(21) 食欲魔獣
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「うそっ!!」
前の晩には、半透明な彫像だった仔竜達が目覚めている。驚きのあまりリルは叫んでしまった。
半透明化していた精霊獣の身体は、元の皮膚色に戻っていた。だが、以前よりやや暗い色合いなのは気のせいだろうか。
いや、そんなことより彼等が目覚めたことの方が重要だ。
「……うそ……」
リルは両手をついて、いつもと違った状態のサイラスの精霊獣達を見下ろした。
あの日を境に深い眠りについていた仔竜達がもぞもぞと動いている。一匹、二匹……五匹とも覚醒していることをリルは指差して、確認をした。
しばらくその事実を認識することに時間がかかった。
「……うそうそうそ……なんで?……どうして急に?」
リルは混乱した。思考がまとまらない。
まだ、夢の続きだろうか?
サイラスの精霊獣が目を覚すことを待ち侘びていたはずなのに、リルは何か違和感を拭えなかった。なぜ、急に彼等は目覚めたのだろう?
リルはそっと手を伸ばして触れようとした。
5匹のうちの1匹は、リルの護衛用とサイラスが配分した仔竜だったが、リルの伸びてきた手に仔竜は歯を見せて威嚇してきた。
慌ててリルは手を引っ込めた。
こんなことは今までなかったことだ。精霊獣が使役主に対して威嚇するなど聞いたことがなかった。
「私よ?リルだよ?覚えていない?」
話しかけても仔竜の威嚇はおさまらない。
リルは自分の子狐を振り返った。
精霊獣同士なら意思の疎通が可能ではないだろうか。リルの期待を正確に把握して、子狐がドヤ顔で胸を張って仔竜の前に向かう。
「私に敵意はない。怖がらないで欲しいって伝えて」
仔竜と向き合い何かを話し合っていた。
話し合いは長かった。長いように感じた。その話し合いは唐突に終わった。
話にならん、というように仔竜が前足で、ぽーんと子狐の軽い身体を弾いた。コロコロと子狐が転がり、寝台からそのまま落ちそうになるのをリルが阻止した。
「ちょっと?!」
こんな乱暴な仕打ちは、初めてだった。
果敢にも2匹目の子狐が話し合いに向かったが、5分後には同じように転がされた。3匹目も同様だった。
眠る前はこうじゃなかった。
リルにも精霊獣にも、懐いていたし、微笑ましいくらい仲が良かった。何かがおかしい。
と、同時に腹が立った。
「ちょっと!世界の番人の御使いが弱い物イジメしていいの?!世界の理に反してない?!」
リルが叱り飛ばすと、仔竜が初めて怯んだ。――ということは、言語は通じている。怯んだ言葉は、なんだろうか?
「世界の番人に言いつけるわよ?」
びくり。
間違いない。粗暴になっていても世界の番人の御使いという立場は変わらないらしい。
リルは思案した。
「取引しない?」
リルは仔竜に話しかけた。
取引――商売分野ならリルの方がプロだった。この仔竜達は、リルとその子狐達を舐めている。取るに足らない存在だと見下しているのだ。
商人を舐めるなよ?
そんな扱いを受けた時の対応について、リルは慣れっこだった。子供だから、女だから、と様々な見下しを受けることは、商売をしていれば多々あった。
リルはにっこりと友好的な笑顔を見せた。本心はカイルに教わった遮蔽を駆使して、隠し通す。
「美味しい干し肉が食べられる場所を知っているの。そこに連れて行ってあげる。ただし、私や周りの人、その精霊獣に乱暴はしない。それが条件よ?」
妙な間があった。
逆にリルは取引の勝利を確信した。興味がなければ、即座に拒絶したに違いない。
だが、姿形はそれぞれあっても、これは精霊獣なのだ。
そして精霊獣の幼体には共通的特徴と矯正すべき救い難い欠点があるのだ。
食欲魔獣――そうあだ名されている。精霊の御使いの使役者だけが知る究極の悪癖だ。彼等の食欲に際限がないのだ。
ひそひそひそひそ。
リルに無関心な残りの四匹と、何やら談義が始まっている。リルはその間にやや大きめの蓋つきである藤カゴを用意した。
談義は終わったらしい。
代表は、すました顔でリルを見つめてきた。
明らかに『飯よこせ』だった。




