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(24) 裁定者

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

「リル、大丈夫だ。サイラスの精霊獣(ウールヴェ)が消えるなら、とっくの昔だよ。それに目覚めたことは、悪いことじゃない」

「本当ですか?」

「本当だとも」


 最悪の事態を想像して(おび)えているリルにカイルは微笑んでみせた。それは周囲を安心させる知恵者(メレ・アイフェス)の信頼できる笑みだった。

 リルは落ちつきを取り戻した。

 この五匹の精霊獣がこの世から消え去ることはない――それだけでも、ここに汗まみれで(かご)を抱えて訪れた甲斐はあった。


「でも、僕はこいつらを許すつもりはないよ?」

「……………………はい?」

「リルの顔や身体に傷をつけたウールヴェには、それなりの落とし前をつけさせてもらう」


 それは思わぬ言葉だった。

 リルはカイルを(おだ)やかな気質の男性だと思っていた。それは過去の舞踏会(ぶとうかい)御前試合(ごぜんじあい)で苛立つサイラスの(なだ)め役に必ず回っていたからだ。短気で喧嘩(けんか)(ばや)いのは、サイラスだった。


「カイル様がサイラスみたいなことを言ってる……」


 思わず本音が声に出てしまった。リルは慌てて口に手を当てたが遅かった。


「何を言ってるんだ」


 カイルが不機嫌にリルの言葉に抗議した。


「ああ、すみません、サイラスならそんなことを言いそうだな、って……」

「サイラスだったらこんな穏やかに済むはずがないだろう?」

「……………………はい?」


 サイラスの評価が予想以上に低かった。いや、先程のカイルの発言は『穏やか』な部類だっただろうか?


「カイル様?」

「サイラスがこの場にいてごらん。絶対にリルを傷つけたこいつらを許さない。例え自分の精霊獣であってもだ」

「はい?」

「つるし上げて、動物愛護者に批判を受けるぐらいのことはやりかねない。そもそもサイラスは精霊獣に愛着はないからね。怒り狂ってこいつらの生皮を剥ごうとしているサイラスを止めるのは、僕達でも難儀なことだと思うんだ」


 なぜだろう。カイル様が言う光景が容易に想像できる――リルの脳裏に悪鬼のように怒り仔竜達にナイフを突きつけているサイラスと必死にとめるリルとカイルの姿が浮かんだ。


 リルは床にこんもりと山積み状態になって気を失っている仔竜を見下ろした。どうやら気を失ったふりをしていたらしく、カイルの言葉に床の塊はガタガタ震えだしていた。


「君達、起きているよね?そこに並びなさい。今から説教だ」


 あんなにリルを困らせた仔竜達は、カイルの前に一列に並んだ。従順なのはカイルの計り知れない威圧と、カイルの中にいる存在を察したからに違いない。


「リルとリルの精霊獣を傷つける行為は絶対に許されない。二度目はない」


 カイルは冷たく言った。


「裁定者が僕だったことに感謝したまえ。君達の本来の使役主は、君達を捌いたあとに火で炙って食すぐらいのサバイバル感覚に長けている人間だ」


 言えてる――リルは、カイルの絶妙な表現に内心同意した。初めて会った頃は、野営経験が豊富な変な東国のお貴族様だと思ったものだ。

 リルの思考を感じ取ったのか、五匹の仔竜達が怯えの涙目でリルを見つめてきた。その目が懇願しているのは、明らかだった。


――マジで?嘘だと言って?


 リルは無情にも、精霊獣達に首をふってみせ、ウールヴェ達を絶望のドン底に突き落とした。


「君達の使役主にとりなすことができるのは、リルだけだ。君達は今後、リルとリルの精霊獣を護ることが最優先だ。逆らうことは許さない」


『どこかできいた命令だ』

――本当だね。もう少し言い方は優しかったけど


 白い猫とカイルの子狼の思念をリルは拾った。

 リルと視線があった白猫はにやりと笑った気配があった。


『君の固有名詞を姫の名前に変えた似た命令を最近、この幼な子にしている』

――有事の際は、姫を護ることが僕の最優先


 子狼は胸をはった。小さい姿になってもトゥーラはトゥーラだった。リルは少し笑った。

 ロニオス達の暴露に話題の夫婦は顔を真っ赤にした。


「そこ、うるさいよっ!」


 カイルは、それから精霊獣達に長々と本当に説教をした。仔竜達も項垂れて聞いている。まるでその姿は、とんでもない悪戯をして親に怒られている子供だった。

 だがカイルの説教は、仔竜達が認識するリルの地位の大いなる下剋上に役立った。

 あれだけ無礼(なめ)くさっていた態度が消え、本来の使役主にとりなすことができる偉大な権力者のような尊敬の念をリルに向けて発している。

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