(23) 原則と例外
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「精霊獣は、意味なく人を傷つけない。サイラスの精霊獣がリルを傷つけるなんて、なおさらありえない」
「寝ぼけていたのかもしれないんですが……私のウールヴェ達も相手にされず転がされてしまって……」
リルの精霊獣はまたもやシンクロしているからのようにコクコクと頷いて、現状をカイルに訴えた。
カイルはようやくそれが事実であることを理解した。
「本当にサイラスの精霊獣が?」
「こんなこと、今までなかったんです!いつでも仲良くて、お互い尊重しあって、ずっと問題なく過ごしていたのに――何かおかしいような気がしてっ!……この子達をどう世話をしていいか、助言をいただけないでしょうか?」
『なかなか興味深い案件だ』
いつの間にか、カイルとリルのそばの卓に猫姿のロニオスが鎮座していて、リルはその気配を感じさせない接近に驚いてしまった。
カイルは即座に無神経な発言をした白猫の頭を反射的に叩いた。
『痛いじゃないか』
ロニオスはカイルに抗議した。
カイルはロニオスを睨んだ。
「そんな興味本位な発言をしないでくれないかな?リルは怪我を負わされたんだし、相手は家族同様に絆が深いサイラスのウールヴェ達だ。この問題を軽い研究課題のように扱わないで欲しい」
『まさしく研究課題だ――軽いか重いかはひとまず置いておくとして』
白猫姿のロニオスは、気絶している仔竜集団をちらりと見つめた。
『精霊獣は使役主の命令がなければ、人を傷つけることはない。それは原則だ。この世界で言う世界の番人――との決まり事と考えてもらっていい。もともと人のために生まれた存在であるのだから、人を傷つけては本末転倒だろう?』
「……人のために生まれた……」
猫はすまして答えたが、言葉の引用はリルにも理解できるようかみ砕く心遣いがあった。
リルはロニオスの発言に驚いた。彼の『原則』という発言に何かを感じた。
「あの……原則とは?使役主が命令すれば、人を襲うこともあるのですか?」
『あるとも。それを実行できるかは、使役主の加護の強さや、精霊獣との絆の強さもある。使役主に危害を加えるような人間を、精霊獣が放置するわけもなかろう』
「確かに、東国の宿で襲われた時、僕のトゥーラは撃退してくれた……ウールヴェが使役主に対する守護者のような存在であることは確かだけど……」
カイルはロニオスの発言に納得しているようだった。
「だが、リルのパターンには当てはまらないじゃないか」
『物事には「例外」という現象がつき従う。この場合、身近な例外をカイル・リードはよく知っているはずだ。そいつらは本能的に人を襲う』
「…………四ツ目……か……」
カイルの回答にリルはびくりと身体は震わせた。
『確かアードゥルが器用に従えていたが、あれは精霊獣の成れの果てだ。人の負の感情を吸い込んで人を害する魔獣に変化する。激しい怒り、憎悪、嫉妬、欲望――そういうものが精霊獣を魔獣に変化させる』
「この子達は魔獣ではありませんっ!」
リルは思わず叫んだ。
『四ツ目の話だ』
ロニオスは少女を安心させた。
『だが、ここに明白な事実がある。精霊獣は人を害する存在にもなれる。今回、なぜ、このような傷害事件が起きたのか?ただの精霊獣のじゃれあいにしては、顔に傷を残すなどいささかやりすぎだ。この仔竜達が特異な状況にいることは否定できないだろう?使役主の不在、世界の番人の衰弱、精霊獣達の長い休眠――何が影響要因だと思うかね?』
カイルは考え込んだ。
「世界の番人の衰弱」
『一番可能性のある要因だが、それだけではない。なぜなら他のウールヴェ達は正常だからだ』
「使役主であるサイラスが不在のため、絆が消失しているとか?」
『ありうることだが、その点で一つ矛盾がある』
「矛盾?」
『絆が消失しているなら、精霊獣は姿を消しているはずだ』
「あ、そうか」
カイルはロニオスの指摘に納得した。
『絆が消失するまでもないが、細く切れかかっているとかではないだろうか』
リルはロニオスの一連の発言に蒼白になった。その激しい心の揺れに気づいたカイルの方が、慌てた。
「……絆が完全に切れたらこの子達、消えちゃうっと?」
「ごめんごめん、誤解させたね」
カイルは解説を加えた。