(25) 吉兆
お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。ブックマークありがとうございました!
現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)
とりあえず直近の問題は解決し、リルはほっと息をついた。
リルが恐れていたことは、彼等が揃って行方不明になることだった。仔竜達は身体は小さいといえ翼を所持していたし、精霊獣は簡単に空間を移動できる能力を持っていた。
彼等が嫌がってどこかに旅立てば、リルに追跡する手段はなかった。それはそのまま再びカイルの手を煩わす可能性があった。
「どうしてこの子達は突然、目覚めたのでしょうか?」
リルはカイルに抱いていた疑問をぶつけた。
「ずっと冬眠しているかのように反応がなくて、身体が水晶のように透けていく一方だったのに……今朝、起きたらこの有様で……私も混乱して、カイル様を訪問することしか思いつきませんでした」
「僕を思い出してくれるとは光栄だし、精霊獣に関しては正しい判断だったと思うよ。何せ、ここに彼等の統率者がいるからね」
カイルはにこりとして、自分の胸を軽く叩いてみせた。
「やっぱり、『世界の番人』は精霊獣の統率者なんですか?」
「そうみたいだね、僕にもまだよくわからないけど」
「すると、世界の番人が彼等を起こしたんでしょうか?」
「う~ん、どうだろうか?もしかしたら、サイラスが起きたのかもね」
重大な問題をさらりと言われ、リルは一瞬処理落ちした。時間差でカイルの言葉が頭にこだました。
サイラスが起きた。
サイラスが起きた。
サイラスが起きた。
「えええええええええ?!!!」
リルは礼節知識をかなぐり捨てて、無礼にもガシッと両手でカイルの着ている長衣を掴み、発言者を逃すまいとした。
カイルの方がリルの迫力に怯んだ。
「リ、リル?」
「カイル様っ!本当に?!そんなことが?!そんな可能性が?!サイラスが起きたかもしれないと?!ねぇ、本当ですか?!あ、いや、冗談だとかいうオチですか?私、泣きますよ?からかったのなら、泣きますからね?本当に泣きますよ?」
それはほとんど恐喝に近く、興奮したリルの両目は、すでに涙で盛り上がっていた。
カイルは予想外のリルの激しい反応に焦った。
「ごめん、確信があるわけではないし、そういう可能性があるって話で――わぁぁ、待って待って、からかったわけではないのに、なんで泣くの??」
――泣かせた
――泣かせた
――泣かせた
リルの精霊獣達がカイルを睨んでいる。その身に世界の番人を宿していても、大切な主人を泣かせた時点でカイルの評価は大暴落していた。
『見事に泣かせたな』
ロニオスが追い討ちをかけるように言った。
――また姫みたいに泣かせたね。かいるの得意技だよ。
カイルの精霊獣であるトゥーラも、主人を庇うどころか容赦なかった。
『それを得意技としていいのか、いささか疑問だが?しかも女性に対してのみの発動技術ではないか。罪深い男というべきか……』
――本当に親の顔がみたいよね
子狼姿のカイルの精霊獣は、隣の白猫から強烈な猫パンチをくらった。
「もう、しょうがない方ですねぇ」
場を収めた救世主は、ファーレンシアだった。もちろんそれはカイルに向けられた言葉だった。
「カイル様はもう少し、女心というのを学んでください」
「女心…………めちゃくちゃ難易度が高いよね?それって」
「難易度が高いと思う時点で、修行が足りていません」
「…………はい、精進します……」
伴侶に反省を促したファーレンシアは手巾で、リルの涙を拭うと少女を優しく抱きしめた。
「ファーレンシア様ぁぁぁぁ」
「サイラス様のことは、まだわかりませんが、精霊獣が目覚めたのは吉兆です。よいことですよ」
ファーレンシアは抱きしめながら、リルの背中を優しく叩いた。
「ほ、本当に?」
「ええ、間違いなく」
先見の能力を一時的に失っているとはいえ、西の民のナーヤに匹敵するエトゥールの姫巫女の言葉は、まるで黎明時の柔らかい光に似ていた。
「大丈夫ですよ。大丈夫。全てはいい方向に行きますから」
「……ファーレンシア様……」
「さあ、泣き止んで、その顔と腕の傷をカイル様に癒してもらいましょうね。サイラス様がいつ戻ってきてもいいように」
「………………はい……」
「サイラス様用の長衣を用意する時間も必要ですよね?リル、一緒に刺繍をしますか?」
「は、はいっ!」
「サイラス様にあう布と刺繍糸も選ばないと――でも、その前にカイル様の癒しですよ」
ファーレンシアは見事な手腕でリルを泣き止ませると、リルの身体をカイルの前に押し出した。