有しておこうと思って、ね」
「情報の共有?」
「今朝、サイラスの精霊獣が目覚めた。それでリルがここに彼等を連れ込んだわけだけど、その際にリルに怪我を負わせている」
「「「「は?!」」」」
全員が唖然とした。
敵対もしていない相手に精霊獣が怪我を負わせるとは、前代未聞の事件だった。
「怪我の程度は?」
医療担当者であるシルビアの切り替えが早かった。
「顔や手、腕に仔竜の爪や牙でできた線傷と咬傷。傷口は消毒して僕が癒した。聖堂の客間で休んでいる」
「あとで血液検査をして、感染症の危険がないか確認します。抗生物質も用意します」
「よろしく頼むよ」
カイルは周辺の気温が低くなったような気がした。
いつのまにかイーレの手元に愛用の伸縮自在の長棍が握られていた。
「…………私の新弟子を傷つけた馬鹿仔竜は、どれなの?」
地獄の底から聞こえるようなドスの聞いた低い声の問いかけに、周囲の人間の方が恐怖に青ざめた。それは修羅場に慣れている専属護衛のアッシュも例外ではなかった。
イーレがぶち切れることは、カイルには計算外だった。しかもリルが『新弟子』とは初耳だった。
元凶の仔竜達もその威圧に悲鳴をあげ、5匹とも一番安全であろう場所に逃げ込んだ。すなわち、カイルの背後に。
「イ、イーレ、落ち着いて」
「…………どれなの?」
「いや、どれというか……」
「…………連帯責任でもいいわよ?」
「僕を連隊責任に含めてないよね?!」
カイルは突然の危機に青ざめた。
鬼の形相でイーレは、カイルの背後にいる精霊獣達を見下ろした。
「精霊獣は世界の番人の管理下にあるわよね?その世界の番人がカイルと同化しているなら、精霊獣の責任者は、カイルであってもいいわけよね?」
「その理不尽な方程式は、断固拒否する!」
カイルも矛先の回避に必死だった。
「……で、リルに怪我を負わせたことは事実なの?」
仔竜達は、その直接的な問いかけにガタガタ震えだした。
「おろす……」
「は?おろす?」
「3枚におろして、肉をあぶって食べてやる……」
「……それって、西の民の伝統的な魚の裁き方だよね?」
「輪切りでもいいわよ?」
決定的な言葉に、仔竜達は尻尾を垂直に立てて怯えた。
サバイバル精神に長けているのは、弟子だけではなかったという事実にカイルはようやく気付いた。いや、逆だ。サイラスのサバイバル精神を鍛えたのは、師匠のイーレなのだ。
ブルブルブルブル。
精霊獣は人の心の動きを読むことができる。その精霊獣達はイーレの言葉を本気だと感じているのだ。
「イーレ、それくらいにして」
「どうして?躾は必要だし、女の子の顔を傷つけるなんて許し難いわ。万死に値するわよ」
「リルとだって絆が生じているから、仔竜達を殴れば衝撃がリルにいく」
カイルの言葉に消火作用があったようで、爆発炎上していた威圧が瞬時に消失した。
「僕も叱ったし、何よりもリルが大事にしているサイラスの精霊獣達なんだよ。だからね……?」
カイルは両手をあわせて、見た目だけは自分より若い上司に懇願した。
ちっ、とイーレは舌打ちをした。
「リルに衝撃が行くのは、いただけないわ。命拾いしたわね、あんた達」
イーレはまだ仔竜達を睨んでいた。
「僕が癒したし、傷跡も残らないよ」
「そう、それはよかった」
イーレはほっとしたようだったが、釘をさすことを忘れなかった。
「………………二度目はないわよ?」
カイルと全く同じ脅し文句に、仔竜達はわかったというように激しくうなずいた。
「よし、一つ議題は解決ね」
ようやくイーレは持っていた長棍を引っ込めた。
「議題?」
「全員を召集した会議なんだから、この件は議題でしょ。あら、全員じゃないわね。ディム・トゥーラはどうしたの?」
「彼は一週間前に報告書を持って観測ステーションに戻っている」
「南の移動装置を使って?」
「そう」
南の移動装置は、サイラスが地上に降下する時に定着したものだった。ありえないことに、世界の番人の干渉で目標地点より南に500キロほどずれて定着した。
サイラスとリルはその重大事故をきっかけに出会っている。まだリルが10歳の頃の話だ。
「彼からの定時連絡が今朝から途絶えている。何かあったと思う」
サイラスの精霊獣が目覚めたのは今朝――奇妙な符合だとカイルは思っている。ディム・トゥーラは自分の精霊獣を地上に残し、それと同調することでカイルと連絡をとっていた。